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なくて七癖あって○○癖。。。いくら何でも多過ぎでしょ=麗水の紀行文を評す(7)

明治のアルピニスト、小島烏水の「『日本名勝記』を読みて麗水の紀行文を評す」(近代デジタルライブラリー、「銀河」所収)の7回目です。ほぼ同時代を生きた紀行文家、ジャーナリストの遅塚麗水が書く紀行文を仔細に分析した中で、烏水が最も合点の行かないのは、言葉遣いがルーズなことです。その言葉自体は漢籍に裏打ちされた見事な物なのだが、あまりにも多用し過ぎており、何でもかんでもに当て嵌めてしまっている結果、いわば上辺だけが綺麗な陳腐な支那風味の景色がかたちづくられている。そんな捉え方をしているようです。言葉に溺れているというのは言い過ぎか。かつて陸機の「文賦」を味わった時に、心の底からほとばしるものを文字に表せ、朝咲いた花が夜には萎れるように、陳腐なフレーズは厳に戒めよ、(若干正確ではないですが)といったことを文章を書く際の基本とせよと学んだ記憶が残っています。これを参考にしてもいいかも。。。

 他の方面より之を何とか見つる、曰く大概の詩人に免れがたき用語癖なるべしと、或は用語癖なるべし。然れども若し小説家ありて十六七の女を皆文金の高髷に結はせ、容貌を沈魚落雁羞月閉花の一天張に形容して退くれば、その軽便にして無造作なる、世亦之に若くものあらじ。さるからに、この七人以上の影武者を有する女将門は、恐らくは土偶たるを免かれざらむ。紀行文の死活を司る叙景の文句を用語癖によりて塩梅するは、山水を型中に鋳るものなり。かの「西遊記」に見えたる金角大王の瓢に盛られたる人の必ず水に溶け去りけむごとく、その作家の手に成れる山水は一種鋳型の置物となりて玩ばるに至らむ。かくては数千言を費して1)彫鐫を力めたる大文章も一短幀の文人画、生気2)エキエキ気韻浮動せるものに劣ること万々。麗水氏豈之を知らざらむや、余氏に代りて自問自答一の解式を案せり、そは麗水氏の文体なりき。

 「なくて四十八癖」を有する人は行文にも3)幾何の癖あり、その癖たる、己にのみ存して他に見る可らざる一個自然生の特色なり。世人往々他を評してその長所は則ちその短所の言ある、能く癖の正体を看破したる言なり。実にや曲れる蓬も、おもしろからねど、直なる麻も猶妙ならず、一寸瘤のある枝こそ瓶に挿みて興あるべけれ。文を以て一家を成せるもの、誰かこの癖あらざりける。癖はやがて文体の脈を成し骨を組む。熟ら麗水氏の文詞を窺ふに漢文の4)チョクセツにして5)カンケイなるはあり、洋文の曲折にして6)ウヨなるは未だし、手っ取り早く抽象し去ることはあり、気魄未だ寓するに及ばざるを奈何。肉眼は色彩を視るに敏、容態を写すに長ず、然れども色彩なり容態なりを天真流露するは敢て肯ぜざるにあらざれども、何となく物足らぬ心地すればにや、その物足らぬ心地とは吾特色を発揮するに都合悪しければにや、一木一草も必ず之を潤色す、潤色して実に遠ざかるを患へず、只だ潤色の足らざらむことを患ふ、足らざれば特技を用うること7)セイチュウせられたる如く、セイチュウさるれば文は美ならず、むしろ華ならず、景と文と8)カンカクしたるときは吾文に従ふなり、意と文と阻碍したるときは意を9)ジュウリンするを忍ぶ。麗水氏是の如くして紀行文の名家なり、余故に半ば服し、半ば服せず、果然、長所は則ち短所なりき、然れども角を矯めて牛を殺し、苗を10)きて根を枯らすは余の与みせざるところ、11)ヒャクソウ千孔、麗水氏夫れ之を甘受するに吝かならざるなり。


「なくて四十八癖」は正確には「なくて七癖あって四十八癖」。どんな人にでも最低でも七つくらいの癖がありある人だと四十八もある。麗水とてそれはある。しかし、自分にだけあって他人に無い癖であるならば、それは立派な個性と言えるだろうが、長所は短所でもあるという通り、その癖は大いなる欠点でもある。真っ直ぐな麻畑に生えいる曲がった蓬、ちょっと瘤のある枝も生けて妙味がある者。誰にだって癖はつきものです。文章上の癖は、文体上の根幹となって骨組となってしまう。麗水の場合はどうでしょう。

