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嗚呼ピンチ!熊に囲まれたと思いきや何とそれらは…もう大変?=「鎗ケ嶽探険記」(15)

明治のアルピニスト、小島烏水の「鎗ケ嶽探険記」(岩波文庫、「山岳紀行文集「日本アルプス」所収、近藤信行編)シリーズの15回目は、「その九 鎗ケ嶽二回登山の記 上 第一回の登山」の一回目です。これからが本当の蔗境です。

午前三時醒む、老猟師は主人顔に豆火のなほ消えやらぬ炉を吹き起して1)ホタをさし燻べ、大石屋や山林吏の導者らが、車座になりて一つの炉を取り囲み、飯を炊き乾魚を炙るに忙はしき間、本日登山の急先鋒を承はりたる市三郎は、これより2)セイロのこととて、少しも油断なく老猟師に山中の絵図を引きてむやと乞ひたるに、彼は3)ダイコウ掌上の螺紋といはんばかり得意満面に快く4)ひ、我が与へたる改良判紙をためつ透かしつ視て5)つこいなあと嘲りつつ、昨宵山鯇(やまめ)の腹を6)ホフれるときにや用ひたる、血痕したたかなる俎板を裏返しにして、その上に展べ、同じく我の貸したる鉛筆にて幼児のいたづら書きのごとき枯枝やうのもの五、六本を無造作に引き、ここの筋は一の谷の俣、かまへて踏み入りそと語気荒らかなれど懇ろに教ふるを、大石屋も向き直り額を7)めて聴いてゐたり。老猟師はいふ、我らの仲間が三日前の雨に下山したるとき、荷になるが邪魔なりとて米三升ばかり、赤岩の小舎に置き去りにしたと聞きたれば、なほあるべし、万一8)カテ足らずばそを借るも可からむと。山林吏の案内者も、このときは已に相談仲間に加はりて、五、六日以来梓川の水量嵩まりたれば、この衆たちにやむづかしからむといふにぞ、我らは窃に胸を痛め、先途を気遣へる大石屋の主人も率然として色を変じける。市三郎独り頑然として肯はず「水が多きやあ、多いやうにして越す法があるによ」と運用の妙は一心に存すの意気を示す、けだし炉辺のA)■■(まどい)に、市三郎らが鎗ケ嶽不知案内なる旨を9)して、教へを乞ひたるに、山林吏の案内者、我がために弔して「大野川の衆でも伴れて来れば宜かつたになあ」といひたるに、利かぬ気の市三郎が10)テキガイシンを挑発したりとおぼし。大石屋は市三郎を11)ケンゾク視して、12)ガイを張れど、我らの信任はかへつて繋がりてこの壮佼(わかもの)に在り、彼を待つこと13)鵯越の鷲尾三郎も14)ならず。

顔洗はむとて山嵐に胴震ひを堪へながら、戸外に立ち出でたるに、何物とも知れず背後よりのさりのさりと覗ひ寄るものこそあれ、駭いて振り向けば小山の如き巨獣の揺き出でたるなり、15)として我にもあらず二、三歩避けたる時は、既に遅し、わが両腋を挟んで舌舐めずるもの鼻を16)ウゴメかすもの四、五頭に及ぶ、熟視するに牛なり、少しは胸おちつきたれど、さすがに気味宜しからねば、踵を17)メグらしたるに、また一頭二頭と、小舎より弓杖ばかり隔たりて結び繞ぐらしたる粗朶の18)ラチを超ゆるもあり、潜るもありて、我が小舎に入りたる後を追ひ来り、角にて戸を突き破らむばかりなるに、老猟師は戸を啓けざまにホタを抛ち、次ぐに19)ダイシツを以てしてこれを走らしぬ、聞くところに拠れば横一里縦七里のこの神河内の牧野に、約百五十頭の牛を放飼せりといふ。


