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今度は虫だ!也有が注ぐ温かい眼差しの意味を知れ=「鶉衣」(25)

江戸中期の俳人、横井也有の「鶉衣」(岩波文庫上・下巻、堀切実校注)シリーズの25回目は、「百虫譜」(前編下四七、上巻213~229頁)を取り上げます。魚の次は虫です。われわれが日常目にする虫にほとんどを網羅していると言っていいでしょう。也有がこんな小動物にも温かい眼差しを注いでいるのはなぜなのでしょうか。単なる虫オタクではなさそうです。一番最後のくだりにそのヒントが隠れているようです。かなり長い文章ですが一挙掲載。問題数がいたずらに細かく多いので多少読みにくくなっていることをお許しください。できうれば岩波文庫で原文を改めて読み通して見ることをお勧めいたします。




A)■の花に飛びかひたる、やさしきものゝかぎりなるべし。それも啼く音の愛なければ、α)★にくるしむ身ならぬこそ猶めでたけれ、さてこそ荘周が夢も此物には託しけめ。只B)■のみこそかれにはやゝ並ぶらめど、糸につながれ、1)にさゝれて童のもてあそびとなるだにくるしきを、「あほうの鼻毛につながるゝ」とは、いと口おしき諺かな。美人の眉にたとへたるC)■といふ虫もあるものを。

子を持てるものは、その恩愛にひかれてこそ苦労はすれ。D)■の他の虫をとりて我子となす、老の行衛をかゝらんとにもあらず。何を譲らむとてかくはほね折るや。「我に似よ似よ」とは、いかにをのが身を思ひあがれるにかあらむ。「花に狂ずる」とは詩人の称にして、歌にはさしもよまず。2)ミツをこぼして世のためとするはよし。只人目稀なる薬師堂に大きなる巣作りて、掃除坊主をおびやかさんとす。それも針なくば人にはにくまれじを。

E)■は『古今』の序にかゝれてより、歌よみの部に思はれたるこそ幸なれ。朧月夜の風しづまりて、遠く聞ゆるはよし。古池に飛んでa)翁の目さましたれば、此物の事さらにも謗がたし。

F)■はたゞ五月晴に聞きそめたるほどがよきなり。やゝ日ざかりに啼きさかる比は、人の汗しぼる心地す。されば初蝶とも初かはづともいふ事をきかず。此物ばかり初F)■といはるゝこそ大きなる手がらなれ。「やがて死ぬけしきは見えず」と、此ものゝうへは、翁の一句に尽きたりといふべし。

G)■はたぐふべきものなく、景物の最上なるべし。水にとびかひ草にすだく。五月の闇はたゞこの物の為にやとまでぞ覚ゆる。しかるにb)貧の学者にとられて、油火の代にせられたるは、此ものゝ本意にはあらざるべし。歌にG)■火とよませざるは、ことの外の不自由なり。c)俳諧にはその真似すべからず

H)■は多きもやかましからず。暑さは昼の梢に過ぎて、夕は草に露をく比ならん。I)■といふせみは、つくし恋しともいふ也。筑紫の人の旅に死して此物になりたりと、世の諺にいへりけり。哀は3)ショッコンの雲に叫ぶにもおとるべからず。

J)■はたくみに網をむすんで、ひそまつて物を害せんとす。待つくれの歌によまれ、又は4)タイインの媒ともなりたれど、ひとへに5)カンゾクの心ありていとにくし。古代朝敵の始として、頼光をさへおびやかしたる、いと怖ろし。さはいへ6)ハイタクの荒れたる軒に、蝉の羽などかけ捨てたるは、いさゝかあはれそふ折もあらんか。かれはかひがひしく巣つくりてこそあれ、東海道にちりぼひたる宿なし者をば、J)■とはいかでいふやらむ。

K)■は腹だつものにたとへ、L)■はむつかしき親仁の号とす。背むし・吝むしは名のみして虫ならず。M)■といふは、虫にありてにくまれず、人にありてきらはる。

N)■の生涯は世の為に終り、O)■はたがために身をこがすや。P)■ははかなきためしにひかれ、7)タデくふむしは、不物ずきの謗となれり、さは俳諧するものを、俳諧せぬ人のかくいふ折もあるべし。

