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民主も自民も糞味噌、五十歩百歩なのだと痛感させられました=「鶉衣」(6)

江戸中期の俳人、横井也有の「鶉衣」(岩波文庫上・下巻、堀切実校注)シリーズの6回目は、「夢二客賦」(後編下八四、上巻358~363頁)を取り上げます。「とざい、と~ざ~い。世にも不可思議な漫才が始まるよ」。。。残暑厳しい折から、涼しい夕暮れを待って昼寝をまどろんでいると、夢の中でおかしな二人?もとい二匹?もとい二本が、口角泡を飛ばして諍いをしています。テーマは、兎に角、相手を扱き下ろし、自分の方が如何に優れているかを競い合っています。この二本の正体は一体?はたまた、漫才の落ちや如何???

秋の蟬猶梢の暑さをのこし、暮待つ翁の1)ヒジを曲げたるかりの夢に、怪しき二客の争ひを見ける。一人は色黒くして疎なる髭の如く、みづから2)コンロン先生と名のる。一人は面長に頂すこし3)なるが、真桑居士と称す。共に酒臭きは、いたく酔ひたるやらむ。

先生まづ進みて云く、「我そも居士の下に立つべくもあらぬを、今一桶の内に在りて、何ぞ我より上つかたに横たはれるや」と。居士云く、「我もまたいかでか先生の下とは定まらむ。予はひたぶる賤しき農夫の手にのみもなれず、昔邵平が東門に作り、殊に4)リザンの温湯を分ちて、二月中旬の走りをも献ぜしものを」。〽いな、もろこしの事はしらず、山時鳥里馴るゝ比は、駿河のはつなり価玉のごとく、籠に盛り馬にのぼりて、東都に下る勢ひを見ずや。たまたましろ瓜といふものありて、わづかに其威を借れども、我目には5)キビの蠅とこそ見れ。〽そもそも6)カンジンの他郷の役に倦みて、故国へ還る悦の時を、7)カキとて殊に待たるゝものを。〽さらば一富士二鷹に並びて、夢の吉兆とするにはいづれ。〽我聞く、むかし禅僧にふみ8)ニジられて、9)ムリの10)蝦蟆となりて命を請ひし妖怪はいかに。〽いざ我も亦聞けり。一条帝の御時に、怪しき毒を含み、清明に占はれ、行尊に祈られて、踊り狂ひし不祥こそ増りぬべけれ。〽山城のこまのわたりの瓜作りと、故人の詞にもつらねしぞかし。〽扨はかのわさゝの糟につけ置きてと読みける歌はしらざりけるよ。〽うたてやそれは秋茄子の11)に立ちけるうき名ならずや。〽大原や田中の村の瓜作り秋は果つともかりもりなせそとしめしける歌も有りしを、見ぐるしく世にすさめられ、名をさへかりもりとは、平家の公達を似せけるやらむ。〽只己が身を省みるべし。味噌に油に味ひをかざりて、寺に12)シギ焼の仇名こそにくむべきを。

かくいひいひて果しなければ、今は翁も枕をもたげて、あなよしなしあなよしなし、かれはかれ、これはこれ、瓜の13)ツルに茄子はならず、只己がさまざまにて、何ぞ尊卑の品あらむや。不用の争ひをして、なれそこなひ味変じなば、人に疎まれ捨てられて、畠のこやしと成りや果てなむ。やみねやみねと扇を把りて席をうつ事三下り、ふたつの姿たちまち消えて、夢も亦さむれば、只青丹よし奈良漬桶のみ、依然として棚本に残れり。


この漫才コンビはかたや「菎崙先生」こと茄子。こなた「真桑居士」こと瓜。しかしながら、茄子と瓜に綢わる諺や故事成語がこんなにもたくさんあるとは驚きです。日本人にとって両者はかくも食生活に無くてはならないものだったのでしょう。列挙しますと。。。

「昔邵平が東門に作り」→「邵平」は「召平」のあやまりで、秦の東陵侯のこと。秦が漢に破れたため、民間人になって貧乏に苦しみ、長安城の東に瓜を育てた。その味はとてつもなく美味であると人口に膾炙されました。

