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ご立腹気味の露伴翁、「旅の心得」を拝聴しよう

GW闌ですが、今年の場合は東日本大震災に伴う「自粛ムード」が蔓延しているせいか、忙中有閑、労働者の解放感は聊か白々しい感じがします。どこかへ旅行、遠出と考える人も少ない。とにかく今、人々は動かない、いや、動けない。俄かボランティアという趣向もありますが、被災地復興を祈念しつつこんなときこそ、先人の文章を味わってみる好機ではないでしょうか。自分が旅に行かぬのなら、先人の記録を辿り、行った気になる、もしくは将来、行くためのインプットをしておくのも悪くないでしょう。一生自粛するわけにはいかないのだから、一歩後退二歩前進、かの「易経」でも「尺蠖の屈するは以て信びんことを求むる」とも言うではないか。。。

予告通り、紀行文シリーズは続行です。明治期の「紀行」という斯界に君臨した大物と言えば誰を想起しますか?迂生は敢えて「重鎮」と称しました。大町桂月、饗庭篁村、田山花袋の名も挙がるでしょう。もちろん遅塚麗水も。おそらく異論もあろうかと思いますが、重鎮と言えばこの人、幸田露伴先生を挙げざるを得ません。

「突貫紀行」が有名でしょうか。明治二十(1887)年、二十歳の時、北海道余市の電信局を脱出し着の身着の儘函館から青森、福島・郡山まで歩き続けました。文学への思いが棄てられなかったのです。九月二十九日命からがら東京に辿り着きました。道中、「里遠しいざ露と寝ん草枕」の句を得て「露伴」の号が生まれたというエピソードはご存知の方もいるでしょう。「突貫紀行」なら文庫本にもあって手頃な長さで面白いのですが、髭鬚髯散人之廬はマニアそのもののblogです。容易にアクセスできるものはなるべく敬遠するのが真骨頂。そこで、近代デジタルライブラリーを左見右見眺めてみました。

すると、「露伴叢書」(ここ、検索で「露伴叢書」と入れてください)中でちょっと面白い随筆が目に留まりました。「旅の心得」。何歳の時に認めたものなのかは判然としませんが、理屈っぽい文体からするとかなり老生したころの説教文かもしれません。旅をすることの価値観がいきなり書かれています。しばらく露伴翁の戒めに従うこととしましょう。其の後、数々の紀行文に当たることとします。


【旅の心得】

 
一。旅して口惜しきは、我が1)を2)つこと少なきことよりも我が学を積めることの未しきなり。歴史に詳く通じ居らんには、わづかに3)れる古の河の流れ、城の4)、或は破れたる寺、頽れたる塚なんどに臨みても、限りなき感を起し、人知らぬ興をおぼえて、身にしみ心に留まる事も多かるべきを、何事のありし処とも知らで、我が学の疎きまゝ趣味も無く、5)ワラジのみ数多く穿き破りて、そこそこに通り過ぎなんは、口惜しきことの一つならずや。地理を熟く知らんには、路の6)ツウソクをも難易をも胸に7)るものから、日暮に猶宿るべきところを得で迷ひありくなどいふ愚しきめにも会はず、たゞわづかのA)■■(まはりみち)せざりしため惜き名勝を見遺すといふなる事も無く、よろづに付けて心たしかに便多かるべきを、地理に暗きため、あらぬ心づかひをなし、良からぬものに欺かるゝなど、口惜しきことの限りなり。草木8)キンジュウにつきての智識乏しきも、すべての物を大様にのみ見て過ごすほどに、異なる郷の珍らしき9)カキンを眼にしながらたゞ紅き花咲き居たり白き10)翔け居たりとばかりおぼえて、何一つ明らかに識るといふこと無く、後に人に問はるゝことなどあらん折、知らず知らずとのみ答へんは、これまた口惜からずや。農工の事につけても、画彫物の道につけても、すべて我が学浅ければ我が趣き乏しきまゝ我が興も薄く、千里の路を行きて疲勢(つかれ)のみおぼえたらんは悲しからずや。無学にして旅するは、たとへば夜行くが如く、すべての美しきものをも認めずして過ぎん。


和訓語選択。
A) 「まはりみち」→アロ・イロ・ウロ・エロ・オロ・カロ・キロ・クロ・ケロ・コロ

漫然と観光地に足を踏み入れることが旅ではないという。歴史を知り、地理を知り、そこに住んでいた人々の存在に思いを馳せて訪れる。「すべて我が学浅ければ我が趣き乏しきまゝ我が興も薄く、千里の路を行きて疲勢(つかれ)のみおぼえたらんは悲しからずや」。事前のインプットが大事で、興趣を味わうために旅をするのであって、ただ疲労困憊だけをあとに残すのは心地悪し。夜の暗闇を歩いて何も見ないことに等しい。

