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お金は使い過ぎても惜しみ過ぎてもダメ!そのバランスがポイントです=「旅の心得」(2)

幸田露伴の「旅の心得」の2回目です(近代デジタルライブラリー所収、「露伴叢書」から)。事前の勉強は俄かに成ることはありませんが注意は怠らないようにするがいい。旅を重ねた露伴翁の箴言だからこそ真摯に耳を傾けましょうね。今回も準備万端遺漏なきことを説きます。


一。学問は急に如何とも為しがたし。されど注意といふことは、我が心の置きかたにて、深くも浅くもなるべければ、旅にありては、如何なる物にも事にも勤めて深く注意すべし。注意は知識を生ずるやがてに其人を趣味豊なる人となして、すべての事物につけ興を多からしむるものなり。学深くとも注意だに深くば、旅はなかなか興多くして、しかも其人旅したるがために少からぬ利をば得んこと疑あるべからず。

一。旅立たんとする前、地理の大概は必ず1)め知らざるべからず。次に行く手の地方の気候をよくよく問い2)して衣服など相当の準備すべし。開けたる御世なれば、如何なる山の奥にても困ずるやうのことは有るまじきなれど、地方気候といふことに心づかで何の準備も無く立出でたらんは、聊か愚なるに近くして、しかも或は悔あるべし。次には大概の道づもりをなすべし。何日我家を出でゝ何の路を取り、那里(いづく)に至り、何日帰るべしとの心定めは、如何なる心まかせの旅にも、大概は無くて叶はぬことなり。道づもりは、我が一日斯ばかりは歩み得べしと思ふ道程より二割ほどを減きて3)るを可とす。我がおもふほどは歩めぬものなり。一日に十里を行き得べしと思ふ人の常ながら、遊覧の旅なるに日々十里づゝ歩まんは、聊か苦かるべし。日に行くこと八里と算らんには大なる過無なるべく、戦時の定めの里程に則りて六里と算らんには安全なるべし。また次には、携ふべきものゝ品々を遺漏(おち)なく考へ定めて準備(そな)ふべし。こは行かんとする地方の状態により、また我が取るべき身の体裁とにより、取捨に大なる差異あるべけれど、まづ、手拭ひ、小風呂敷、半紙、筆、小硯、小刀、歯磨粉、楊枝、時計、地図、外用薬(つけぐすり)、興奮性の内用薬(のみぐすり)の例へば宝丹の如きものなどは携へては叶はざるものなり。穿きかへの4)靴襪    )、若くは足袋、5)ジュバン、若くはしやつなども少し長き旅には携ふるを可とす。雨具は紳士風の旅をせんには余り用無けれど、学生風の旅せんには油紙など其準備として携ふるをよしとす。婦人など同行して、おのれ一行を保護すべき任を帯びたる時、短銃の類を携へ居らざらんには、万一不孝の起りたる時、心くばり足らざる人との謗(そしり)を避くるに路なかるべし。

一。旅に在りては、みだりに銭を使ひて人に誇るやうなることすべからず。末には愚なることの湧き出づるものなり。また余りに物惜しみすべからず。少しの金をもて大なる便を得、または良きものを得んとするは、甚だ愚なることなり、悔無くては已むべからず。渡舟賃を払ひて剰銭(つり)を其まゝになしつ顧みざるが如き振舞するは、悪き車夫などの眼をそばだゝすことゝ知るべく、また大概の定めを越えて値低く馬車などを僦はんとするが如きは、脚に病有る馬に乗りて6)岨路に墜とされ、車の前蔽ひ無くして泥を浴びせらるゝなどの事に遇ひ勝ちなる基なりと知るべし。金銭を正しく使はんことを特に旅にありては心掛くべきなり。




三つ目の箴言は現代でも即通用する。旅先では人々は強気になるか弱気になるかのどちらか。つまり、日常から解き放たれ平生と同じではなくなるのです。だから、「みだりに銭を使ひて人に誇るやうなることすべからず」。気分が大きくなっていつもより散財すると、「末には愚なることの湧き出づるものなり」。一方、「余りに物惜しみすべからず」。ケチも度が過ぎると「少しの金をもて大なる便を得、または良きものを得んとするは、甚だ愚なることなり、悔無くては已むべからず」。

露伴翁はそれぞれ具体例を挙げております。まず前者。「渡舟賃を払ひて剰銭を其まゝになしつ顧みざるが如き振舞するは、悪き車夫などの眼をそばだゝすことゝ知るべく」。釣りは要らないよなど大盤振る舞いをすると悪意のある者がむくむくと悪さ心を湧きおこらせる。「あ、こいつは鴨だ」と。そして、後者。「また大概の定めを越えて値低く馬車などを僦はんとする」。ちょっとけちって安い馬車に乗ったが最後、「脚に病有る馬に乗りて岨路に墜とされ、車の前蔽ひ無くして泥を浴びせらるゝなどの事に遇ひ勝ちなる基なりと知るべし」。安物買いの大損はいつの時代も同じです。日常と違う旅だからこそ「金銭を正しく使はんことを特に旅にありては心掛くべきなり」。まさにおっしゃる通りです。旅は人々の心を狂わせてしまうのですから。





1) 預め=あらかじめ。前もって、事前にゆとりをおいて。預度(ヨタク=前もっておしはかる、預料=ヨリョウ=)。

2) 糺して=ただして。「糺す」は「ただす」。横にそれないように中心に向けて締める。糺明(キュウメイ)。「糾」から変体した。

3) 算る=つもる。損得をはかって考える、見当をつける、見積もり、めど。「サンす」とも読む。心算から派生。

4) 靴襪=くつした。「襪」の一字で「くつした」。「しとうず」「したぐつ」の和訓もあり。「韈」とも書く。音読みは「ベツ」。襪線(ベッセン=くつしたの糸、特にすぐれた才能の無いこと)。

5) ジュバン=襦袢。和服の下に着る肌着。「ジバン」とも。ポルトガル語の「gibão」から。

6) 岨路=そばみち。いくえにも岩が重なって行く手を阻むようなけわしい道。「岨」は「そば」。岨峻(ソシュン=山が重なってそそりたつさま)、嶮岨(ケンソ=険阻)。
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Author:char
不惑以上知命未満のリーマンbloggerです。
言葉には過敏でありたい。
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2006.3  漢字学習スタート
2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
2007.10 1級合格①
2009.2 1級合格②

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