「殊にリザンの温湯を分ちて、二月中旬の走りをも献ぜしもの」→玄宗皇帝が楊貴妃のために好物の瓜を促成栽培したのです。いまではライチということになっていますが。

以上は真桑居士が中国の故事を持ちだして瓜の素晴らしさを礼讃したものです。

続けて。。。

「山時鳥里馴るゝ比は、駿河のはつなり価玉のごとく」→茄子はとくに駿河産の二月ごろに出回る初物がおいしく、その価値も高いということが「嬉遊笑覧」に載っています。籠に載せて江戸・徳川将軍家に献上されたのでしょう。

「たまたましろ瓜といふものありて、わづかに其威を借れども、我目にはキビの蠅とこそ見れ」→白瓜といえども茄子よりおいしくはあるまい。

以上は崑崙先生の反撃です。

さらに今度は。。。

「カンジンの他郷の役に倦みて、故国へ還る悦の時を、カキとて殊に待たるゝものを」→瓜の成る九月に地方官を故郷に帰らせたという故事が春秋左氏伝にみえ、真桑居士が瓜の重要性を強調しています。

翻って。。。

「一富士二鷹に並びて、夢の吉兆とするにはいづれ」→諺の「一富士二鷹三茄子」。駿河国の名物で、吉夢の順番を言います。もちろん、崑崙先生の反撃です。

はたまた。。。

「むかし禅僧にふみニジられて、ムリの蝦蟆となりて命を請ひし妖怪はいかに」→「俳諧類船集」に「闇の夜に蛙を踏ころしたると思ひて、明けてみれば茄子なりしと也」とあり、ここは真桑居士が崑崙先生を貶しています。

崑崙先生も負けてはいません。

「一条帝の御時に、怪しき毒を含み、清明に占はれ、行尊に祈られて、踊り狂ひし不祥こそ増りぬべけれ」→陰陽師の安倍清明が、一条天皇の御世、藤原道長が物忌みをしたとき、奈良から初瓜が献じられたが、清明の占いに拠り、一つの瓜に毒のあることが分かり、解脱寺の僧侶に祈禱させると瓜が動き出し、その中に大蛇がいたという故事があります。瓜は斯くも不吉な食べ物であると崑崙先生が口角泡を飛ばしています。

さあ、真桑居士も必死です。

「山城のこまのわたりの瓜作りと、故人の詞にもつらねしぞかし」→謡曲の「催馬楽」に瓜を誉めちぎるくだりがあると歌います。

「扨はかのわさゝの糟につけ置きてと読みける歌はしらざりけるよ」→岩波によると、出典不明ながら、「わさゝ」は早酒のことで新酒の糟に漬けた秋茄子は美味だから嫁には食わすなということ。茄子はこんなにも美味しいんだぞ~い。

「うたてやそれは秋茄子の娵に立ちけるうき名ならずや」→秋茄子は嫁に食わすなというシンプルなことわざもありますね、嫁の立場に立てば、単なるいやがらせなのじゃないかと真桑居士が真っ向から反論しています。

「大原や田中の村の瓜作り秋は果つともかりもりなせそとしめしける歌も有りしを、見ぐるしく世にすさめられ、名をさへかりもりとは、平家の公達を似せけるやらむ」→瓜の裏成りは見苦しい物で世の人に嫌われ捨てられている。平家の公達には「●●盛」という名前が多いのも一致しますね~と揶揄する崑崙先生。

「味噌に油に味ひをかざりて、寺にシギ焼の仇名こそにくむべきを」→腹が立って仕方がない真桑居士は、シギ焼といっても鳥の肉ではなく茄子を代わりにしたもの。茄子味噌焼きの別名を、あだ名として小馬鹿にしています。
「瓜のツルに茄子はならず」→平凡な親からは非凡な子供は生まれない。蛙の子は蛙、瓜の子は瓜、茄子の子は茄子。。。相容れない者同士は一生交わることは出来ないのだ。。。二本の掛け合いは放っておくと一生も続く公算が大。まどろく翁、すなわち也有も流石に堪忍袋の緒が切れて干渉役に回り大喝一声します。

「只己がさまざまにて、何ぞ尊卑の品あらむや。不用の争ひをして、なれそこなひ味変じなば、人に疎まれ捨てられて、畠のこやしと成りや果てなむ」

茄子も瓜もどっちが上で下などありはしない。糞味噌、五十歩百歩ですな。美味であるがゆえに人々から大事にされ、珍重してもらえるのだから、変に喧嘩して味を損なうと見捨てられるばかりか、畑の肥やしと化してしまうぞ。

