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亡き翁も顔を綻ばせる「尾張五歌仙」の復活=「鶉衣」(16)


江戸中期の俳人、横井也有の「鶉衣」(岩波文庫上・下巻、堀切実校注)シリーズの16回目は、「秋の日の序」(続編中一三三、下巻103~105頁)を取り上げます。芭蕉亡きあとも後人たちがしっかりとその跡を継いでいることを実感した也有が喜び勇んで筆を走らせているさまが目に浮かびます。自分もその中に加われているという自負もちらりと顔を覗かせています。

蕉翁生前のA)七部集とて、世にあがむるが中に、「冬の日」の集は「尾はり五歌仙」ともいふなりけり。しかるに、暮雨巷の門人騏六なる者の家につたへとゞむる一巻の歌仙あり。これは往昔竹葉軒のあるじの、翁を招きて其日になれるものにして、其坐の荷兮が筆したるまゝに遺せる也。いづれの集に出でたりとも見えず。されば暮雨巷暁台子是ををしみ是を尊みて、社中をかたらひて四巻の歌仙をつらね、再び「尾張五歌仙」を継がむとす。1)稿なりて閲するに、誰かはB)狗の尾をもつて2)テンを続ぎたりといふべき。祖翁の魂、もしかへりきたるとも、C)3)セイガンにして賞し給はむ。今人なしといふべからず、実に本州の面起すともいふべし。4)ジョウシャに臨みて予に一語をそへよと請はる。5)嗟乎是また蕉門の6)セイジ也、何ぞ口を7)ツグまんやと。年は明和の五めぐり龍証方に集まる比もあひに逢ふ冬の日の、短き筆さしぬらして、聊責をふさぐことしかり。


1772年(安永元)に元尾張藩士、加藤暁台(=暮雨巷、1732~1792)が編集し刊行した俳諧集である「秋の日」に綢わる経緯が記されています。これは、岩波によると、かつて貞享5年7月21日、芭蕉が名古屋の竹葉軒長虹を訪ねた折の七吟歌仙が、暁台門の騏六の家に伝わっていたのを巻頭にして、暁台一門による四歌仙を加えて、「冬の日」五歌仙につぐ「尾張続五歌仙」(見返し題)として刊行したものとあります。芭蕉の発句「粟稗にとぼしくもあらず草の菴」が載せられています。

也有によれば「実に本州の面起すともいふべき」と述べており、「尾張俳諧界の面目躍如」と大絶賛です。この短い文章に籠められた蕉門隆盛に対する熱い思いが顕れています。ちなみに、最後にある「年は明和の五めぐり龍証方にあつまる比もあひに逢ふ冬の日」は少し、冗長で見慣れない言い回しです。「龍証」というのは「龍集」というのが一般的で、元号の後ろにつき「一年」をあらわす。「明和5年の年」くらいの意味です。「龍」は木星のことで「集」は「宿る」の意。一年に天空を一周するので一年を表す。通常は、元号+「龍集」+干支と表す。2011年の現代ならば、「平成二十三龍集辛卯」となります。「歳次」「龍次」ともいいます。古文書などを見ているとときたま見かけます。覚えておいて損はない。試験問題には出ないけど。。。。。



■下線部A)は、蕉門の代表的撰集である所謂「俳諧七部集」(別称「芭蕉七部集」)のことである。全てを列記せよ。

■下線部B)は中国の故事を踏まえた表現だが、何を言いたいのか。

■下線部C)は、誰がどうするということか。

問題の正解などは続きにて。。。







A)→「冬の日」「春の日」「曠野(あらの、阿羅野)」「ひさご」「猿蓑」「炭俵」「続猿蓑」。

B)→「狗尾続貂」が成句で中国・晋書の「趙王倫」に載る故事。倫が位についたとき、同謀の人々が皆高官を得たのに対して、「時人之が諺を為して曰く、貂足らず、狗尾続ぐ」とあった。つまり、余りにも多くの者を官に任じてしまったがため、貴重な貂の飾りが足りなくなってしまい、それよりも数段価値の劣る狗の飾りを代りに数多く発しなければならなかった。素晴らしい者の後に劣る者が続くこと。ここは芭蕉翁の「冬の日」という立派な俳諧集(=貂)を継いで「秋の日」という劣るもの(=狗)を刊行したことをいう。もちろん、謙遜です。その内容には自信がたっぷり溢れています。

C)→とうの昔に御隠れになっている芭蕉翁が生きていられれば、「秋の日」の刊行をあな嬉しやとおほめいただけるのではないかということ。



1) 稿=したがき。詩文の下書き。稿本(コウホン=書物の下書き、原稿、草稿)。

2) テン=貂。イタチ科の哺乳類。敏捷に木に登る。毛皮は貴人の服に、尾は冠のかざりに用いられた。音読みは「チョウ」。貂裘(チョウキュウ=テンの毛皮でつくった衣服、身分の高い人が用いる)、貂寺(チョウジ=宦官のこと)、貂蟬(チョウセン=高官がもちいる冠の飾りにした、テンの尾と蝉の羽)。

3) セイガン=青眼。快く出迎えること。阮籍青眼の故事は也有お気に入りで、頻出です。

4) ジョウシャ=浄写。きれいに書き抄す。清書。浄書とも。

5) 嗟乎=ああ。なげいて発する声。吁。嗟吁、嗟呼、嗟哉とも。

6) セイジ=盛事。盛大な事業、りっぱな事業。めでたい事がら、慶事。

7) ツグまん=噤まん。「噤む」は「つぐむ」。口を閉じる。音読みは「キン」。噤閉(キンペイ=口を閉じる)。
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2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
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