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過去を忘れず復興の「ほととぎす」を待てば未来は開けるはずだ=「鶉衣」(2)

江戸中期の俳人、横井也有の「鶉衣」(岩波文庫上・下巻、堀切実校注)シリーズの2回目は、「閑居記」(前編中二八、上巻130~135頁)です。親孝行したい時に親はなし。「風樹之歎」という成句もあるように、あれほど疎ましいと思ったことさえある親といえども、時期が来れば居なくなるのは必定。その時になってからでは時機は失しているのです。也有も例外ではなかったようです。悔恨の一念。今回はそんな親を大切に思う気持ちに綢わる言葉が目白押しの一齣です。親を想う子の気持ち。現代人は今一度、噛み締めるべきではないでしょうか。

忘るまじ、此一室は古き世のわがゆかりなりけり。もとは城西の閑居にして、我曾祖母のいまそかりし、今は四十年の昔ならむ。その人おはせずなりて、鴉の軒をあらし、鼠の壁を穿ちしほどもやゝ年あり。そののち母のすみ給へるかたに、ふたゝびいとなみしつらひつれば、A)あけくれの定省に1)カンケンをとひ馴れしは十とせあまり三とせばかり、千代もと祈りしそのかひもなく、むなしくB)風木のかなしみを抱き、2)トウリ物いはぬ昔とはなりぬ。しかればこぼつに忍びず、今官邸に閑地あるにまかせ、暫くこゝに引移し、猶菅原や伏見の里もと契り置きて、平生3)ザガの一間となせるよりは、馴来つる真木柱も我を忘れじを、我はまして馴れこしかたの花もなつかしく、風も忍ばしく、窓に雪みる夕べは早梅4)ショクヨウの笑をふくみ、軒に月もる暁は鶏声5)カンソウの期を告げて、猶孝情の尽さゞりし事を惜む。

されば一室は八畳の南を請けて、床も押込みももとみしまゝの名ごりとどめつ。北に三畳のおくまりたる所、夏はあけわたして風を通はす便あり。中はまして冬ごもりによろし。6)に7)フスマさし、ともし火をかゝげて、読書8)セイザのかくれ所とす。その窓に子猷が竹あり、陰を愛して杖にもきらず。その軒に弘景が松あり、声をたのしみて蚊やりにも手折らず。背戸には淵明が9)セイチュウありて、雪間の若菜をつみそむるより、10)も酢味噌にとぼしからず。茄子はもとより世に久しくて、あけくれのあつものには、少しあかるゝもつれなしや。午房はほそくとも大根はふときをいとはず。まして芋は地に叶ひて、いかめしきまでそよぎたち、豆も実入の折すぐさねば、せみの小川の影ならずとも、月も此軒をたづねずやはあらむ。十日11)クチのさはがしきも、一日の閑にとりかへして、これだに治世の住みよきをしるにも、おはさぬ人のいかでかと、あかずただ口おしく、忍ぶ草の忘られず、へだちゆくあとのみおしまるれば、額に「無待」の二字を書きしも、たゞこの心に思ひよれるを、いさほとゝぎす、我なうとみそとぞ。



■下線部Aの意味にふさわしい四字熟語を記せ。


■下線部Bの意味を記せ。

「午房」は「牛蒡」の当て字か。「午」か「牛」か迷うところですね。

母親の住んだ部屋に也有も一時住んだのです。閑居を求めたのです。齷齪した日々も、この部屋で過ごすと、たった一日で忘れ、取り戻すことができる。と同時に、今は亡き母親の思いばかりが去来する。そこで也有は「無待」の二文字を額縁に入れて飾ったのです。後悔ばかりが沸き起こる昔の思い、それは母親への愛情であり、もっと長生きしていらしったらもっともっと孝行が出来たのになと悔恨の情をを以て振り返るばかり。これからの未来のことなど歯牙にもかけないということです。すなわち、先だった母親を想う気持ちを表している。しかし、最後には「ほととぎす」にことよせて、そうはいっても囀るお前のことを待たないわけではないのだ。

過去と未来の狭間に生きる現在の自分の存在が確乎としない揺れるさまをうたっている。大震災や原発事故の傷跡はいまだ消えぬばかりか、日毎に新たな傷が生じ、痛みがあらゆるところに広がっている日本の現状。過去を悔いてばかり。未来など描けるはずがない。それでも生きなければならない。復興という陳腐なフレーズなど虚しいだけ。どうやって過去を消化し、未来を正視できるのか。亡くなった人、終わったことを消すことは出来ない。その前提に立てば、これからのことを期待していいのです。懐かしい人たちの思いは忘れずに、ほととぎすが来るのを待てばいい。気がつけばその明るい囀りが耳に届く頃おい、人々は新たにステージに立っているのかもしれません。果してこの国にほととぎすがやって来るのかどうかは知りませんが。。。

