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世に言う古今和歌集の秘事をここに開陳す=「鶉衣」(17)

江戸中期の俳人、横井也有の「鶉衣」(岩波文庫上・下巻、堀切実校注)シリーズの17回目は、「三鴉集序」(続編中一四〇、下巻121~123頁)を取り上げます。也有はさまざまな人から自作の俳文集などの序文を依頼されることが多かった。彼らの意図を汲んでさらりとした短い文章でまとめあげることができたのは、卓抜なる能力に長けていたと言えるでしょう。

信濃なる駒が嶽は、名におふ富士の1)オモカゲして2)シイジの雪たえず。花の名所と呼べる吉野も、卯月のあらしに吹きちらされ、淀のわたりの郭公も声とゞまらず。須磨・更科の月といへど、山にかくれてあとの闇は、よのつねにかはることなし。よそにはなき雪をとゞめてこそ、誠に雪の名所ともいふべけれ。されども歌人の目にいらず、浅間の煙にだに立ち劣れる詠めを惜しみて、此国に3)コウズの三士、集作りて世に4)げむとす。集成りて題号を「三鴉」とはいかに。されば「古今集」に「三鳥の伝」ありて、それは安からぬ習なるよし。今又こゝに「三鴉の伝」あり。そも此5)センジャ三人の各羽の字を以て名とせる、いまだ其羽はいづれの鳥とも定まらざりしが、いでや今定めむとするに、もとより異国のことはとはず、我朝にても春ぞ秋ぞと季節あるものはむつかし。あるは山にかたより、水にのみ住めるは不自由なり。さらばかたよらぬ6)ジョウジュウの物をえらぶに、A)の羽は仙人くさく、B)は猛くて寂しみなし。ましてC)のむくつけなる、D)は山野にわたらず、E)は不情にF)はいそがし。只月にうかれて夜もすがらいも寝ず、雪の寒きにも朝起する鴉の羽こそ、俳諧に借るべき物にありけれと、終に此羽は此鳥に定りぬ。さてこそG)□□□のひかりさして、此集も世にはかゞやくならむ。是此「三鳥の伝」にして、我はた幸にきくことを得たり。7)カガクシャの「三鳥」は、われのみしりて、意地わろく人にをしへぬがうるさければ、此序に是をあらはして、センジャのもとめにかふるとしかいふ。


今回序文を頼まれた俳文集のタイトルは「三鴉」。岩波文庫によると、信州の羽跡・竹羽・巣羽の共編によるもの。宝暦十三年八月序、翌年刊行とあります。いずれも雅号と思われますが「羽」が入っている。当人たちだけはそれが「鴉」の羽だと知っており、也有もそう聞いている。この序文を書くに当ってその「秘密」を開示することとし、故事来歴を交えて紹介する、お洒落な逸品となっているのです。

文中にある「古今集」に「三鳥の伝」というのは、「三木三鳥」(サンモクサンチョウ)の伝のことで、歌学の古今伝授における秘中の秘の一つとされています。それぞれが何を指すのかは、歌学流派によって異なるようですが、一般的には「三木」とは「をがたまの木」「めどにけづり花」「かはな草」、「三鳥」とは「百千鳥」「喚子鳥」「稲負鳥」とされます。

也有の序の面白いのは、この秘伝を捩って「三鴉」と名付けた由来を説いている点にあります。そして、本来秘伝であるべき「三鳥」の内容をこうした形で公開したことによって、秘伝でも何でもなくするという意味において諧謔性に溢れているのです。歌学の閉鎖性を暗に当て擦りながら、何でも受け入れて材料にしてしまう俳諧の開明的な優位性を説いたのかも知れませんね。




■空欄A)~F)にそれぞれ入る鳥を選択せよ。

鳩・鶏・鷹・鳶・鶴・雀


■空欄G)には「黒」「夜」「夕」「月」「夢」などにかかる枕詞が入る。漢字三文字で記せ。

A)→鶴。仙人とくればそのお相手は「鶴」しかない。鶴駕(カクガ)とは仙人の乗り物のこと。

B)→鷹。獰猛な鳥である鷙鳥の代表は鷹でしょう。

C)→鳶。「むくつけなる」とは「おそろしい、気味が悪い」の意です。いい意味ではない。「鳶」も鷹と同様に鷙鳥の類でありますが、鳶肩(いかり肩)のさまは鷹ほど優雅ではないので嫌われ者となっているようです。

D)→鶏。家禽の代表格ですから野山には棲んでいないですね。

E)→鳩。「不情」は「不精」の当て字。「鳩」は、巣作りが下手で鵲の巣を借りようとすることから怠け鳥の代表格か。

F)→雀。逆に雀はちゅんちゅん鳴いて忙しない鳥の代表格ですかね。

ダミー選択肢を入れていないので比較的容易でしょう。也有の時代の人々が身近な鳥たちをどう見ていたのかが分かって面白いと思ったので敢えて問題にしてみました。それぞれの熟語を羅列してみるとその特徴がもっとよく分かるかもしれませんね。

G)→烏羽玉(うばたま)。ヒオウギ(檜扇)の種子、まるくて黒い。ヌバタマ(射干玉)ともいう。御題が「鴉」だけにキーワードとも言えるでしょう。


1) オモカゲ=俤。想像して心の中に浮かぶ物の像。もちろん面影でも正解ですがここは国字も覚えておきたい。

2) シイジ=四時。一年中、春夏秋冬のオールシーズン。もちろん「シジ」とも読む。

3) コウズ=好事。物好き、風流韻事を解すること。

4) 挑げむ=かかげむ。「挑げる」は「かかげる」。当て字っぽいですが、結構出てくる。試験問題には出ないでしょうが。

5) センジャ=撰者。よい作品をえらび集め、歌集などをつくる人。「撰ぶ」は「えらぶ」。撰刻(センコク=碑をつくるために文章をえらび、それを石にほりきざむこと)、撰修(センシュウ=書物を編集する)、撰集(センシュウ=詩歌・文章などをえらび集めて編集すること、撰輯=センシュウ=)、撰述(センジュツ=書物をかきあらわすこと、撰著=センチョ=)、撰定(センテイ=法律や公文書をつくる、また、規準となる書物をつくる)、撰答(セントウ=君主の命令に、文書をつくって答えること)、撰録(センロク=えらび集めて収録する)。

6) ジョウジュウ=常住。いつも一定の場所に住むこと。「常日頃」の意もあり「常住坐臥」。

7) カガクシャ=歌学者。これは「科学者」「化学者」の引っ掛けですがよもや引っ掛かるわけはないですよね。「歌学」は、和歌の意義・本質・変遷、作歌の法則・作法・故実・文法・注解、歌人の伝記・逸話などを研究する学問。「歌論」と重なる部分も多いが微妙に異なる。歌学・歌論書としては、江戸時代中期の本居宣長の「石上私淑言」(いそのかみのささめごと)が有名。
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2006.3  漢字学習スタート
2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
2007.10 1級合格①
2009.2 1級合格②

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