分かり切ったこととは言え、無学の旅はしない方がまし。だと露伴翁は聊かご立腹ぎみ。自分に腹を立てているのかはたまた当時の人々の旅行ぶりがあまりにもひどかったのか。折角、時間を割いて異境に赴くのだから、最新の情報を摧身して細心の心配りがなくてはいけないのでしょう。準備こそが旅。旅に出るまでが旅なのです。旅に出てしまえばその旅はもう終わるしかないのですから。。。。

A) ウロ=迂路。まわりみち。「迂」は「目的にまっすぐに向かわないで遠回りすること、学問では大切なことです。捷径だけを追い求めてはいけない」。迂疎(ウソ=まわりくどくて実際の役に立たない、世事にうとい)、迂緩(ウカン=物事をするのに、ぐずぐずしてのろい)、迂久(ウキュウ=しばらくして)、迂曲(ウキョク=まがりくねる、遠回りする、迂折・紆折)、迂愚(ウグ=世事にうとく愚かなこと)、迂拙(ウセツ=世情にうとく、世渡りの下手なこと)、迂叟(ウソウ=世事に疎い老人)、迂誕(ウタン=いうことが非現実的で大げさなこと)、迂腐(ウフ=まわりくどくて実際の役に立たないこと)。

1) 財=たから。ねうちがあって役に立ちうる金銭や物資。財帛(ザイハク=金銭と、金銭の代わりに用いられた絹織物、金品)、財帑(ザイド=かねぐら)、財嚢(ザイノウ=さいふ)、財賦(ザイフ=財貨とみつぎもの)。

2) 有つ=もつ。所有する。持ち続ける。

3) 遺れる=のこれる。「遺る」は「のこる」。あとにのこる、置き去りになる。遺緒(イショ=先人が後世にのこした事業や業績)、遺賢(イケン=官吏として用いられずに民間にいる賢人、世間に知られないすぐれた人材)、遺矢(イシ=大小便をする)、遺臭(イシュウ=悪名を後世にのこす、後世にのこされた悪名)、遺蹤(イショウ=以前におこった物事のあと、あとかた)、遺溺(イジョウ・イニョウ=寝小便)、遺堵(イト=建物などが壊れても、あとまでそこにのこっている土塀)、遺秉(イヘイ=武器を捨てる、先人が著書の中に書きもらしたことがら)、遺芳(イホウ=後世に残るすぐれた評判や名誉、後世に残るすぐれた書)、遺黎(イレイ=国が滅びて生き残った人民、亡国の民)。

4) 墟=あと。昔あったものが朽ち果てて、くぼみだけが残った所。廃墟、殷墟。墟曲(キョキョク=村の片隅)、墟月(キョゲツ=おかの上に出ている月)、墟巷(キョコウ=さびれた町、廃墟の町)、墟墓(キョボ=荒れ果ててまつる者もいない墓、無縁塚)、墟里(キョリ=荒れ果てた村里、さびれた村落、墟落=キョラク=)。

5) ワラジ=草鞋。わらを編んでつくったはきもの、ひもで足にむすびつけてはく。ソウカイ・ソウアイとよめば「わらぐつ」。

6) ツウソク=通塞。物事が思うように運ぶことと、行き詰まって思うように運ばないこと。ここは「道が通じているのかあるいは行きどまりになっているのか」。通窮(ツウキュウ)とも。通款(ツウカン・カンをツウず=よしみを通ずる。味方を裏切って他国に内通すること)。

7) 暁る=さとる。あきらかになる。明白に知る。暁暢(ギョウチョウ=物事や道理によく通じている、暁達=ギョウタツ=・暁通=ギョウツウ=)、暁喩(ギョウユ=よくわかるようにさとす、暁諭とも、暁譬=ギョウヒ=)。

8) キンジュウ=禽獣。とりや、けもの。鳥獣。禽語(キンゴ=鳥のさえずる声)、禽荒(キンコウ=狩猟に耽ってほかの事がらを顧みないこと)、禽翦(キンセン=つかまえて切り殺す、擒翦とも)、禽息鳥視(キンソクチョウシ=けものやとりが息をしたり物を見たりして生活する、いたずらに生活のためのかてを求めるのみで、すぐれた志を持たないこと)、禽鳥(キンチョウ=とり)、禽犢(キントク=とりと仔牛、人を訪問する時の手土産や贈り物)、禽困覆車(キンもくるしめばくるまをくつがえす=捕らえられた鳥獣でさえ苦しめば車をひっくり返す、ましてや人間に於いては弱者でも死に物狂いになれば大きな力を出すというたとえ)。

9) カキン=花禽。はなととり。自然の風物。

10) 禽=とり。猟をしてとらえるとりのこと。
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Author:char
不惑以上知命未満のリーマンbloggerです。
言葉には過敏でありたい。
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2006.3  漢字学習スタート
2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
2007.10 1級合格①
2009.2 1級合格②

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