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チョウショウ≠嘲笑、コウキ≠好奇…じゃあ何??=「鎗ケ嶽探険記」(20)

明治のアルピニスト、小島烏水の「鎗ケ嶽探険記」(岩波文庫、「山岳紀行文集「日本アルプス」所収、近藤信行編)シリーズの20回目は、「その九 鎗ケ嶽二回登山の記 下 第二回の登山」の一回目です。

さらぬだに露の1)つるにさへ、心を置く山中の旅客なり、高寒に2)蟄蛇の夢を破られて起き上れば、一天霽れて繊雲なく澄みたること水に似たり、何物の恠禽ぞ、頻にけたたましく爛星に叫び、一木惨として3)ビセンせず、ほがらなる(=朗らか、曇りなく晴れわたるさま)暁や、深沈たる白檜黒檜の聖なる天杖を、4)ヒシヒシと隙間なく駢べて、高く5)ショウカンに入り、その梢に支へられたる天外の6)サンポウ列岳は、堆藍水に溶けやらず、7)サイカイ東を屹たり、領巾を振つて立つて8)ベンブす、曦車の出づるを迎ふにやあらむずらむ。

我らはまたこれより昨日の来路を取りて、神河内へ下らんとする身なり、おもへば今の今まで、乱山荒水の間を風に梳り雨に9)モクして、さすらひたるも実にこの高嶽の絶巓に立ち、天風に10)チョウショウして11)コウキを養はむとするにありたるものを、登山といふ名はありながら、霧のために一切茫々、何物をも観ず、12)ショウコとして下らば、少しは髭を立てたる男一疋、いかで口惜しからざるべき、況いて爽空一碧、灝気13)ヒカンに沁み入りて、天地一片眉間に落つるこの朝ぼらけ下るをや。いで、いで、今より第二回の登山を試みてくれんずるはと、勇み立ちたれど、またここまで下らむはおもしろからず、鎗ケ嶽の裏山なる千丈の絶壁を、逆毛吹かるる野猪の如く、驀地に下りて深谿窮谷を乱り、飛騨の国は吉城郡蒲田の温泉に出でむはいかにと、市三郎を麾いて14)るに、さしも胆気を負へる彼も、頗る難色あり、沈吟やや久しうして、巌屋の主人を顧み「どうだ往けるだらうかの」と促すに、彼は馬子張の煙管を一服吹いて焼木に丁(とん)と叩き、「造作もねえこつた、おれツちや、毎日のやうに往んだり来たりしてますさ」と。そのさま日和下駄を15)穿ツかけて、隣家へ通ふより容易(たやす)げなり。すはやと血気に逸る胸を押し鎮め、しかし谷の中で野宿をするやうになつても困るが、一日程(みち)で往けるかねと、念を押すに、大丈夫だよ、その方が神河内へ下りて往くのより、どのくれえ近いか知れねえと、余ら雀躍して曰く、しめた!


問題の正解は続きにて。。。







1) 零つる=おつる。雨つぶやしずくがおちる、物がしずくの垂れるようにおちるさま。「零ちる」は「おちる」。零余子(レイヨシ=むかご)。

2) 蟄蛇=チツダ。冬眠で穴にこもっている蛇。蟄虫(チッチュウ=じっと冬籠もりしている虫)、蟄雷(チツライ=春の雷)、蟄竜(チツリュウ=地中にじっと隠れ潜んでいる竜、活躍の機会にめぐりあえない英雄にたとえる、伏竜とも)。「蟄」は「かくれる」「こもる」。虫などが土中にかくれとじこもる。

3) ビセン=微顫。小刻みに震えること。意外に難語。

4) ヒシヒシと=犇々と。犇くさま。押し合いへしあいすること。犇と。少しの隙間もないさま。音読みは「ホン」。犇散(ホンサン=ちりじりに逃げ去ること)。

5) ショウカン=霄漢。はるかな大空。「漢」は「天の川」。「霄」は「そら」。

6) サンポウ=攅峰。群がっている山々。攅巒(サンラン)とも。「攅」は「あつまる」。攅聳(サンショウ=多くの山々が群がって連なりそびえていること、攅竦=サンショウ=)。

7) サイカイ=崔嵬。山がデコボコしていて険しいさま。岩石がごろごろしているうず高い山。崔崔(サイサイ)・崔巍(サイギ)ともいう。

8) ベンブ=抃舞。手を打ち踊り回って悦ぶさま。「抃」は「(手を)うつ」。抃踊(ベンヨウ)・抃躍(ベンヤク)もある。

9) モクして=沐して。「沐す」は「モクす」。ゆあみすること、あらう。沐雨(モクウ=雨で髪を洗う、雨をかぶってぬれる、櫛風沐雨=シップウモクウ=)。沐恩(モクオン=恩恵をこうむる)、沐日(モクジツ=官吏の休日、漢代、官吏を五日ごとに家に帰らせて洗髪・入浴させたことから)、沐食(モクショク=すぐれた人物を尊敬すること、すぐれた人が来ると、食べかけの食物を吐き出し、洗いかけの髪をたばねて面会する意から、吐哺握髪=トホアクハツ=)、沐浴(モクヨク=髪や身体を洗って身を清めること)、沐露(モクロ=露にぬれる、苦労して努力すること)、沐猴而冠(モッコウにしてカンす=サルが冠をつけている、粗野な人がうわべだけを飾るたとえ)。

10) チョウショウ=長嘯。声を細く長く出す、声を引きのばして詩歌をうたう、うそぶく)。

11) コウキ=浩気。浩然之気(コウゼンのキ)。天地の間に充満している至大至剛の気、自分の行動が正しくて天地に恥じるところがなければ、この気が身中に満ちて、何物にも屈しない大らかな道徳的勇気となる。

12) ショウコ=悄乎。心配してしょんぼりとしたさま、さびしくひっそりしたさま。悄然(ショウゼン)と同義。「悄える」は「うれえる」。悄愴(ショウソウ=気がめいって心を痛めるさま、ひっそりとさびしいさま)。

13) ヒカン=脾肝。脾臓と肝臓。体の中全体を言う。

14) 咨る=はかる。意見をならべ出して相談する。音読みは「シ」。咨嗟(シサ=舌打ちして感嘆する、咨歎=シタン=・咨嘆=シタン=)、咨咨(シシ=嘆息するさま)、咨美(シビ=深く感銘してほめたたえること)。

15) 穿ツかけて=履物を無造作にはく。「突っ掛ける」。当て字。「穿く」は「はく」。
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Author:char
不惑以上知命未満のリーマンbloggerです。
言葉には過敏でありたい。
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2006.3  漢字学習スタート
2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
2007.10 1級合格①
2009.2 1級合格②

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