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ああ母上様御免なさい!あの景色に惚れちゃったのよん=「飛騨の山と越の海」(25)


遅塚麗水の紀行文集「日本道中記」(近代デジタルライブラリー所収)シリーズから、「飛騨の山と越の海」の25回目です。いよいよ越中入り。その前に飛騨の道中を振り返り、ああ、もう一度諏訪が谷を訪いたいと念じます。

一二 越中の富山

 飛騨の山水は、余が幾年の醒後、詩後、茶後、夢後の懐に往来するところなりし、而も風流縁あり、一朝にして斯の1)カンマンの游びを就し、以て平昔の2)シュクボウを遂ることを得て、中心言ひ知らぬ3)キンエツあり、五十里の渓山、六日の行程、其の4)瑰奇幽寥の大観深く5)キョウオクに印象したるは、下田の渡頭、八幡の筥坂、龍が峯、西茂住の諏訪が谷、中山の奇峯、谷村の渓谷是れなり、A)中に就いて諏訪が谷の長潭は、正に飛騨道中の奇勝第一たり、此の地越中富山を距ること僅かに十里、一日程なり、路も亦た甚だ険ならず、二里の嶺を除きなば優に車を通ずべければ、湫潭の霊再び余を招くの意あり、復游の縁更に円かなるあらん時は、仮令ば渓辺の6)ボウシを結んで家となすとも、7)エンリュウ数日飽くまで此の渓山の勝を8)シュウランせんことを思ふ。



A)「中に就いて」は漢文の訓読である。原文を慣用句で読め。



最後の「復游の縁更に円かなるあらん時は…」は、もしも帰り道にまた訪れることがあれば、その時はどんなにか粗末な家でも借りて、あるいは野宿に近い形であろうとも、暫くの間、この地にとどまってこの風景を愛でたい。自分の心に焼き付けるまで。どうやら「諏訪が谷の長潭」は、麗水の琴線に大いに触れてしまったようです。やっと越中に入ったというのにもう帰りのことを考えていますよ。母上様に会いに行くという所期の目的すら忘れてしまったかのようです。

この項はまだ続きます。
1) カンマン=汗漫。まとまりのないこと、浮ついて切実でないこと。ここはこの一連の「飛騨道中」の漫遊記を指す。

2) シュクボウ=宿望。以前から持っていた願い。宿願とも。宿坊ではない。

3) キンエツ=欣悦。よろこぶこと。欣懌(キンエキ)とも。欣説でもOK。

4) 瑰奇=カイキ。非常にすぐれて珍しい。「瑰」は「めだって大きいさま、めだってすぐれたさま」の意。瑰偉(カイイ=すぐれていて珍しい、人柄がひときわめだってすぐれている)、瑰意行(カイイキコウ=思想や行動が一般と違ってすぐれていること)、瑰岸(カイガン=人相などがくっきりと目立つ)、瑰詭(カイキ=珍しく不思議なさま)。

5) キョウオク=胸臆。胸の中の思い。胸懐、胸胆、胸次、胸宇とも。

6) ボウシ=茅茨。チガヤといばら。ともに屋根を葺く材料。粗末なあばら家。茆茨でも正解。
7) エンリュウ=淹留。一か所に長い間とどまる。淹久・淹泊とも。「淹」は「はった水が引かないように、いつまでもとどまる、ぐずぐずしているさま」の意。淹月(エンゲツ=期間が一か月にわたること)、淹歳(エンサイ=長く久しい年月、期間が一年にわたること)、淹宿(エンシュク=一か所にとどまって一夜を過ごす)、淹恤(エンジュツ=長く他国にとどまっていて、さびしい思いをする)、淹速(エンソク=ぐずつくことと、速いこと)、淹滞(エンタイ=とどまりたまっている)、淹病(エンビョウ=ながわずらい、淹病滞疾)。

8) シュウラン=収攬。しっかりと自分の物とする。人心収攬。「攬」は「とる」。攬筆(ランピツ=筆を手に取る、詩や文をつくること)。

A) 就中=なかんずく。多くの物の中で特に。とりわけ。
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Author:char
不惑以上知命未満のリーマンbloggerです。
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2006.3  漢字学習スタート
2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
2007.10 1級合格①
2009.2 1級合格②

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