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美味しいものを食べた時、これを打ちますよね?=「鎗ケ嶽探険記」(17)

明治のアルピニスト、小島烏水の「鎗ケ嶽探険記」(岩波文庫、「山岳紀行文集「日本アルプス」所収、近藤信行編)シリーズの17回目は、「その九 鎗ケ嶽二回登山の記 上 第一回の登山」の三回目です。


川を束ねて環峙せる1)キホウは、半腹に鳩の斑の如き白を被ぶる、はじめは雪とおもゐたりしが、後に皆花崗の白礫なるを知り得たり、水いよいよ深くして渉るべからず、昨日の霞沢に比して流峻しく底深く、河幅また濶けれど、幸ひに崖は彼が如く2)テイバツせざるを以て、多くは崖の熊笹を押し分けて路を作りたりしが、笹の物たる、由来山国自由の3)ケンジ、到底人の脚下に伏するを肯んぜざるもの、たとひ力を極めてこれを圧倒するとも、一たび足を挙ぐれば4)カンゼンとして猛力に反撥し、触るるものをして仰ぎ仆れしむ、我らために困憊して幾んど起たず、辛うじて導者らの肩に負はるるが如く、身を5)モタせかけ、彼らが6)ヒビして行く蹤に7)コンズイす、この間の一里、実に我をして北海道の深山に入りたるかを想はしめぬ。


横尾といふところにて川は左右に岐る、我らはその右に沿ひて渉り、一の俣二の俣と追分を作るところにて、河原に石を敷いて踞し、8)吼雷の如き水声を聴きながら、結飯を嚙み、笹を折りて箸を作り、杏の鑵詰をつつきて舌を9)す、偶ま小木を削りて作りたる10)メイトの11)を、河原に挿めるものあるを見る、禿び筆に認めて曰く「右やりがたけ、これより絶頂まで四時間」と。けだし一週日前、参謀本部の吏、人夫を引率して三角測量標を12)サンテンに13)ぶべく、登山したる時に樹てたるものならむといふ。

これより左に折れてまた崖に登る、市三郎は猪の穴を発見したりとて大悦措かず、余の疾く疾くと促すを、恨めしげにうち見やりて去らず、蛇の道は蛇なりと笑ふ、また熊笹の部落となりて箭襖の中に入るや、一行その尖(きつさき)に多少の傷を負はざるはなし、昨夜炉辺の14)カンダンに、老猟師らが動もすれば熊笹熊笹と、気にかくるを、熊ならば怖れもせめ、熊笹何かあらんと腹の中にて嘲りたりしが、今に迨びて初めてその15)カカン言にあらざりしを知りぬ、鎗ケ嶽登山中、16)キュウタンの険と熊笹の悪とに至りては、到底富士、御嶽、立山、白山などの能く拓けたる高山にては、見るを得ざるところなり。

笹道を押し分け、石道三十五度の傾斜を以て聳ゆるところを17)づるに、石磊々として足を挙ぐるごとに、石と石と相触れ、相撲ち、喧噪して谷底に下る、後人の頭を敲きはせずやと顔色変ずること幾回。樺の立木を目標として、横ざまに路を18)ひ、灌木叢に切れこみ、ここにて一つの小舎を見出しぬ、小舎といへど一枚巌の崖より19)の如くさし出たるを、そのままに屋となし、藤蔓を樺の木に結びて、壁を作り、蓆を入口に懸垂したるものにして、この方より呼べば応とこたへて、骨骼逞しく、20)シュハツ鬖々(サンサン=髪が乱れているさま、乱れ髪)たる猟師一人出で来る、導かれて内に入り、小憩す。


問題の正解は続きにて。。。






1) キホウ=危峰。たかくけわしい峰、そそりたつ山。危嶺(キレイ)・危峨(キガ)。「危」は「けわしい」。危坐(キザ=物に寄りかからずきちんと背を伸ばしてすわる、正坐、端坐)、危檣(キショウ=たかくそびえたつ帆柱)、危闌(キラン=たかい所にあるてすり、高檻)、危楼(キロウ=たかくそそりたった楼閣)。

2) テイバツ=挺抜。人よりぬきんでてすぐれている。挺特(テイトク)・挺立(テイリツ)ともいう。「挺んでる」は「ぬきんでる」。天挺之資(テンテイのシ=天賦の才能)。

3) ケンジ=健児。元気のよい若者、兵士・つわもの。「コンデイ」と読めば、「江戸時代、武家に仕えた下働きの男、中間・足軽のたぐい」。

4) カンゼン=悍然。あらくたけだけしいさま。「悍」は「あらい」「つよい」「おぞましい」などと訓む。悍戻(カンレイ=荒々しくて道理にはずれている、乱暴である)、悍吏(カンリ=荒々しく心根の悪い役人)、悍勇(カンユウ=気が荒く、勇ましい)、悍驕(カンキョウ=気が荒くわがままである)。やや難語。完全、勧善、煥然、侃然、莞然、驩然、敢然、間然と同音異義語が多いのも要注意。

