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詩聖?詩仙?盛唐二大詩人の別称の混同に注意せよ=「飛騨の山と越の海」(23)

遅塚麗水の紀行文集「日本道中記」(近代デジタルライブラリー所収)シリーズから、「飛騨の山と越の海」の23回目です。熱に浮かされながら夢見たかのような高山の一夜から明けて再び旅の歩を越中に向けて踏み出します。早朝は五時の出立です。その途次、麗水は世にも感歎すべき絶景に出逢います。ただ、最後にちょっとミスをおこします。。。。


 一〇 飛騨道中の絶勝


 五日、今日も晴れたり、1)フスンの雲もなし、五時、2)ケッソクして旅館を出で越中道に向ふて発す、松本、広瀬を歴て四里、古川町に至る、此の間常に宮川の右岸を度る、水石の観亦悪からず、古川の町、戸数八百人口四千を有する3)シユウなれど、赤痢4)ショウケツを極め、居民多く疫を山に避け、市廛荒涼、路に石灰乳白く、石炭酸の臭気高く人を吹く、鼻を掩ふて疾走し、鶴の巣、桐谷の寒村を歴て、荒原とて其名の既に恐ろしき荒山を踰えて石瀬と路を争ひ、行くこと更に四里にして船津町に入る、時に三時、船津より西茂住に至る三里の間、尤も渓山の勝に富む、鹿間の瀧、文字が淵の籠の渡し、漆山の桟道、皆詩すべく絵すべきのところ、往いて牧村に入れば5)ホンタン寂然として声を収めて潭となり、青きこと6)ギョウコウのごとく、風ふけども漣漪(レンイ=さざなみ)なし、二大岩あり相距ること数十歩、水を抽いて浮ぶがごとく、上に青松を戴く、山蹙りて亦湍となり、水は怒りて7)雹狠雨狂す、曾て看たりし陸中の厳美渓を以て相較ぶるに、彼れ甚だ此れに及ばず、厳美に兄たるの木曾の寝覚の床、亦応に遜色あるべし。

 余をして尤も驚喜せしめしは、将に西茂住の村に入らんとするところ諏訪谷の奇勝なり、奇峯8)カメのごとく裂け、紫潤にして淡青色の条文を雑ゆるの山骨全く露出したるが潭を繞りて壁立し、壁に9)スイラあり、峯に古木多く、10)バクフあり高さ二十余丈、11)灑灑として平石の面に布いて潭に落ち、潭呀(ガ=荒れ狂うさま)して之れを呑む、潭辺皆な白石、時に薄暮、雲あり縹渺たり、仙の人列する麻のごとく、雲の君紛々として来り降ると歌ひたる唐の詩聖が其の儘にす、飛騨道中、余は諏訪谷を奇勝第一に推さんと欲す。




厳美渓(ゲンビケイ)は岩手県一関市にある全長2キロメートルの渓谷。その近隣には猊鼻渓と呼ばれる名称もありますが別の物です。奇岩奇石、川底の甌穴が名称として有名。ところが、麗水は「船津より西茂住に至る三里の間」の渓谷美が最高で、詩を詠んだり、絵に描いたりするべきであるといい、厳美渓でも勝てはしない。「木曾の寝覚の床」には勝てないといいます。

最後に出てくる「唐の詩聖」とはもちろん、盛唐の詩人・杜甫のこと。ちなみに李白は詩仙という。「仙の人列する麻のごとく、雲の君紛々として来り降る」の詩を検索して調べて見たところ、それらしいのが見つかりました。すると、てっきり杜甫の詩だろうと思っていたら、なんと李白の詩でした。つまり、麗水の覚え違い。うろ覚えで杜甫と李白を混同してしまったようです。もう一度繰り返します。詩聖は杜甫、詩仙は李白です。折角ですから、麗水が引用した「詩仙」である李白の詩を掲載しておきます。出典は岩波文庫「李白詩選」(P311~、松浦友久編訳)です。少し長いです。読み下し文だけ。

「夢に天姥に遊ぶの吟 留別」(雑言古詩)

