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「ルイバ」を「エイバ」と読んではいけませぬ、岩波さん!=「鎗ケ嶽探険記」(12)

明治のアルピニスト、小島烏水の「鎗ケ嶽探険記」(岩波文庫、「山岳紀行文集「日本アルプス」所収、近藤信行編)シリーズの12回目です。今回は「その八 梓河畔に立ちて穂高山を観ずる記」のその一です。


これより霞沢山を北西に下るに決す、下り終るところは即ち穂高山の麓なる神河内にして、穂高山と肩を駢べてわが鎗ケ嶽あり。

下るといふもいづこより抜足すべきか、山の頂より七合目ほどのところまで、白檜や樅や栂の針葉樹は、鎗襖を作りたらむが如く、犇々と囲める中を1)クウケンに闘ひ、木々を揺り動かしつつ空翠を十里の外に刎ね飛ばして、四人先を争ひ喧嘩して下る、一里ばかり喬樹蓊欝、灌木2)エンエイ、互に柯を交へて解れず、枝と枝と相触れ、葉と葉と擦れ合ひて緑の大濤3)れをうつ中を、立泳ぎして緑冷の気骨に入るをおぼえぬ、森漸く開けて石となり、石漸く多くして水の奔るもの次第に急激、崖壁高く懸りて突兀空を摩する下、碧潭の小なるもの、往々藍を湛ふるに至る、石は磊々落々たる花崗の大岩、半ば水に沈んで径尺の断水の如きもの、苔衣破れて石膚に心臓形の4)リョウカクを突起するもの、畳十ひらは優に敷き得べしと思はるるほどに濶くして、5)カオク状を成すもの、水中に頭を潜め、肱を曲げて緑蔭を貪るもの、神斧に割られて襞の尖りを波立てたるもの、6)ヒャクタイにしてしかも自ら大小高低、不規律なる石の階段を作る、下るに水深ければ石を繞ぐりて避け、避けてはまた石に乗らんとして手を石に、腰を石に、足を石に凭せかけ、石と石と重畳する間に7)まり、あるいは8)サンボクの下、純水の中に裸身の人の浴を9)れる如く、10)ルイバの横はり11)すが如き石群の間を爪立して飛び飛びに越ゆ、石漸く少く、崖となりて路絶ゆるや、友の足は水湿の12)センタイに辷べりて、谷13)タデを尻の下に根こそぎにしたるまま、三、四間引き摺られ、崖の下に14)モンドリしたるときは、我ら手を額に加へたるまま、為む術を知らず、幸ひに潭浅くして友の這ひ出たるに安堵して、互に顧みたるとき、導者の顔色土の如く蒼かりしは、椎の葉の15)サバたる木蔭に佇みたる故にはあらじかし。

かくの如くして我らは高山より谷底に入り、谷底の窪口より水と倶に吐き出されたるなり。

川漸く濶くして分解されたる花崗岩の白沙は、水晶の屑を堆積したる如く、一万尺余の高山環峙の中、かくの如き沖積土を見むとはおもひかけざりし、しかもその間を黒松落々として峻直に斉列し、林道濶うして砥の如し、導者は逸早く岩魚釣りの足痕を認めたりと叫びたれど、我らには物色せられず、足許漸く昏くして黒松の枝を16)フシドにしたる怪禽は、はたはたと(はばた)きして人を喰ふかや、17)セイソウの声帽廂に落ちかかる下を、梓川の畔なる神河内の孤屋へと辿り着く。



1) クウケン=空拳。手に武器になる物を何も持たないこと。素手。徒手(トシュ)・空手(クウシュ)ともいう。徒手空拳(トシュクウケン=物事を始めようとするとき、頼れるもののないこと、手に何も持っていないこと、赤手空拳)が早期できれば問題なしですね。

2) エンエイ=掩翳。おおいかくす。

3) 頽れ=なだれ。通常は「くずれ」。当て字訓みです。「くずれおる」も。

4) リョウカク=稜角。とがった角。「稜」も「角」も「かど」。

5) カオク=廈屋。大きな屋根でおおったいえ。廈は「いえ」。高廈万間(コウカマンゲン=なん間もあるような広い家)、大廈高楼(タイカコウロウ=大きな建物、豪壮な建築物)。

