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美辞麗句で飾らず自然を写しとるべし=麗水の紀行文を評す(3)

明治のアルピニスト、小島烏水の「『日本名勝記』を読みて麗水の紀行文を評す」(近代デジタルライブラリー、「銀河」所収)の3回目です。烏水は、遅塚麗水の紀行文が固有名詞の誤りが多く、季節感もいい加減でアバウトだと非難していますが、まあまだ許せる範囲だとしています。ところが、自然の描写に関しては譲れないぞと。。。。本当に自分の眼で見て観察して描いているのか甚だ疑問なのだ。。。詩じゃないんだから。。。

 難きは自然を叙する法なるかな。之を雲に見る、始めは浮々焉として鞠の飛行するごとく、把りて袖に蔵すべしと思はるもの、布の如くに拡まりて山に漲り、巨巌を繞り、危「石+敖」を包み、果てはいづこが雲か山かを弁へず、1)シュクコツにして風吹けば帷を颺げて走り、中ごろより紛々断して綿となり絮となり、神仙を聞くか、遂にその徂くところを知らず。仰げば2)コウビョウたる大荒の中、神秘あり、詩人の之を拉し去るを須つものゝごとし。詩人自ら天賦の想像力あり、先づ脳に容くりてその俤を紙に吐くを得べし。只だ至難なるはその雲を借りて或特殊の地方に特殊の風物を描くに在り。某の山に低迷するごときの3)モウロウ、某の海に垂れて波に横はるときの4)コウヨウ、雨ふるとき、晴るとき、若くは旭日昇るとき金箭を射るごとの棼乱なる大観は、到底「歌人は坐がらにして名所を知る」的の杓子を以て規る可からず、机上の仙人5)ぞ造化の6)ヒヤクに触ることを容るされむや。この特殊の地方に於ける特殊の風物を描くにあらずんば、血肉を具備せざる土偶、性格の判明せざる人間を製造する小説家を何ぞ撰ばむ。


★危「石+敖」(キゴウ=石がそびているさま)。
★棼乱(フンラン=みだれたさま)。



烏水は自然の情景をいかに写し取ることが出来るかが紀行文の最大のポイントだとみているようです。麗水のやや誇張がかった美文は、ある特定の事物を描写しているのではなく、山と言えば何、雲と言えば斯くあるべしみたいな感じで美辞麗句で飾り立てているだけ。どの事物にも当てはまってしまう表現でしかないため、ある日ある瞬間に自分が見たままのものとは言えない。紀行文とは作者自身の眼に映った物を書くもの。詩人が書斎に坐らにして想像で描くものは紀行文ではないということです。

「只だ至難なるはその雲を借りて或特殊の地方に特殊の風物を描くに在り」。同じ雲でも別の風景にあっては違う雲であるはずなのに、麗水は雲と言えば「始めは浮々焉として鞠の飛行するごとく、把りて袖に蔵すべしと思はるもの、布の如くに拡まりて山に漲り、巨巌を繞り」のような一点張り。ステレオタイプなのです。逐一を写し取っていない。写実で無いということでしょう。漢語の連続、美辞麗句ありきで当て嵌めている。麗水とはまた別の例が次に続きます。


1) シュクコツ=倏忽。突然、たちまち。時が非常にはやく過ぎるさま。「倏」は「たちまち」。倏焉、倏然とも。音便なら「シュッコツ」。

2) コウビョウ=浩渺。広々とはるかなさま。

3) モウロウ=朦朧。ぼんやりかすんではっきり見えないさま。

4) コウヨウ=滉瀁。海や川が広々としてたゆたうさま。滉蕩(コウトウ)とも。

5) 詎ぞ=なんぞ。反語の意を表す。

6) ヒヤク=秘鑰。秘密の倉庫をあけるかぎ。秘密の事を知る手引き・手掛かり。「鑰」は「かぎ」。鑰匣(ヤッコウ=かぎをいれる箱)、鑰牡(ヤクボウ=かぎ、鑰匙=ヤクシ=)。
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Author:char
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2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
2007.10 1級合格①
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