海客 瀛洲を談ず
煙濤 微茫 信に求め難しと
越人 天姥を語る
雲霓 明滅 或いは睹る可しと
天姥 天に連なり 天に向って横たわる
勢いは 五岳を抜いて 赤城を掩う
天台 四万八千丈なるも
此に対しては 東南に倒れ傾かんと欲す
我 之に因って呉越を夢みんと欲す
一夜 飛んで度る 鏡湖の月
湖月 我が影を照らし
我を送りて 剡谿(センケイ)に至らしむ
謝公の宿処 今尚お在り
水 蕩漾として 清猿啼く
脚には謝公の屐を著け
身は青雲の梯に登る
半壁に海日を見
空中に天鶏を聞く
千巌 万転 路定まらず
花に迷い石に倚り 忽ち已に暝し
熊は咆え竜は吟じて 岩泉に殷き
深林を慄わし 層巓を驚かす
雲は青青として 雨ふらんと欲し
水は澹澹として 煙を生ず
列缼(レッケツ) 霹靂
丘巒 崩摧
洞天の石扇
訇然(コウゼン)として中より開けば
青冥 浩蕩 底を見ず
日月 照耀す 金銀台
霓を衣と為し 鳳を馬と為し
雲の君 紛紛として来り下る
虎は瑟を鼓し 鸞は車を回らし
仙の人 列なること麻の如し
忽ち魂悸きて以て魄動き
怳(キョウ)として驚起して長嗟す
惟だ覚めし時の枕席のみ
向来の煙霞を失う
世間の行楽 亦た此の如し
古来 万事 東流の水
君に別れて去らば 何れの時にか還らん
且く白鹿を放つ 青崖の間
須らく行くべくんば 即ち騎して名山を訪わん
安んぞ能く 眉を摧き腰を折って権貴に事え
我をして心顔を開くを得ざらしめんや



麗水の引用部分は★で示しました。順序も逆ですし、一部を取った断章取義のきらいもなくはありません。ちょっと知ったかぶりが過ぎましたな、麗水はん。。。勇み足でしたね。。



1) フスン=膚寸。ほんのわずかの長さ。この「膚」は「四本の指を平らに並べた長さ。昔、物の長さを測るのに用いた寸」。扶寸とも書く。

2) ケッソク=結束。旅や出陣の身支度をする。

3) シユウ=市邑。人の集まる賑やかな街。この「邑」は「まち」。

4) ショウケツ=猖獗(猖蹶)。はげしくあばれまわっていて、おさえることのできないさま、勢いのさかんなこと。「猖」は「盛んにあばれる、たけだけしいさま」の意。猖狂(ショウキョウ=狂気のさたの荒い行いをすること)。「獗」は「がばとはねおきる、また、動物がたけりくるう」。「蹶」は「がばと起きあがって走りだす」。蹶張(ケッチョウ=弩を足でふんばって押さえ、そのつるを張ること)、蹶然(ケツゼン=急にはねおきるさま、がばと、むっくと)。

5) ホンタン=奔湍。川の水流の急な所。早瀬。急湍とも。「湍」は「はやせ」。奔渾(ホンコン=川の流れが急ですさまじいさま)、奔趨(ホンスウ=はしっておもむく)、奔雷(ホンライ=激しく鳴るかみなり)、奔湊(ホンソウ=はしり集まる)、奔川(ホンセン=勢いよく流れる川)。

6) ギョウコウ=凝膏。凝り固まった油。「凝」は「こごる」。凝雨(ギョウウ=雪のこと)、凝塊(ギョウカイ=こり固まったかたまり)、凝寒(ギョウカン=凍りつくような寒さ)、凝脂(ギョウシ=固まった脂肪、転じて柔らかく白くつやのある膚のたとえ)、凝妝(ギョウショウ=よそおいをこらす)、凝然(ギョウゼン=考えごとに熱中しじっと動かないさま)、凝霜(ギョウソウ=凍り固まった霜)、凝湛(ギョウタン=たまり水の清く澄んださま)、凝眸(ギョウボウ=じっと見詰める、凝睇=ギョウテイ=)。

7) 雹狠雨狂=ハクコンウキョウ(ハッコンウキョウ)。雹や雨が荒れ狂って降るさま。「雹」は「ハク」と音読みで読みたい。「狠」は「もとる」。犬がかみ合う時に発する声の形容。荒れ狂ったさま。狠恣(コンシ=心がねじけていて、気ままなこと)、狠戻(コンレイ=心がひどくねじけている、狠愎=コンヒョク=これは難読)。

8) カメ=甕。みか。酒や水を入れる大がめ。音読みは「オウ」。酒甕(シュオウ=酒がめ)、甕天(オウテン=かめの中の天地、見識の狭いたとえ)、甕頭(オウトウ=との年にはじめてできあがった酒)、甕牖(オウユウ=こわれたかめの口でつくった窓、まずしい家のたとえ)、甕裡醯鶏(オウリケイケイ=世間知らず、詰まらない者)。

9) スイラ=翠蘿。ヒスイのように美しい青緑色のつた。

10) バクフ=瀑布。たき。瀑泉(バクセン)・瀑流(バクリュウ)。

11) 灑灑=シャシャ。さっぱりしたさま。「サイサイ」と読めば「水をふりそそぐさま」。ここは前者。
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2006.3  漢字学習スタート
2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
2007.10 1級合格①
2009.2 1級合格②

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