漢文のシンプルな美文です。ヨーロッパのくどくどしさに比べれば何とも簡潔であるがあまりにも具象を抽象化していて気迫が感じられないのはなぜか。目で色を見てそのさまを文章に写そうとする。どこか物足りなくて「潤色」を施す。その結果、最初に見た色やさまから離れるようなことがあっても構わない。むしろ、まだまだ「潤色」が足りないと心配する。特技、美辞麗句で飾ることですが、これを用いてはダメだと心の中で葛藤があったとしても、文は美しくなければだめだ。風景を描写しようとして文章が平凡になってしまったときは、文を優先させる。文が美しければ意味が伝わらなくても我慢できる。――これが麗水の真骨頂、最大の癖だと烏水は看破します。半分尊敬もするが、半分は軽蔑もする。麗水の最大の特徴ではあるが最大の欠点でもある。だからといって彼からこの美文を特技を奪ってしまうと全体の文章は読むに堪え得ないものとなってしまうことはわたしにはよくわかっているという。だからこそ「なくて七癖あって四十八癖」。麗水とて馬鹿じゃあるまいしそんなことくらいお分かりのはずでしょう。

そこで「文賦」。文章の基本は内なる心の迸り(魂の発露)をいかに大事にして言葉として、文字として表せるかどうかに尽きるでしょう。そこにいろんな色を塗りたくってしまえば原型をとどめなくなる。新鮮な気持ちこそが真の文章につながるということです。麗水の紀行文を読んで烏水がどうして「潤色」だと称したのかは今一つ鮮明ではありません。ただ、確かにに多様な形容が多いのは事実であり、支那風味になっているのも免れないところではあります。

用語癖。作家独特の言葉のくせというものはあるでしょうが、うら若き乙女がみな高髷を結って「沈魚落雁羞月閉花」(いずれも美人の常套句)で飾ってしまう小説家がいたら、安直過ぎるのは言うまでも無いことです。「この七人以上の影武者を有する女将門は、恐らくは土偶たるを免かれざらむ」とは突然ですが、どれが本物なのだか分からなくなるということでしょう。土偶か?欧米か?。。。次が重要で「紀行文の死活を司る叙景の文句を用語癖によりて塩梅するは、山水を型中に鋳るものなり」。紀行文は叙景の文句がすべてだから、用語癖などというもので左右されるのであれば、それはあたかも山水の風景を鋳型に納めてしまうもの。ステレオタイプの陳腐な代物が出来上がる。鯛焼きの型に入れて出来あがって鯛焼きはどれも同じように美味いが、味は同じだということです(ちょっと違うか?鯛焼きは美味ければ何でもいいか)。「一種鋳型の置物となりて玩ばる」と辛辣です。

数千言を費やした大文章も、一幅の山水画には活きのよさでは勝てない。そんなことは麗水も百も承知であろうと烏水はみています。彼に代ってその欠点を論います。それは文体です。







1) 彫鐫=チョウセン。金属に模様をきざみちりばめる。彫鏤(チョウロウ)・彫鑽(チョウサン)ともいう。「鐫」は「える」「のみ」。鐫刻(センコク=金属に石やのみで彫刻する、鐫鏤=センロウ=・鐫録=センロク=)、鐫琢(センタク=刻みみがく、文章などを推敲すること)、鐫黜(センチュツ=位を下げて官吏をその職務から退けること)、鐫喩(センユ=深く掘り下げて親切に教え諭す)。

2) エキエキ=盛んなさま。精神奕奕。「奕」は「かさなる」の意。


3) 幾何=いくばく。数量・時間などについてたずねることば、どれぐらい、いくら。

4) チョクセツ=直截。てっとりばやいこと。まわりくどくなく、きっぱりしていること。「チョクサイ」とはなるべく読まない方がベター。

5) カンケイ=簡勁。簡素で力強い。

6) ウヨ=紆余。水の流れや林・丘などが曲がりくねってつづくさま。「紆余曲折」は「道が曲がりくねっているさま」。直截とは対義語の関係にあると言っていいでしょう。

7) セイチュウ=掣肘(制肘)。人のひじをおさえてとめる、他人に干渉して自由にさせないこと。製臂(セイヒ)ともいう。「ひじをセイす」とも訓読する。「掣く」は「ひく」。

8) カンカク=扞格。かたくこばんで入れないこと。かたくつかえて動きが取れないさま。「扞」は「ふせぐ」、「つかえる」の意がある。

9) ジュウリン=蹂躙(蹂躪)。ふみにじって荒らす、侵入して荒らす、台無しにする。蹂践(ジュウセン)とも。「蹂む」も「躙む」も「ふむ」。「躙る」は「にじる」とも。

10) 堰き=せ・き。「堰く」は「せく」。せきとめる。「堰す」(エンす)とも。堰堤(エンテイ=川などの水流・土砂をくいとめるための堤防)。「いせき」「せき」の和訓もある。

11) ヒャクソウ=百瘡(百創)。百瘡千孔は「短所や欠点がたくさんあること。穴や傷だらけで破壊の状態がすさまじいこと」。百孔千瘡(ヒャッコウセンソウ)ともいう。満身創痍。
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Author:char
不惑以上知命未満のリーマンbloggerです。
言葉には過敏でありたい。
漢検受検履歴
2006.3  漢字学習スタート
2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
2007.10 1級合格①
2009.2 1級合格②

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