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人事院勧告でない「ジンカン」とは…=兆民「続一年有半」⑫

中江兆民「続一年有半」シリーズの12回目です。

 

 (二)無 始

 

 世界万有既に無始である以上は、造といふ事はないはずである。何となれば甲の形の前には、必ず何らかの形で存して居たものであれば、別に新に造る必要はないのである、自然に摩蘯化醇して他の形に転ずる以上は、何を苦しんで他の形を造ることを為さんやである。吾人死して形軀解離するが故に、精神独り存して生前の記憶を保つやう致したいといふ乎、それは都合は好いかは知らねど真面目には言へぬ不道理である。かつこの希望といひ都合といひ、吾人五尺の身に執着しての言ひ事であるといふことは、くれぐれも記憶して居てもらいたい。

 

 無始とは何であるか、およそ物は大小を問はず、皆無始でなければならぬはずだ。何故かといへば、始とはこの人界の語で、他にあつたものが目前に来るのか、他の形のものが目前の形に変じたのか、即ち蛾が卵を生じ卵が蚕を生ずる如く、一の形から他の形に変じても、吾人の①センチでかかる成行に気附かずしてまるでなかつたものが出来たかの如く思ふよりして始といふ語が意義を見はして来るのである。その実およそ何物も無より有なる道理はなく、研究を加ふれば必ず卵の蛾における、蚕の卵におけるが如くである。だから始といふ語は、真の意義即ち哲理的の意義はないのである。

 

 ①〔 浅 智 〕→意味〔あさはかな考え、奥行きのない表面的な智識や物の見方〕・類義語は〔浅 識・浅 陋〕・「糎」ではない

 

 翻て②ジンカン中の事物について言へば、「始て何々した」「始て爾々した」「始て来た」「始て去た」の如く、立派に意義を有して居ても、いやしくも実質即ち元素の抱合に成るものに関して、形色ばかりでなく本質にも始があると思ふと③タイビュウである。それでは真空より何かが出来て、排気鐘中より駒が飛出すといふが如き荒誕無稽の言となり了はるのである。

 

 ②〔 人 寰 〕→意味〔人の住む区域、人境、世の中〕・「人間」(ジンカン)ともいう・「塵寰」だと〔俗世間〕・この場合の「」は〔天下〕・「寰宇」(カンウ)は〔天下、世界〕

 ③〔 大 謬 〕→意味〔おおきなあやまち、大過〕

 

 (三)無 終

 

 されば世界万有が無始であるのは当然明白の事である。もし始があつたら大変で、意義もなき非論理となる。またこの世界万有は無終でなければならぬのである、有が無になる道理はない。

 

 およそ「無」といふ語は人寰中の語で、目前に見えなくなつた時に遣ふ語である。「金がなくなつた」「米がなくなつた」これ俗用の語としては意味があるが、哲学的では意味はない。金がなくなりはしない、己れの手より他人の手に移つたのである、米がなくなりはしない、己れの腹中に入りて滋養分と糞尿とに変じたのである。

 

 かくの如き訳合ひで、世界の大は愚ろか塵一つもなくなるものではない、即ち終のあるべきはずでない。もし一物でも無よりして有で、即ち始めがあつてその有が、また無になりて即ち終があるといふと大変な事で、非論理、非哲理、③ホウマツ、幻影、前後矛盾、自家④ドウチャク、大混雑、大混乱となり了はるのである。

 

 ③〔 泡 沫 〕→意味〔あわ、うたかた、はかないもののたとえ〕

 ④〔 撞 着 〕→意味〔考えなどの前後のつじつまがあわないこと〕・この場合の「」は〔つ・く〕類義語は〔矛 盾〕・「同着」ではない・「撞著」とも書く

 

 

 (四)無辺無限

 

 さてまた世界は前に現実派を駁した時に論じた如く、無辺無限である。

 

 これはさうなくてはならぬ。この世界は包容せざる莫きもので、もし千里、万里、億里、百億里で、世界の辺極があつてその外は真空であるといへば、真空もまた世界の領分であるが故に、終に辺極のあるはずはない。地球とか太陽とか太陽系天体とかは、㋐に限極であるであろうが、世界は限極であるべきでない。かつまた今日までの学術で真空といふものも実は極微⑤シヨウの気体の一団で、真の無ではないかも知れぬ。今日までの学術で一切万事を解決せんと欲するは⑥センモウといはねばならぬ。

 

 ㋐〔まこと・に〕→音読みは〔じゅん〕・「洵美」は〔ほんとうに美しい〕・「まこと」はほかに〔諒、款、諄、詢、摯、愨、悾、悃、恂、忱、亶、衷、孚〕などがある・この中から「誠悃」(セイコン)、「端愨」(タンカク)、「真摯」(シンシ)、「忱款」(シンカン)は熟語として覚えましょう

 ⑤〔 至 幺 〕→意味〔とても小さいさま〕・「」は〔ちい・さい〕と訓む

 ⑥〔 僭 妄 〕→意味〔分不相応ででたらめなさま〕・この場合の「」は〔いつわり〕・ちなみに「譫妄」だと〔意識障害の一種、意識が混濁し、錯覚や妄想などを伴う〕でここでは意味が不適当、「繊毛」だと〔非常に細かく短い毛〕でやはり不適切、「旃毛」だと〔けおりもの〕でダメ

 

 以上論ずる所ろに由れば、世界は無始無終である、即ち悠久の大有である、また無辺無極である、即ち博広の大有である。而してその本質は若干数の元素であつて、この元素は永久⑦ユウリし、抱合し、解散し、またユウリし、抱合し、解散し、かくの如くして一毫も減ずるなく増すなく、即ち不生不滅である。草木人獣皆これ物の抱合に生じ、解散に死するのである。

 

 ⑦〔 游 離 〕→意味〔原子が結合せずに存在すること、遊離とも〕・「」は〔あそ・ぶ〕〔およ・ぐ〕と訓む・「游弋」(ユウヨク)は〔狩などをしてのんびり游んで暮らすこと〕、「游鱗」(ユウリン)は〔とびうお〕、「游讌」(ユウエン)は〔酒盛り〕、「游禽」(ユウキン)は〔水鳥〕、四字熟語に「優游涵泳」(ユウユウカンエイ)があり〔ゆったりとした気持ちで学問や技芸の深い境地を味わうこと〕で「論語・為政・集注」の言葉

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2006.3  漢字学習スタート
2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
2007.10 1級合格①
2009.2 1級合格②

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