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俳諧と和歌をつなぐ「人丸」の謎をこの老兵が解いて見せようぞ!=「鶉衣」(19)

江戸中期の俳人、横井也有の「鶉衣」(岩波文庫上・下巻、堀切実校注)シリーズの19回目は、「法楽俳諧序」(続編中一四二、下巻128~132頁)を取り上げます。也有序文シリーズが定番となっておりますが、今回は黒田氏釜月子が頼んだ「法楽俳諧」に対する序文です。岩波の注釈によると、黒田氏は也有の俳友(こんな言葉あるんですね)で、「尾張藩士、俳人黒田甫の父で、前津に住んだ人、茶道にも通じた風流人」との解説が見えます。題にある「法楽」とは「神明に奉納すること、仏前で読経して本尊を楽しませる」の意。もともと和歌を奉納していましたが、江戸期になると俳諧も仏前で読経するように広がりを見せました。也有の時代は俳諧が隆盛したと同時に、もともと根が同じ和歌に対する回帰の動きも勃興しました。今回のお話を読むとそうした流れが良く分かります。まずは冒頭の「人丸」とは誰のことなのかを考えながら読み進めてみてください。南北朝時代の歌人である頓阿法師が、その聖像を百体も彫って全国各地に残して今に伝わるというのですが、御存知なら簡単。たとえ知らなくても後半になればヒントが登場し判明します。

1)聞説、むかし頓阿法師、みづから百体の人丸の聖像をきざみて残せしが、今も世にちりぼひて、たまたま和歌者流の家に求め得れば、こよなうかしづきもてはやしけることとぞ。2)邇日、黒田氏釜月子の手に、かの一体を求め出せり。黒田氏3)て城南前津の里に別荘あり。此地に名におふ富士の高根を、こと山の間よりわづかに望めば、かねて富士見原ともいへりけり。釜月子の厳父、過ぎし寛延の比ほひ、韓使の朝に来りける時、異客の手に請ひて、第一楼の三字をかゝしめ、則ち此別荘の号とす。此楼の向ふ所、富士はさら也、其余、参州の猿投、信州の御嶽・駒が嶽まで、皆一望の内にいる。南に指をうつせば、熱田・鳴海潟よりすべて当国の歌枕なるもの、十にして七八を4)ふ。5)に府下の第一楼なる哉。さればかの聖像をこゝに安置し、あけくれの富士にむかはしめ、石見潟・高津の松に見果てし月も、ふたゝびこゝにてらさむと也。

しかるに主人つねに俳諧の連歌に遊びて、和歌は専とせず。そも俳諧は連歌に出で、連歌はもとより和歌の流れにして、皆A)伯仲の風雅なれば、枝こそわかれたれ、根はおなじ柿の本の、何ぞ白眼し給はむやと、今一巻の俳諧をつらねて法楽に供へんとす。連衆已に定りて、予が老いたるを以て小序の求あり。6)ハクレツのあたらざるを慙ぢて辞せんとするに、またおもへらく、実に世の諺に年役といひ、若役といへる、手足を労し働くわざは若役の請とりにして、居ながらなす業は多く老年の課役となれり。今や一坐に頭をめぐらすに、B)あぢきなきかな、齢は吾が右に出づる人なし。よしや7)ビン髭を染めて若殿ばらと競はむは、たとへ病衰の思ふとも叶はじ。眼鏡にしばし筆をとらむは、難きより見れば易かりぬべしと、8)ヒロウはみづから年に託して、C)こちたくも此日の序者となんぬ。




「人丸」とは、万葉の歌人、柿本人麻呂のことです。岩波によれば、和歌の守護神であり、その画像は「人麻呂影具(エイグ)」として、歌会にはつねに飾られてきた、とあります。頓阿法師が百体もの人麻呂像を刻んだうちの一体が、也有の友人である黒田氏釜月子の手にあったのです。その別荘が也有の住む前津にあり、尾張国の歌枕の多くが存在する景勝地である。富士山も望めるという。そして、人麻呂は石見国にゆかりがあり、遠く離れた前津にその像を飾ることによって、あたかも人麻呂が歌に詠んだ「石見潟」や「高津」の風景を見ることができるというのです。