そして、「落ち」です。

夢も亦さむれば、只青丹よし奈良漬桶のみ、依然として棚本に残れり。

奈良漬けの桶だけが棚に残っていたとさ。肝心の要の茄子も瓜もない。あ~あ空っぽ、ひもじいな~。腹ぺこの也有が夢に見た茄子と瓜でした。也有69歳にしたためた漫才でした。ほのぼのとした描写ながら、故事来歴をふんだんに織り交ぜるいかにも也有の文章。事物に注がれる温かな眼差しはあるとき人をドキリとさせます。なぜなら、それは特定の人間を指しながら風刺しているからでしょう。読む人が読めば自分のことだと判じるはず。民主党も自民党も○○党も糞味噌、五十歩百歩。茄子も瓜も優劣がないなら大連立も仕方ない哉~。ちゃんちゃん。。


それにしても、酔っ払いの珍問答のスタイルは、中江兆民先生の「三酔人経綸問答」を想起しますね。兆民先生は也有のこの文章から着想したのかもしれませんね。。。

1) ヒジ=肱。肱を曲げて腕枕をすること。「ひじ」には「臂」「肘」もありますが、「ひじを曲げて」とありますから、「肱」でないと正解ではない。ややきびしめですが、「論語」にある曲肱之楽(キョッコウのたのしみ=清貧のなかでも常に正しい道を行う楽しみ)を踏まえた成句です。

2) コンロン=崑崙。古代中国で西方にあると考えられた山の名。正王母という仙女が住み、宝玉を産出すると考えられた。ここは「茄子」のことを捩っていう。岩波によると、「黒色の茄子の異名を崑崙紫瓜という」とあります。中国・唐代に書かれた「本草拾遺」という書物に出てくる。茄子は印度からシルクロードを通って中国、日本に伝来したのでしょうか?

3) 窪なる=くぼかなる。「窪か」は「くぼんださま、くぼやか」。

4) リザン=驪山。中国陝西省西安市の南東郊外にある山。古来、西北麓の温泉で名高く、秦の始皇帝は瘡を癒し、唐の玄宗は華清宮で楊貴妃に浴せしめたところ。

5) キビ=驥尾。駿馬の尻。「附驥尾」(きびにふす=驥尾に陪す、驥尾に託す、後進の者が、すぐれた先輩に従って物事を行い成功すること)。ここは「驥尾の蠅」と成句で、役に立たない者の意。蒼蠅驥尾(ソウヨウキビ=凡人が賢人のおかげで功績をあげることのたとえ)。「蒼蠅」は「あおばえ」で、「小人や凡人にたとえる」。

6) カンジン=官人。役人、官吏、官僚のこと。官員ともいう。「他郷」は「故郷以外の地方、異郷」。

7) カキ=瓜期。「瓜時」(カジ)ともいい、役人の任期が満ちて交替する時期のこと。春秋時代、斉の襄公が家来に来年のウリが熟するときに交替させると約束したという故事があります。瓜の出来る時期とは陰暦七月を指します。

8) ニジられ=躙られ。「躙る」は「にじる」。おしつけてすり動かす、じりじりと圧しつぶす。音読みは「リン」。蹂躙(ジュウリン=ふみにじって荒らす、人の名誉などを傷つけてだいなしにする)。

9) ムリ=夢裡。夢のうち。夢裏とも。

10) 蝦蟆=がま。音読みでは「カボ」。ヒキガエル科の両生類。ガマ、ヒキガエル。「蟆」は「蟇」の異体字で、これ一字でも「がま」と訓む。

11) 娵=よめ。息子の妻。

12) シギ=鴫。シギ科の水鳥。海岸、湿地、たんぼなどにすむ。「鷸」でも正解です。「鴫焼き」は「なすに油を塗って焼き、練り味噌をつけてさらに香ばしく焼いた料理」。

13) ツル=蔓。他物に巻きついたり付着したりしながら成長していく植物。
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Author:char
不惑以上知命未満のリーマンbloggerです。
言葉には過敏でありたい。
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2006.3  漢字学習スタート
2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
2007.10 1級合格①
2009.2 1級合格②

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