スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

それでも人はなぜ旅に出るのだろう?「哀しい性」か=「旅の心得」(4)・完

幸田露伴の「旅の心得」の4回目、最終回です(近代デジタルライブラリー所収、「露伴叢書」から)。露伴は20代のころからしばしば旅に出ています。突貫紀行はその嚆矢と言ってもいい。北海道・余市から東京まで徒歩と汽車を乗り継いだ。露伴叢書が発刊されたのが1902(明治35)年ですから、露伴三十五歳。これに「旅の心得」が採られているわけですから老生した露伴ではない。まだ壮年期。彼が旅をしたのは二十代三十代だったのです。そこで出くわした経験からうまれた理屈っぽい心得の数々。露伴は旅によって人生を生きるヒントを体得したようです。

一。木賃などに宿らんもまた興あるべく、間の宿の淋しく衰へたる宿なんどに一夜寝んもまた興あるべけれどおほかたは好き駅の名ある家に宿仮るを可とす。栄ゆる家は、おほかたA)■■(をんなをとこ)なども心利きて、1)ゼンブのものも2)アザらけく、よろづにつけて好き事多し。あやしきところに宿りて万一の事などあらんには、人必ず我を愚なりとて責めん。奇を好む心にのみ身を委せんは、なかなか愚なる事なり。

一。同行のもの三人以上なる時は、よくよく金銭出納の事など預め約束して定め置くを可とす。二日三日と日数重なりては人々我が好み好みになさんとて人のおもはくを省みるに及ばざるやうになるものなれば、口にまでは出さずとも心の中には互に謗りも3)りもするものなり。B)■■(おごり)を悦ぶ人あり、悦ばぬ人あり。酒を喫む人あり、喫まぬ人あり。4)ザレゴトいひてをんななど5)ナブるを興ありとおもふ人あり、苦々しと思ふ人あり。これらの人々共に旅するに当りては、年若きものほど多くは人を6)ハバカらず、世慣れたるものほど常に自ら克ちて、兎に角に右に立ち左に立ちて同じ山水にさまよふなれど、一日二日の中こそよけれ四日五日となりては心易くおもふことの増すにつけ飽かずおもふことも増し来て、酒喫まぬ人は酒喫む人を忌み、ザレゴトいふ人はザレゴトいはぬ人を嘲るやうになるものなれば、よろづの事に離れぬ関係ある金銭出納の上などには最初よりおろそかならぬ注意を下し置くを宜しとす。

一。旅日記は必ず其日其日に記すべし。一日怠りては次の日ひよいよ怠り勝のものなり。甚だしく疲れて筆を持つをだに堪へ難くおもはゞ、他日記臆を喚び出すに足るべきかどをなりとも記し置くべし。

一。旅にては旅の人を恐れよ。其土地の人は自己だによからぬ心持たずば左のみ恐るべくもあらず、たゞ旅の人に心せよ、悪き人といふべきほどの人ならぬも、旅にては良からぬことをするものとぞ聞く。まことに世の犯罪の中にて、土地の人の土地にて為せるは7)幾許もあらぬものなれば、然ることもあるべきにや。田舎人の東京にてしたゝかなる眼にあふ如きは多く此心得無きためなり。

一。旅にて見なれぬものを多く食ふことなかれ。生れて初めてかゝるものを食ふぞとて、したゝかに食ふが如きは、いと8)オコなることなり。

一。妻子兄弟父母などゝ旅したらんは、旅の中にても勝れて楽しき旅なるべし。たゞし少しの路なりとも徒歩にて行かんなどゝ思ふ時は、一行の中の最も弱き人の脚の左のみ自ら勤めて歩み得べきほどを尺度にして、歩むべき道程の心算をすべし。此の注意足らざる時は大に愉快を少うすることの湧くものなり。ゆめゆめ我を以て人を律するなかれ。