■和訓語選択。

A) 「まどい」→コンラン・ケンラン・ドンラン・タンラン・ダンラン・ビンラン

問題の正解は続きにて。。。



■和訓語選択

A) 「ダンラン」=団欒。団居・円居。人々が輪になって座ること。くるまざ。親しく集まり合うこと。


1) ホタ=榾。焚火などにする木の切れ端。音読みは「コツ」。

2) セイロ=生路。生き延びるみち、逃げ道。「征路」(=たびじ)もよさそうですが、烏水は「生路」を充てています。おそらく、「はじめて通る道」といったニュアンスがあるのでしょう。

3) ダイコウ=乃公。目上のものが目下の者に対して自分を言う言い方。おれさま。

4) 諾い=うべない。「諾う」は「うべなう」。いかにももっともだと思って承知する。「うけがう」とも訓める。

5) 脆つこい=やにつこい。古語で「もろい」の意。通常は「脂っこい」と書く。「脆い」は「もろい」。

6) ホフれる=屠れる。「屠る」は「ほふる」。体を切り裂く、ばらばらに切り殺す。音読みは「ト」。屠狗(トク・いぬをほふる=犬を殺す)、屠沽(トコ=犬や豚を殺して肉をとる者と、町で酒を売る者、転じていやしい職業)、屠宰(トサイ=家畜などを殺して料理する、割亨)、屠肆(トシ=牛・羊などの肉を売る店)、屠所(トショ=食肉を処理する所)、屠者(トシャ=家畜を殺して肉や皮をとる人、その仲間、屠中=トチュウ=)、屠釣(トチョウ=牛・羊を殺したり魚を釣ったりする、転じて身分の卑しい人)、屠腹(トフク=割腹)、屠戮(トリク=残酷に殺す)。

7) 鳩め=あつめ。「鳩める」は「あつめる」。一つ所にあつまること。鳩合(キュウゴウ=多くの者が一つの場所にあつまる、鳩聚・鳩集=キュウシュウ=)、鳩首(キュウシュ=ハトが首をあつめてあつまっているように、人がひたいをあつめて相談すること)。

8) カテ=糧。古代、旅行などに携えた食糧。糒(ほしい)の類。かりて。食糧全般。

9) 白し=もうし。「白す」は「もうす」。内容をはっきり外に出して話す、また、上の人に真実をもうしのべる。稟白(ヒンパク=もうしのべる)。

10) テキガイシン=敵愾心。敵や競争相手に立ち向かって張り合おうとする意気込み・心ばえ。「愾」は「胸に詰まる気持ち」。

11) ケンゾク=眷属。一族、恩顧を受けている者、配下の者。眷は「かえりみる」。

12) ガイ=我意。自分の考えを押し通そうとする気持ち。わがまま。

13) 鵯越=ひよどりごえ。地名。神戸市の市街地西部から六甲山地を越えて北西方に走る山路。1184年、源義経が一谷の平家の軍を襲撃しようとし、鷲尾三郎を先導として越えた難所として有名。ここもその故事を踏まえている。

14) 啻=ただ。「ただならず」として、一廉のものである、大したものである。これよくでます。

15) 悸として=キとして。おどろきおそれて胸が動悸をうつ、どきどきすること。

16) ウゴメかす=蠢かす。なかにこもってもぞもぞと動かす。

17) メグらし=旋らし。「旋らす」は「めぐらす」。ここは「旋踵」(くびすをめぐらす)という成句で「かかとの向きをかえる、その場から引きさがること、転じて、短い時間のたとえ」。踵を回らす、還踵とも書く。「めぐらす」はいくつかありますが「旋」の字を是非とも覚えておきたいところ。

18) ラチ=埒。かこい。内と外を分けるためのかき。

19) ダイシツ=大叱。大声でしかる。大喝(ダイカツ)。「どやす」の当て字もありそうです。
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Author:char
不惑以上知命未満のリーマンbloggerです。
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2006.3  漢字学習スタート
2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
2007.10 1級合格①
2009.2 1級合格②

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