おなじ宝石の名によばれて、Q)■はやさしく、R)■はいやし。

S)■は明くれにいそがしく、世のいとなみに隙なき人には似たり。東西に聚散し、餌を求めてやまず。いつか8)カイアンの都をのがれて、その身の安き事を得む。さるもたよりあしきかたに穴をいとなみて、9)センジョウの堤を崩すべからず。

T)■は欧陽氏に憎まれ、U)■は長嘯子にあはれまる。

狗の歯に噛まるゝV)■はたまたまにして、猿の手にさぐらるゝW)■は、のがるゝ事かたかるべし。

W)■を千手観音と呼ぶに、X)■は梶原といへり。さるは梶原が異名なりや、X)■が異名なりや、先後今はしりがたし。

Y)■は只水に有べきものゝ、いかで草葉に遊ぶらん。家は持ちだれども、ゆく先々を負ひあるくは、水雲の安きにも似ず。

蛇・Z)■の足なくてもあるくべくば、甲)■・をさむしの数多きは不用の事なり。

乙)■の痩せたるも、10)オノを持ちたるほこりより、その心いかつなり。人のうへにも此たぐひはあるべし。

丙)■のあゆみにたとふべきものこそなけれ。たゞ原・吉原をβ)★にのりて、富士を詠めゆく人には似たり。

11)促織・鈴虫・くつわ虫は、その音の似たるを以て名によべる、松むしのその木にもよらで、いかでかく名を付けたるならん。毛生ひむくつけき虫にも同じ名有りて、松を枯し人にうとまる。一在所にふたりの八兵衛ありて、ひとりは後生をねがひ、ひとりは殺生を事とす。これまつむしのたぐひなるべし。

きりぎりすのつゞりさせとは、人のために夜寒をおしへ、藻にすむ虫は、我からと、只身の上をなげくらんを、丁)■の父よと呼ぶは、12)ヤモリの妻を思ふには似ず。されど父のみこひて、などかは母をしたはざるらん。

戊)■はにくむべき限ながら、さすが卯月の比、端居めづらしき夕べ、はじめてほのかにきゝたらむ、又は長月の比、ちからなくのこりたるはさびしきかたもあり。■屋釣りたる家のさま、■やり焼く里の烟など、かつは風雅の道具ともなれり。藪■は殊にはげしきを、かの七賢の夜咄には、いかに団の隙なかりけむ。

むかし銀に執心のこせし住持は、蛇となりて銭箱をまとひ、花に愛着せし佐国は、蝶となりて園に遊ぶ。そも俳諧に心とめし後の身、いかなる虫にかなるらん。花にくるひ月にうかれて、更行く行灯の影をしたひ、なら茶の匂ひに音を啼くらんこそ哀なるべけれ。




最後のくだりに出てくる「むかし銀に執心のこせし住持」と「花に愛着せし佐国」はともに物にこだわって虫になった人の代表格。前者は今昔物語、後者は鴨長明の発心集。強欲な僧侶が金を隠して死んだ後も、執念が現世に残って大蛇となった。佐国が花を愛して死後もあの世で花を賞で続けている。それでは俳諧にのめり込んでしまうとどうなるのか。どんな虫になってしまうのであろうかと也有は考えます。花に狂うのか。月に取りつかれるのか。夜更けに行灯の下で句作を練るのか。奈良茶づけの香りに鼻を鳴らすのか。俳諧師を虫に喩えているのです。よほどのリアリストですね。和歌のように美化することはしないのです。綺麗事を並べ立てることのなんと虚しいことか。俳諧とは生きることそのものを写し取ることなのでしょう。腹がすいたら音を鳴らして食べる。それすらも句にできるのです。身の周りに題材にならないものなど一つとしてない。下賤なものも下等なものも何でもに気を配り、心を遣り、極小の世界に落とし込んでいく。数々の貪生の虫たちに生きることの意味を見出すのはそれほど難しいことではないのかもしれません。それは自らの姿に過ぎないからなのでしょう。金にせよ色にせよ出世にせよありとあらゆる欲望も所詮は生きることの変化形。虫たちと何ら変わりない。改めて生きることの虚しさと楽しさを教えてもらったような気がします。以上です。