以上は皆我が自ら愚なる実験(ためし)を積みて得たることなり。旅の心得めくもの書きてよとの特にオコがましとは知りながら、かくはしるしぬ。





■和訓語選択
A) 「をとこをんな」→ヒボク・ワボク・コボク・ヨボク・トボク
B) 「おごり」→シャジ・キシャ・シャシ・シシャ・ジシャ

いずれもさもありなんと首肯させられるものばかりです。旅日記は毎日その日の片付けよ。三人以上のかしましい旅も楽しいですが、お金の事となるとトラブルのもと。最初にルールを決めておくのは得策です。人間関係が拗れるのも旅先特有の事象ですから。ドラマを演じたくなる人間の哀しい性です。旅先では旅人にこそ要注意するべきだ。これも哀しい性。見慣れないものをたらふく食べるのは挑戦的ですがやはり哀しい人間の性。家族旅行も楽しいが、自分のペースでは進んではいけない。一番弱い人に目盛りを合わせなければ、台無しになってしまう。家族の人間関係が壊れてしまっては一体全体何のための旅行なのでしょう。

総じて見ると、旅というものは人間を試すものと言えないか。これまで歩んできた人生で学んできた応用問題を解くのに等しい。自分の環境適応力をも見る。合格点に自信がないのなら旅などしない方が得策かもしれません。わざわざ辛い目に遭う必要はない。それでも人々は知らない土地に憧れ旅に思いを馳せるのは何故でしょう。哀しい性です。当時は交通機関も発達していないのに、歩いて何日をかけてでも飛び出した。命懸けとまでは言わないが、無謀な旅も多かった。哀しい性です。旅によって何を得るのか。この紀行文シリーズではこの哀しい性の本質について考えていければと思っています。

問題の正解は続きにて。。。





A) ヒボク=婢僕。下女と下男。婢僮(ヒドウ)ともいう。「婢」は「はしため」。
B) シャシ=奢侈。おごり、ぜいたく。「奢る」は「おごる」。ぜいたくをすること。奢佚(シャイツ=おごりなまける、ぜいたくをしてほしいままにする)、奢華(シャカ=おごり飾ること、ぜいたくで派手であること)、奢恣(シャシ=ぜいたくをしてほしいままにすること、奢肆=シャシ=・奢放=シャホウ=・奢縦=シャシャウ=)、奢蕩(シャトウ=とめどなくぜいたくなさま)、奢靡(シャビ=ぜいたくではでである、奢華)。

1) ゼンブ=膳部。料理して膳にそろえてのせたごちそう。膳羞(ゼンシュウ)ともいう。「かしわで」と訓めば、「古代、宮中で食事の準備をした人、料理人」。

2) アザらけく=鮮らけく。「鮮らけし」は「あざらけし」。あざやかである、新鮮でいきいきとしている。魚肉などの生きがいい。「鮮らか」(あざらか)ともいう。

3) ノノシリ=罵り。不躾な悪口。悪口雑言。音読みは「バ」。罵譏(バキ=ののしりそしる)、罵言(バゲン=ののしることば)、罵坐(バザ=その場にいる人をののしる)、罵辱(バジョク=ののしりはずかしめる)、罵倒(バトウ=相手をののしってやっつける)、罵詈(バリ=ののしる、ののしり)。

4) ザレゴト=戯言。冗談。戯謔(ギギャク=おどける、ふざける)、戯狎(ギコウ=ふざけてなれなれしくする)、戯弄(ギロウ=戯れてもてあそぶ、なぐさみもの)。

5) ナブる=嬲る。(とくに男が女に)うるさくつきまとう、さわがす、もてあそぶ。音読みは「ジョウ」ですが熟語例は見えず。

6) ハバカらず=憚らず。「憚る」は「はばかる」。遠慮する。気兼ねする。音読みは「タン」。憚畏(タンイ=恐れはばかる、おどおどして慎む)、憚赫(タンカク=勢いがはげしく恐れふるえさす)、憚避(タンピ=はばかり避ける)、憚服(タンプク=恐れて服従する)。

7) 幾許=いくばく。「キキョ」でも可。数量・時間などについてたずねることば。どれくらい。幾何も「いくばく」。

8) オコ=烏滸(痴・尾籠)。愚かなこと、ばか、たわけ。
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

profile

char

Author:char
不惑以上知命未満のリーマンbloggerです。
言葉には過敏でありたい。
漢検受検履歴
2006.3  漢字学習スタート
2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
2007.10 1級合格①
2009.2 1級合格②

calendar
05 | 2017/06 | 07
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 -
recent entry
recent comment
category
monthly archive
search form
RSS links
links
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。