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「動きの取れぬ」描写こそ心掛けよ=麗水の紀行文を評す(4)

明治のアルピニスト、小島烏水の「『日本名勝記』を読みて麗水の紀行文を評す」(近代デジタルライブラリー、「銀河」所収)の4回目です。烏水は、自分の眼で見た物を見たまま写し取ることが紀行文の神髄だと説き、詩人が自宅にいて想像力を働かせるように書くべきではないと主張します。麗水とて想像では書いておらないはずですが、彼のアバウトな紀行文は、美辞麗句で飾る事に腐心していることから紀行文としては一枚落ちるというのでしょうか。

「東関記」の著者釈沢庵、鎌倉に遊びて大塔宮の遺跡を吊ひ、七絶を賦して曰く、「親王遺跡見残塋。土窟陰々春草生。堪憶豼貅三十万。将軍躍馬入威京」と。「親王遺跡見残塋。土窟陰々春草生」は疑もなき東光寺の古蹟、帝子1)を嚼みて千古の恨を遺したるところ、2)ドンソウ短くして露華滋き風物を想起せずんばあらず。而して「将軍躍馬入威京」と結ぶに至りては、今まで読める太平記を半途より奪はれて史記を代与せられたる感あり。蓋し一部鎌倉史を詠ぜんとして聯想を扶蘇の囚に及ぼし、却て扶蘇を主にして親王を客にし、鎌倉を仮の舞台と定めたるは、紫に朱を奪はれ、月を捉へんとして水を濁したるにあらずや、決して本題目に忠なるものにあらざるなり。この点に於ては山陽の詩3)コウチを欠くと雖、最誦するに堪へたり。句は都て自然なるを要す、4)ムホウなるこそ好ましけれ、5)デイソの如く自在に焼継ぎするはおもしろからず、大地に生へたる磐石の如く6)スイバンするも7)ロウコとして揺かぬところに価あり。この「動きの取れぬ」ところ、小説にありては個人性となり、紀行にありてはその特殊の風物を発揮したるをいはずや、「天雲もいゆきはゞかり、飛ぶ鳥もとびものぼらず、繚る火を雪もて消ち、降る雪を火もてけりつゝ」と詠ぜられたる富士は、万葉集の名を削るとも、誰か万葉時代の活火山たる富士山を推測して、震爆の声雷の如く烈㷔(レツエン=烈火)磊磈(ライカイ=山が高くけわしいさま)の焦土を飛ばす豪壮を想はざらむや。下りて「白扇倒懸東海天」に至りては優美にして8)タンゲンたる鎮火山の彷彿せざるを得ず。「動きの取れぬ」といひたるはこゝなり。


★豼貅(ヒキュウ=古代中国の伝説の獣、虎、熊に似ており飼い馴らして戦争に用いた、「史記」に出てくる)。




その土地、その風景ならではの描写がある。「動きの取れぬ」、動かし難い。どの風景にでも当てはまるありきたりの描写では言い尽くせないのだ。「東関記」の著者釈沢庵の例では、幽閉先の鎌倉・東光寺で心ならずも斬首され討ち果てた護良親王(=大塔宮)と中国・秦代の扶蘇を同列にしたところに誤りがある。かたや後醍醐帝の息子、こなた秦の始皇帝の息子。ともに次代を担う天子として将来を嘱望されたのですが、いずれも父親との確執、周囲の思惑もあって不遇の死を遂げる。烏水が「今まで読める太平記を半途より奪はれて史記を代与せられたる感あり」というのも、日本から舞台が急転、中国になってしまった。文学の風味が変じてしまったと嘆くのです。「決して本題目に忠なるものにあらざる」。主客転倒。日本が中国に乗っ取られたようなものか。これは作者の釈沢庵が悪いのか?太平記なら太平記を通せばいい。ここに史記を持ちこんだところに不満があるのではないでしょうか。とりもなおさず漢文ですから中国直輸入の文学ですから無理からぬところでしょう。言い換えれば、本邦の紀行文を表現するのには適していないということでしょう。

続けて、同じ漢詩でも「句は都て自然なるを要す」という大日本史を著した頼山陽について記述しています。かれも全国を行脚して各地の風物を詩に詠みました。「紀行にありてはその特殊の風物を発揮したる」という紀行文だったと言います。古来、紀行文家が題材とし続けてきた富士山。万葉集の時代の「不尽山を詠ずる首」。活火山の豪壮なイメージ。翻り、江戸初期の石川丈三の「富士山」。中国風味だ。丈山は中国の漢詩にヒントを得て詠んでおり、万葉時代富士とは全く異なる世界を演出している。烏水は、「動きの取れぬ」といひたるはこゝなり、と論じます。いずれも富士山には違いない。どちらも本当の富士山である?

続いて松尾芭蕉の例を登場させます。





1) 鋒=きっさき。△字型にとがった刃の先端。「ほこさき」でも可。鋒稜(ホウリョウ=ほこ先のとがったかど、物の突き出たかどのこと、ごつごつ突き出たさま)。

2) ドンソウ=嫩草。わかくやわらかい草。「嫩い」は「わかい」。

3) コウチ=巧緻。作品などがてぎわが良くて、細部までたくみに出来ているさま。「巧智」は「たきみでりこうなこと」、「巧遅」なら「じょうずだけど遅いこと」。巧婦(コウフ=裁縫の上手な女性、ミソサザイ)、巧捷(コウショウ=たくみですばやい)。

4) ムホウ=無縫。縫い目の無いこと、自然のままで人工の手をくわていないこと。天衣無縫(テンイムホウ=飾り気がなく自然であること、詩文や物事が自然のまま完成していて美しいこと)。

5) デイソ=泥塑。泥人形。素焼きされていない。「泥塑人」ともいう。

6) スイバン=推挽(推輓)。車をうしろからおし、前からひく。人を推薦すること。

7) ロウコ=牢乎。かたくてしっかりしたさま。牢記(ロウキ=しっかりと記憶する)。

8) タンゲン=端厳。姿・形が整っていて、おごそかなこと。端正厳格の略。
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Author:char
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2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
2007.10 1級合格①
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