■A)~C)に適切な虫の名を入れよ。

■D)に入る虫の名を入れよ。漢字一字。

■E)には虫というよりは小動物の名が入る。入れよ。

■F)に入る虫の名を入れよ。

■G)に入る虫の名を入れよ。

■H)~I)には、セミの種類が入る。

■J)に入る虫の名を入れよ。漢字二字或いは二字。

■K)~M)には、「油むし」「芋虫」「毛虫」のいずれかが入る。それぞれ適切な虫を選択せよ。

■N)~P)には、「蚕」「火とりむし」「蜉蝣」のいずれかが入る。適切な虫を選択せよ。

■Q)とR)には、かたや「こがね虫」、こなた「玉むし」が入る。選択せよ。

■S)~乙)に入る虫名を漢字一字で記せ。但し、S)、T)、V)、W)は漢字一字、U)、X)、Y)、Z)、甲)、乙)は漢字二字。

■丙)には、虫ではなく海の生き物が入る。漢字一字で記せ。

■丁)には、虫の名が入る。漢字二字で記せ。

■戊)には、虫の名が入る。漢字一字で記せ。

■下線部a)は誰のどういうことを言っているのか、記せ。

■下線部b)は、蒙求の題名にもなっている有名な四字熟語がある。記せ。

■下線部c)はなぜか。記せ。

★αとβにはそれぞれ「かご」と訓む漢字が一文字ずつ入る。前後の文脈から適切なものを考えて入れよ。

問題の正解などは続き以下にて。

■A)→てふ(蝶)。
B)→とんぼう(蜻蛉)。
C)→蛾。

■D)→蜂。

■E)→蛙(かはづ)。

■F)→蝉。

■G)→ほたる(蛍)。

■H)→日ぐらし。
I)→つくつくぼうし。

■J)→蜘蛛(蜘)。

■K)→芋虫。
L)→毛虫。
M)→あぶら虫。一字では「蜚」とも書く。

■N)→蚕。
O)→火とりむし。
P)→蜉蝣。かげろう。

■Q)→玉むし。
R)→こがね虫。

■S)→蟻。あり。
T)→蠅。はえ。宋代の欧陽脩が「蒼蠅を憎むの賦」を詠んでいる。
U)→紙魚。しみ。江戸時代初期の歌人、木下勝俊が歌文集「挙白集」で「しみのことば」と題した文を書いている。
V)→蚤。のみ。「犬の蚤の噛み当て」とは「ごく稀なこと」を言う諺。
W)→虱。しらみ。「猿が蚤取り眼」や「猿の空虱」などといい、「逃れられないこと」。千手観音に似ている?
X)→蚰蜒。げじ(げじげじ)。梶原景時は源頼朝の家臣で、義経を頼朝に讒言したりして人々に嫌われていたことからこのあだ名が付いた。
Y)→蝸牛。かたつむり。
Z)→蚯蚓。みみず。
甲)→蜈蚣。むかで。
乙)→蟷螂。かまきり。

■丙)→蟹。

■丁)→蓑虫。枕草子四一段に、蓑虫が「ちちよ、ちちよ」とはかなげに鳴くことが「あはれ」だと記されています。也有に言わせれば、なんで「父」だけなのか、「母」でもいいではないかと聊か茶化し気味です。

■戊)→蚊。

■a)→松尾芭蕉が俳諧の真髄を開眼したことを言う。かの有名な「古池や蛙飛びこむ水のおと」(「蛙合」)は芭蕉四十三歳の作。岩波には「支考の『俳諧十論』第一『俳諧ノ伝』に『幽玄の一句に自己の眼をひらきて、是より俳諧の一道はひろまりけるとぞ』と説く」とあります。一般には、この句が蕉風を開眼させたものとして持て囃されてきたのです。

■b)→車胤聚蛍。苦学のこと。ホタルをあつめて袋に入れてライトにして読書した。

■c)→和歌の世界では「蛍火」と詠んではいけない決まりがあった。それは「火垂」「火照」から転じたものであって、「ほたる火」とか「ほたるの火」とすると、意味が重複するから、禁じ手とされてきたのですが、俳諧の世界ではそうした制限をするべきではなく、芭蕉翁の句にも「蛍火の昼は消つゝ柱かな」の用例がある。俳諧の自由闊達さを誇ったものでしょう。

★α→籠。籠の鳥。
★β→駕。人が乗る駕籠。



1) 黐=もち。鳥を捕らえるのに用いるもち。キビをねって、ねばりつくようにしたトリモチ。音読みは「チ」。黐粘(チデン=鳥を捕らえるのに使う、ねばねばしたもち、トリモチ)。

