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日焼して黒き顔を日本海の塩で仕上げてさらに黒くする=「飛騨の山と越の海」(30)

遅塚麗水の紀行文集「日本道中記」(近代デジタルライブラリー所収)シリーズから、「飛騨の山と越の海」の30回目は、「一三 四方の浜」のその3です。直江津行きの汽船に乗ることが今の最大の課題です。伏木の港に辿り着きました。きれいな浜辺は海水浴客で賑わっています。汽船を俟つ料理屋の部屋では若者たちがぐーぐー鼾を立てて寝ています。ひとり醒めている麗水は何を思っているのか?なんと、自分も海に入るのです。


 1)コクテン郷裡、覚むるものは独り余のみ、汽船発着所に行きて乗船券を求めたるのち、海水浴を試みたり、海甚だ深からず、底は細砂、折から2)タイチョウなりしかば波低うして3)ぐに便り好し、而も4)鹹気は極めて辣、さなきだに色黒き5)メンボウは、風日に暴露していよいよ6)くなりしが上に、日本海の潮に色揚げしたることなれば、我ながら膚を撫して呆れ驚くばかりとなりたり。

 六時になりたれど汽船はいまだ来らず、7)青魚麺を夕餐とし、俟つ間程なく8)ヨウハの上に一抹の烟を見、又9)海馬の啼くがごとき汽笛の鳴るを聞きたり。





好奇心旺盛な麗水は日本海で海水浴に挑戦。夕方ですが気持ちよかったのでしょう。ところが、ただでさえ日焼けした真っ黒な顔であるのに、今回の旅で黔さは一段と増した上、「日本海の潮に色揚げしたることなれば、我ながら膚を撫して呆れ驚くばかりとなりたり」と、仕上げに塩辛い日本海の海で完膚無き迄に黒んだというのです。どんだけ黒いのやら…。


と、6時過ぎに待望の汽船が汽笛を鳴らしてやってきました。次回は夜の日本海を航行します。お楽しみに。。。。






1) コクテン=黒甜。ひるねをすること、うたたね。黒甜郷裡(コクテンキョウリ)は「うとうとと気持ちよい昼寝のまどろみのなかにあるさま」をいう。この「甜」は「うっとり心地よい」の意。睡眠の状態で用いる。甜睡(テンスイ=うっとり心地よい眠り)、甜言蜜語(テンゲンミツゴ=人に気に入られるような、あまいことば)、甜郷(テンキョウ=夢見心地)。夏目漱石の「吾輩は猫である」にも「いつの間にか眠くなってつい黒甜郷裡に遊んだ」の用例が見つかります。宋代の蘇軾の「発広州詩」に「三杯軟飽後、一枕黒甜余」があります。珍しい言葉ですが漢和辞典には載っているので是非とも覚えたいもの。

2) タイチョウ=退潮。潮がひくこと、ひきしお。

3) 游ぐ=およぐ。足をつけずにゆらゆらと水面に浮かぶ、定着せずにゆらゆら動く。浮游(フユウ)、游泳(ユウエイ=水泳)、游宴(ユウエン=酒盛りをして遊び楽しむ、その酒盛り、游燕=ユウエン=・游讌=ユウエン=)、游観(ユウカン=歩きまわって見物する)、游禽(ユウキン=飛び回る鳥、水鳥)、游弋(ユウヨク=狩猟)、游奕(ユウエキ=軍艦が警備目的で海上を航行すること)、游鱗(ユウリン=水におよぐ魚、游魚、とびうお)。

4) 鹹気=しおけ。塩分。「鹹」の一字でも「しおけ」。「鹹い」は「からい」とも訓む。音読みは「カン」。鹹苦(カンク=塩からく、にがい)、鹹湖(カンコ=塩分をたくさん含んでいる湖、塩水の湖、鹹水湖)、鹹酸(カンサン=塩からく、すっぱい)、鹹水(カンスイ=塩分を含んだ水、対義語は淡水)、鹹地(カンチ=塩分を含んだ、作物の出来ない土地、不毛の地、鹹壌=カンジョウ=・鹹土=カンド=)、鹹鹵(カンロ=塩分が多いこと、その土地)。

5) メンボウ=面貌。かおかたち、面相。「メンミョウ」とも読む。

6) 黔く=くろく。「黔い」は「くろい」。くすんでくろい。「くろむ」と訓めば「くろくなること、すすけること」。音読みは「ケン」。黔首(ケンシュ=くろい頭、人民のこと、冠を被らず黒髪をさらしているため、一説には黒頭巾をかぶっていたためとも。黔細=ケンサイ=・黔庶=ケンショ=・黔愚=ケング=・黔黎=ケンレイ=)、黔驢之技(ケンロのギ=見かけ倒しで、技量が劣っていること、自分の技量の劣っていることを自覚せずに恥をかくこと、黔驢技窮=ケンロギきわまる=ともいう)。

7) 青魚=さば。鯖。青花魚とも書く。青魚麺はどのような食べ物かはよく分かりませんが、鰊の甘辛煮が蕎麦に載っている鰊蕎麦のようなものでしょうか?

8) ヨウハ=遥波。ゆらゆらとただよう波。

9) 海馬=アシカ・セイウチ・タツノオトシゴ。以上の三つの可能性があります。さて、いずれが尤もふさわしい訓みでしょうか?ヒントは、汽船の汽笛がその啼き声に似ているということです。タツノオトシゴは啼かないですよね。だとすれば、アシカかセイウチ。鳴き声はアシカでしょうね。「アウアウアウ」でしょうか。ん~でもセイウチも啼きますよね。どっちも正解か?ちなみに原文のルビは「カイバ」。中国読みで「カイバ」は「セイウチ」のこと。海象(カイゾウ)ともいいます。となるとセイウチか?
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Author:char
不惑以上知命未満のリーマンbloggerです。
言葉には過敏でありたい。
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2006.3  漢字学習スタート
2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
2007.10 1級合格①
2009.2 1級合格②

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