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「砲」と「艦」、普通に読んじゃ詰まらないなぁ~=「鎗ケ嶽探険記」(18)

明治のアルピニスト、小島烏水の「鎗ケ嶽探険記」(岩波文庫、「山岳紀行文集「日本アルプス」所収、近藤信行編)シリーズの18回目は、「その九 鎗ケ嶽二回登山の記 上 第一回の登山」の四回目です。

初めの予定はここにて一泊するに在りしが、時漸く1)なるを以て、余らは登山説を主張し、大石屋はここに一泊して新鋭の気を養ひ、明朝を以て絶巓を窮めむといふ、さきに急湍を渉るとき、彼は少壮より「川飛び」「山駈け」の名人なりしを負ひて、屈曲斗折せる山流を先駆し、つねに我らを七、八間後に捨て去りて、はては影をも見せざることあり、幾ど自己のために登山するものに似たり、ひとり市三郎の我らを懇ろに2)フエキするものありて、幸ひに全きを獲たるなり、而して今俄に沮むものは、行を緩うして3)ヒヨウ銭を多く貪らんがためのみ、余が性気急短は彼がおもしろからぬ挙措によりて、一倍の熱を加へたれば、今日これより絶巓に登り、蒲田の谿谷を4)りて、飛騨に入るに何の手間暇あらむといきまく、大石屋はひた呆れに呆れて円らなる5)ドングリマナコを張り「おめへッち、途方もねえことを、どうして往かつしやるだ」と冷笑す。余また怒る、刀あらばまさに按じたるなるべし、市三郎間に介まりて交も6)キュウカイし、一個の折衷案を提出して曰く、ともかくも日なほ高ければ今日これより絶巓へ登ることとすべし、しかれども蒲田越えは到底むづかしければ、ここまで引き返して、今夜はここにて一泊することにすべしと、衆議即ちこれに一決し、鍋や米やを挙げて、この巌屋に托し、結飯をのみ腰に括りて直に発す。

深林の間の7)サイケイ――おそらくは巌屋の主人が拓きたるものならむ――に踏み入り、「タケ8)グミ」といひて、9)ヤマブドウめきたる黒紫の実を結べるものを採りて、行々これを10)ふ、はじめは気味悪しくおもひて毒なきやと問へるに、市三郎は「嶽に11)るものに、毒のあるもなあ、ねえだよ」と。その12)コウフン殆ど我らの無知を憫れむごとし、林ははや白檜(しらべ)帯に入りて、朽ちたる13)僵木路に横はりて交叉し、スギゴケの潤苔を14)て辿るに足を辷べらす、頻に啼くものは閑古鳥かあらぬか、15)メイドよりの使者に似たり。

深林を突破してまた川となる、山頂の雪は日に溶けて、魔女の紡げる白髪の如く、取次に乱流して歩々量を増し、石を盪かして風雨の声をなす、しかも大石16)犖确として上下に突兀し、17)を抛ち18)を倒しまにして水を逆ふるを以て、前の川の如く足を濡らすに及ばず、石より石を伝ひてはや七合目ほどのところに到れば、水19)れて雪は瑠璃洞を作る、その上を渉るに固きこと冷鉄の如く、歩々杖にて二、三寸を掘り、足場を作りてはまた上る。



問題の正解は続きにて。。。





1) 午=ひる。正午。午餉(ゴショウ=ひるめし、午餐=ゴサン=・午食=ゴシ=・午饌=ゴセン=)、午下(ゴカ=昼過ぎ、昼下がり)、午枕(ゴチン=昼寝のまくら、昼寝)、午夜(ゴヤ=夜の十二時)。

2) フエキ=扶掖。力を添えて助ける。扶助ともいう。「扶」も「掖」も「たすける」。

3) ヒヨウ=日傭。一日に限って雇うこと、ひやとい。「傭う」は「やとう」。

4) ワタり=乱り。「乱る」は「わたる」。これは当て字でしょう。おそらく「無理矢理」というニュアンスを出しているのでしょう。

5) ドングリマナコ=団栗眼。まるくてくりくりした目。にぶそうで品のない目つきにもいう。ここは前者。意外に書けないのでは。。。

6) キュウカイ=救解。人の罪をすくうために弁護すること。「解」は、不明な点や理由を明らかにすること。これは簡単な漢字ですが難語でしょう。咎悔、宮槐、九廻、旧懐などが想起されそうです。揉めそうな二人の間に入って助け船として折衷案を出すのです。

7) サイケイ=細径。こみち。幅の狭い道。「径」は「こみち」。

8) グミ=茱萸。グミ科の植物の総称。果実は赤く熟すと渋みがあるが食用になる。通常は「胡頽子」と書く。「茱萸」は「シュユ」と読むのが通常。ゴシュユのこと。

9) ヤマブドウ=山葡萄。ブドウ科のつる性落葉低木。山地に自生。葉は五角形で、裏に毛。黒い球形の果実は食用。秋の季語。

10) 茹ふ=くらふ(くふ)。かんでやわらかくしてたべる。「ゆでる」もあり。音読みは「ジョ」。茹葷(ジョクン・クンをくらう=ニラ・ニンニクなどの、においの強い野菜をたべる)、茹菜(ジョサイ・サイをくらう=野菜や山菜をたべる、茹素=ジョソ・ソをくらう)、茹菽(ジョシュク=野菜と豆、シュクをくらう=豆ををたべる、貧しい生活をすること)、茹草(ジョソウ・くさをくらう=草をやわらかくしてたべる)。

11) 生る=なる。実ができる。「はえる」とも訓めそうですがそれでは面白くない。「生す」(なす)と他動詞もあり、こちらは「子供を産むこと」。簡単ですが案外訓み間違うか訓みきれないのでは?

12) コウフン=口吻。口ぶり。口気(コウキ)とも。「吻」は「くちびる」。

13) 僵木=キョウボク。倒木。たおれた木々。「僵れる」は「たおれる」。たおれた木々があたかも「屍」のようだというのです。

14) 衣て=きて。「衣る」は「きる」。衣服を身に着ける。

15) メイド=冥途。死んだ人の魂がいく所。死後の世界、あの世、よみじ。冥土でも正解。冥界(メイカイ)・冥府(メイフ)・冥路(メイロ)・冥境(メイキョウ)ともいう。

16) 犖确=ラッカク。山に大きな石がたくさんあり、その一つ一つが目立つさま。「犖」は「まだらうし」。卓犖(タクラク=高く抜きんでて目立つさま)。

17) 砲=おおづつ(つつ)。大砲。

18) 艦=いくさぶね。戦いに用いるふね、やぐらの上から見下ろす大きな軍船。「いくさぶね」は「艨」「艟」とも書く。

19) カれて=涸れて。「涸れる」は「かれる」。水がなくなってかたくなる、ひあがる。音読みは「コ」。涸陰(コイン=すべての物がこちこちに凍って水気もかれてしまうような、厳しい寒さ)、涸渇(コカツ=枯渇、尽きてなくなる)、涸旱(コカン=ひでり、ひあがる)、涸轍(コテツ=わだちの水たまりのかわいたあと、非常に苦しい境遇のたとえ、涸轍鮒魚=コテツのフギョ)、涸鱗(コリン=涸鮒=コフ=涸轍鮒魚)。
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Author:char
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2006.3  漢字学習スタート
2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
2007.10 1級合格①
2009.2 1級合格②

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