後半の段で「根はおなじ柿の本の、何ぞ白眼し給はむや」とは、和歌と俳諧の掛け言葉で関係を言っています。根っ子は柿本人麻呂からでているもの同士、俳諧をやる身とてどうして和歌のことを白い眼で見ることがあろうか。黒田氏が催した俳諧法楽に呼ばれた也有は集まった衆の中の最高齢であり、発句を詠むように頼まれました。文中にある「ビン髭を染めて若殿ばらと競はむは、たとへ病衰の思ふとも叶はじ」は平家物語に見える故事を踏まえている。斎藤実盛が、寿永二年、維盛に従って、木曾義仲を討つ時、ビン髭を黒く染めて奮戦したが、手塚太郎光盛に討たれたことをいう。老兵は去るのみとも言われますが、亀の甲より年の功との諺もある通り、徒に齢を重ねてきたわけではない。こんな私にも手柄を立てたいという欲はまだあるのだ。年寄り兵士の見栄と意地が綯い交ぜになっていますね。也有とて例に漏れません。伊達に長老を名乗るわけにはいきませんから。



■下線部A)はどういう意味か。


■下線部B)、C)の意味を記せ。



問題の正解などは続きにて。。。。










A)→和歌と俳諧が兄弟のように関係の深い文芸であるということ。「伯仲」は「長兄と次兄」で「きわめてよく似ていて優劣の無いこと」。その前にある「俳諧は連歌に出で、連歌はもとより和歌の流れ」を受けています。

B)→情ないことに、あろうことか、どうしようもないことに。

C)→ものものしいことではあるが、仰々しいのだが、大袈裟であるのだが。「こちたし」は「言(こと)痛し」から転じた形。




1) 聞説=きくならく。漢文訓読語法の伝聞表現で「聞くところによれば~」「~と聞き及んでいる」。「聞道」とも書く。

2) 邇日=このごろ、ちかごろ。音読みなら「ジジツ」。最近。「邇い」は「ちかい」。在邇求遠(ザイジキュウエン=無理して得難いものを求めること)は必須。邇遐(ジカ=ちかいことと遠いこと)、邇言(ジゲン=卑近で通俗的な、だれにでもわかりやすいことば)、邇来(ジライ=近来、このごろ、その後、それ以来)。

3) 嘗て=かつて。以前、むかし。「曽て」「曾て」も「かつて」。この三つはセットで覚えましょう。

4) 計ふ=かぞふ。「計える」は「かぞえる」。数・量の多少や出入りを調べる。

5) 実に=げに。誠に、いかにもそのように。無論、「ジツに」でもいいが、じつに味気ない読みですな。

6) ハクレツ=薄劣。才能・知識が乏しく劣っていること。薄才(ハクサイ)とも。浅学菲才(センガクヒサイ)とも置き換えられるかもしれません。

7) ビン=鬢。頭の左右側面の髪。両鬢(リョウビン=左右のびんの毛、双鬢=ソウビン=)、鬢雪(ビンセツ=びんの白髪、鬢霜=ビンソウ=)、鬢斑(ビンハン=びんの毛が白髪まじりになること)、鬢乱釵横(ビンランサイオウ=びんの毛がみだれ、かんざしが横になる、女性の乱れた寝姿、実のエロチックな表現)、鬢糸(ビンシ=細くて乱れているびんの毛、老人の白髪のこと)、雲鬢(ウンビン=美人の豊かで美しい髪の毛)、風鬟雨鬢(フウカンウビン=風にくしけずり雨に洗われる、風雨にさらされ苦労して勤労すること)、霧鬢風鬟(ムビンフウカン=美しい髪の喩え)、

8) ヒロウ=鄙陋(卑陋)。いやしくて見聞がせまい。「鄙」は「ひな」、「陋い」は「せまい」。
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Author:char
不惑以上知命未満のリーマンbloggerです。
言葉には過敏でありたい。
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2006.3  漢字学習スタート
2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
2007.10 1級合格①
2009.2 1級合格②

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