2) ミツ=蜜。ハチが花から集めて、巣の中に封じ込めた甘い液。ハチミツ。蜜香(ミツコウ=香木の名)、蜜章(ミツショウ=死者に官位を与える時におくる、蜜蝋に刻んだ印章)、蜜脾(ミツヒ=ミツバチの巣、蜜房=ミツボウ=とも)。

3) ショッコン=蜀魂。ホトトギス。蜀の望帝の霊魂が化してこの鳥になったという伝説による。蜀鳥(ショクチョウ)・蜀魄(ショクハク)もあり。

4) タイイン=退隠。職をやめ、世間づきあいもさけて隠居する、隠退。

5) カンゾク=奸賊(姦賊)。悪者、悪漢。姦兇・姦凶。

6) ハイタク=廃宅。くずれて住めなくなった家、あばら家。廃屋・廃虚。

7) タデ=蓼。ぴりりと辛い味がする。音読みは「リョウ・リク」。蓼虫不知辛(リョウチュウからきをしらず=蓼食う虫も好き好き、好きであれば辛いことも苦にならないことのたとえ)。蓼菜成行(リョウサイコウをなす=小さいタデの葉が一列にそろう、小さな物事はできるが大きな物事ができないことのたとえ)、蓼莪之詩(リクガのシ=「詩経」小雅にある詩の名、親が死んで孝養を尽くせなかったかなしみをうたったもの)。

8) カイアン=槐安。「槐安夢」(カイアンのゆめ)として用いる。「南柯夢」(ナンカのゆめ)ともいう。人間のむなしいことのたとえ。唐の淳于棼(ジュンウフン)が酔って槐(えんじゅ)の木の南の枝で眠り、夢の中で槐安国に行き長官になって栄華をきわめたが、夢から醒めてみると、それは蟻の国にすぎなかったという、唐の李公佐の小説「南柯記」にある話がベース。

9) センジョウ=千丈。「千丈の堤も螻蟻(ロウギ)の穴を以て潰ゆ」が本。高くそびえる堤も、螻や蟻の穴からくずれるということ。小さなことに用心しないと大きなことに失敗するというたとえ。「韓非子・喩老」に出てくる。韓非子ではこの後続けて「百尺の室は突隙の烟を以て焚く」。豪邸もわずかのすき間から洩れた煙によって火事になってしまう。別の言い方は多くあり、蟻の一穴、千里の堤も蟻の穴から、尺蚓(セキイン)堤を穿てば能く一邑(イチユウ)を漂わす。

10) オノ=斧。「蟷螂之斧」が成句で、「蟷螂が斧を以て隆車に向かう」とも言い、「弱者が自分の力もわきまえずに大きな車に抵抗する、向こうみず、身の程知らず」。泥鰌の地団駄ともいう。

11) 促織=はたおり。岩波には「きりぎりす」の異称とあり、「ぎーすちょん、と鳴き、機織りの音に似る」との解説が見えます。也有も、鳴き声が機織りの音のようだという前提を踏まえています。一方、広辞苑には「ソクショク・ショクショク」と音で読み、「こおろぎの異称」とあります。杜甫の詩にすばり「促織」というのがあって、これも「こおろぎ」を指しているとみられます。ただ、この字を充てているのは、鳴き声が機織りの音ではなくて、晩秋に鳴いて冬着の支度を促すという意味からのようです。

12) ヤモリ=守宮。岩波のルビでは「ゐもり」ですが、これは「やもり」でしょう。夫婦仲がいいとされますが嫉妬心が強い。だから、妻に不貞があるかどうかを確かめるために、その血を妻の体に塗るということがかつて行われていたようです。
むかし銀に執心のこせし住持は、蛇となりて銭箱をまとひ、花に愛着せし佐国は、蝶となりて園に遊ぶ。そも俳諧に心とめし後の身、いかなる虫にかなるらん。花にくるひ月にうかれて、更行く行灯の影をしたひ、なら茶の匂ひに音を啼くらんこそ哀なるべけれ。
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不惑以上知命未満のリーマンbloggerです。
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2006.3  漢字学習スタート
2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
2007.10 1級合格①
2009.2 1級合格②

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