「小人閑居して不善を為す」という成句のあるせいか、「閑居」という言葉にはネガティブなイメージが付き纏います。ひまですることがない=碌なことではない、のような。。しかし、大事な古の人を想い偲ぶには格好のチャンスでもあるのです。もちろん、「小人」であり続けてはいけないのでしょう。その戒めとしてこの成句が意味を持つと思います。閑居をもっと大事にしてもいいのではないか。未来を描くために過去を黙殺ではなく黙考するのです。われわれは忙殺にかまけてあまりにも大事な物を見失ってはいないか。天の声はもっと地に足を着けろと言っているのではないか。足許を見詰め、身の回りを見渡せば見えてくるものがある。「焦りなさんな」。也有の黙考からそんな思いに浸ってしまいました。



■A)=昏定晨省。親に孝行を尽くすこと。「昏れに定めて晨に省みる」と訓読。礼記が出典。温凊定省(オンセイテイセイ)でも正解か。同義に扇枕温衾(センチンオンキン)もありますが、「あけくれの定省」とはやや異なるか。

■B)=子が親孝行したいと思った時には、父母が既に死んでしまっており、孝行がすることができないといった嘆き。風樹之歎・風木之悲と同義。成語林によると、韓詩外伝に「樹静かならんと欲すれども風止まず。子養わんと欲すれども親待たず。往きて見るを得べからざる者は親なり」とあります。

1) カンケン=寒暄。さむさとあつさ。岩波文庫を目を皿にして見ると「寒喧」となっていることが分かります。これは紕繆ですね。「喧」と「暄」は微妙なので要注意。かたや口ヘン、こなた日ヘン。誤字訂正問題にはぴったりです。「喧」は「やかましい」、「暄」は「あたたかい」。

2) トウリ=桃李。ももと、すもも。岩波の注釈によると、和漢朗詠集に載る菅原文時の詩にある「桃李言はず春幾ばくか暮れぬる 煙霞跡無し昔誰か栖みし」を踏まえている表現。勿論、桃李成蹊を前提に詠んでいるのでしょう。桃李はあれこれ物を言わないが、毎年花を咲かせ稔り甜い果実を提供してくれる有り難い存在としてとらえられています。時代の変化に関わらず泰然とし続ける代表なのです。

3) ザガ=座臥(坐臥)。すわることと寝ること。起き伏し。転じて、普段、常日頃、日常生活をいう。行住坐臥。

4) ショクヨウ=色養。親の顔色を見て、親の気持ちを察して仕えること。岩波によると、「晋書」・「潘岳」にある「膝下色養」の語が出典とあります。「シキヨウ」とも読む。早咲きの梅が咲くさまを親に孝養を尽くしている笑みに喩えています。

5) カンソウ=盥漱。手を洗い口をすすぐこと。岩波によると、「小学」外篇「明倫第二」に、冠礼のすんだ成年男子が早朝父母に伺候する作法が記されており、その一つに盥漱があるといいます。その前の「鶏声」(ケイセイ)は、「鶏鳴」に同じで、夜明け・早朝を指す。

6) 爰に=ここに。ここにおいて、そこで。「焉に」「于に」「粤に」「茲に」「此に」も同様。指示詞。音読みは「エン」。爰書(エンショ=罪人の供述を写し取った書)、爰田(エンデン=昔、公田の税収を賞与にきりかえて、賞すべき人に与えることにした田)。

7) フスマ=襖。建具の一つ、からかみ。部屋の仕切り、防寒用。夏は暑いので取り外すことも。「ふすま」は同音異義語で「麩」「衾」があるので混同せぬように。。。ここは前後の文脈から母上の部屋の描写であり「襖」。

8) セイザ=静座(静坐)。心を落ちつけてしずかにすわること、すわって心身をしずかにおちつけること。ここは姿勢正しくすわる「正座」ではない。

9) セイチュウ=西疇。西側の田。「疇」は「あぜで区切った田畑」。岩波によると、陶淵明の「帰去来辞」に出てくる言葉で「淵明の居る所の西方の田」。陶淵明ワールドには欠かせない語彙で、後世人が事あるごとに引用しています。もちろん前にある「淵明が」が大ヒントですが、知らなければ「掣肘」や「世胄」などが想起されるでしょう。

10) 苣=ちさ。キク科の草本。葉はサラダにし(生で食べるということ)、あるいは酢味噌で食する。萵苣(チシャ)とも。要するに、春菊かサニーレタスみたいなもの?

11) クチ=駆馳。はせまわって人のためにつくすこと。駆遣(クケン=追いたてて人をつかう)、駆儺(クダ=年末や節分などに悪鬼をおいはらう儀式、おにやらい、追儺とも)。駆騁(クテイ=馬をあちこちに走らせる)、駆掠(クリャク=追い払って財産などを奪い取る)。
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Author:char
不惑以上知命未満のリーマンbloggerです。
言葉には過敏でありたい。
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2006.3  漢字学習スタート
2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
2007.10 1級合格①
2009.2 1級合格②

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