5) モタせ=凭せ。「凭せる」は「もたせる」。「凭れる」は「もたれる」。よりかからせること。音読みは「ヒョウ」ですが熟語例は知りません。あれば貴重かも。

6) ヒビ=披靡。木の枝や葉が分かれ散って乱れるさま。「披」は「ひらく」。わかれて離れること。披払(ヒフツ=風が草むらなどをなびかせる、木の葉が風になびく)、披離(ヒリ=木の枝や葉が分かれ散って乱れるさま)。

7) コンズイ=跟随。人のすぐ後ろにつきしたがうこと。跟従(コンジュウ)ともいう。「跟」は「くびす」「したがう」の訓あり。跟肘(コンチュウ=かかととひじ)。

8) 吼雷=コウライ。雷のとどろく音、雷のような大きな音で鳴り響くこと。雷吼(ライコウ)ともいう。「吼」は「ほえる」。転じて、大声で怒鳴る。呉音では「ク」。獅子吼(シシク)。吼号(コウゴウ=大声をあげて叫ぶ)、吼天氏(コウテンシ=天でほえるものの意から、風の異名)、吼怒(コウド=怒って大声でほえる、激しく怒ること)、

9) コす=鼓す。ぽんぽんたたく、リズムをつけて動かす。前にある「舌」がヒントで、「舌鼓を打つ」は「おいしい物を舌をならして食べること」。

10) メイト=迷途。道が分からなくなる、物事の進むべき方向にとまどう。「迷津」(メイシン)ともいう。「メイズ」と読めば、仏教語で「執着しこだわるもののある迷いの境地、三界・六道のこと」。

11) 標=しるべ。しるし。高くかかげた目印、めだったしるし、まと。標幟(ヒョウシ=目標・区別などをしめすしるし、目じるし)、標致(ヒョウチ=顔かたちがめだって美しい、器量がよい)、標榜(ヒョウボウ=主義・主張などをはっきり示すこと)。

12) サンテン=山巓。やまのいただき、頂上。「巓」は「いただき」。

13) 搬ぶ=はこぶ。物をA地点からB地点へはこんで動かす。搬弄(ハンロウ=相手の欠点をとりたててからかう)。

14) カンダン=閑談。無駄話、世間話。ここは「歓談」ではない。

15)カカン=河漢。天の川。「河漢之言」(カカンのゲン)は成句で「漠然としていてとりとめのないことばを喩える言い方」。あまりにも途方も無いように聞こえるので現実感のないたわごと。

16) キュウタン=急湍。川で流れのはやい部分。早瀬。急灘(キュウダン)とも。「湍」は「はやせ」。湍激(タンゲキ=水流が急で激しいこと、その早瀬)、湍水(タンスイ=うずまきながらはやく流れる水、急流、湍流=タンリュウ=)。

17) ヨづる=攀づる。「攀じる」は「よじる」。高い山や木によじのぼる。音読みは「ハン」。攀援(ハンエン=物にすがってよじのぼる、攀縁=ハンエン=、互いに助け合う、頼りにする)、攀桂(ハンケイ=科挙に合格するたとえ、立身出世するたとえ)、攀登・登攀(ハントウ・トウハン=よじのぼる)、攀附(ハンプ=からだをそらせてよじのぼる、身分の高い人にすがりついてたよる)、攀竜附鳳(ハンリョウフホウ=竜にすがりつき、鳳凰につき従う、家来がすぐれた君主にたよって、功績をたてることのたとえ)、攀恋(ハンレン=動いて行く車にすがりついて、なごりを惜しむ、任地を離れて行くすぐれた地方長官に対して、民衆がその退任を惜しみ恋い慕うことの形容、攀慕=ハンボ=)。

18) 褫ひ=うばひ。「褫う」は「うばう」。さっと横からひいてものをうばいとる。音読みは「チ」。褫気(チキ・キをうばう=気をうばわれる、たまげる)、褫奪(チダツ=官位・権利などをとりあげる)、褫魄(チハク・ハクをうばう=心をうばう、驚かして意気を失わせること)。

19) 廂=ひさし。家の軒に添えられた小屋根。

20) シュハツ=鬚髪。あごひげと髪。
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Author:char
不惑以上知命未満のリーマンbloggerです。
言葉には過敏でありたい。
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2006.3  漢字学習スタート
2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
2007.10 1級合格①
2009.2 1級合格②

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