6) ヒャクタイ=百態。ある物事が表す、さまざまの姿態・状態。ここでは、岩のさまざまな形を描写しています。

7) 介まり=はさまり。「介まる」は「はさまる」。

8) サンボク=攅木。むらがっている木々。「攅」は「あつまる」「むらがる」。攅攅(サンサン=木の葉などが密生しているさま)、攅蹙(サンシュク=一か所にあつまり縮まる)、攅聳(サンショウ=多くの山が群がって、連なりそびえていること)、攅仄(サンソク=声や音などが幾重にも重なりあつまるさま)、攅蹄(サンテイ=馬が極めて速く走ること)、攅眉(サンビ。・まゆをあつむ=眉をよせる、憂えるさま)、攅巒(サンラン=群がっている山、攅峰=サンポウ=)。

9) 澡れる=とれる。「澡」は通常は「あらう」「すすぐ」と訓む。ここは、「浴を澡れる」と用いて、「入浴すること」。熟語としては「澡浴」(ソウヨク)。これを覚えましょう。澡雪(ソウセツ=あらいすすぐ、心を清める、澡濯=ソウタク=・澡洗=ソウセン=)。

10) ルイバ=羸馬。つかれきった痩せおとろえた馬。「羸」は「つかれる」。岩波文庫のルビは「エイバ」と誤植。「贏」と「羸」を取り違えているようです。羸駑(ルイド)という言い方もある。

11) 偃す=ふす。「偃せる」は「ふせる」。からだを低くしてふせる。音読みは「エン」。偃臥(エンガ=横になって寝る)、偃甲(エンコウ=かぶとをふせおいて使わない、戦争をやめること、偃革=エンカク=)、偃仰(エンギョウ=ふしたり仰いだり寝たり起きたりすること)、偃然(エンゼン=安らかなさま、身を横たえて休息するさま)、偃草(エンソウ=風が草をなびかせたおす)、偃息(エンソク=寝ころんで休む、物事が終わりになる)、偃武(エンブ=武器をしまって使わないでおく、戦争をやめること、偃戈=エンカ=)、偃兵(エンペイ=武器をふせおいて使わない、戦争をやめること)。偃武修文(エンブシュウブン=世の中が穏やかで平和なこと、天下泰平)。

12) センタイ=蘚苔。こけ。苔蘚ともいう。蘚書(センショ=岩石に生えたコケが文字のようになっていること)、蘚磴(セントウ=コケが生えている石段)、蘚瘢(センパン=コケの、石碑などに生えているもの、蘚痕=センコン=)。

13) タデ=蓼。湿地に生じぴりりと辛い味がする。音読みは「リョウ」。蓼莪之詩(リクガのシ=詩経の詩の名。親が死んで孝養を尽くせなかった悲しみをうたったもの)、蓼菜成行(リョウサイコウをなす=小さいタデの葉が一列にそろう、転じて、小さな物事はできるが大きな物事ができないたとえ)、蓼虫不知辛(リョウチュウからきをしらず=からい味のタデの葉を食って生きている蓼虫は、そのからさを知らない、蓼食う虫も好き好き、好きであればつらいことも苦にならないことのたとえ)。

14) モンドリ=反筋斗。とんぼがえり、宙返り。身を逆さにかえして立つこと。翻筋斗と書くのが一般的ですが、烏水によればこれもあり?もし試験に出たら「翻筋斗」と書くことをお勧めしま~す。

15) サバ=娑婆。自由を束縛されている軍隊・牢獄・遊廓などに対して、その外の自由な世界、俗世間。ここは比喩的表現。「シャバ」とも読む。

16) フシド=臥床。ねるところ、ねどこ。臥、臥所とも書く。

17) セイソウ=悽愴。すさまじくいたましいこと。



問題の正解は続きにて。。。


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Author:char
不惑以上知命未満のリーマンbloggerです。
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2006.3  漢字学習スタート
2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
2007.10 1級合格①
2009.2 1級合格②

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