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鬱悒なる宿を忘れ墨絵の如き風景に酔い痴れる=「飛騨の山と越の海」(7)

遅塚麗水の紀行文集「日本道中記」(近代デジタルライブラリー所収)シリーズから、「飛騨の山と越の海」の7回目は「四 橘の渡」の「その3」です。六人が乗り合わせた馬車は長良川の渓流沿いを進みます。辺りは絶景の連続、麗水の筆も美文となって迸ります。

 円石を排置したる板葺の低屋に交はる瓦屋の層楼、1)シンシとして九百余戸、刀鍛冶にて名高き関町に次げる中濃の小繁華の2)を過りて、終に乗鞍岳3)サンイに嚮ひ長良川の渓流に傍ふて進みたり、橘の渡を渡る、乱山水と共に奔りて頽嵐凝碧相4)エイタイす、日はいまだ峰を出でず、雲静かに度り靄は澹く籠め、渡りて中流のところに到れば嶙々として石白く沈々として水青く、5)スイビ細やかに吹いて人の鬢髪を揺かす、岩陰の泊舟、水を汲み竹を焚いて朝の餉(かゆ)を煮るにやあらん、軽烟一抹裊々(でうでう)として6)苔磯の辺に低迷す、宛然たる一幅青緑山水の図画なり、舷を敲いて7)欸乃一声山水緑の唐詩を長吟すれば、木応へ石言いひ、8)ヒョウヨウして遥かに9)ウンショウに入る、

★「裊々(でうでう)」は「ジョウジョウ」で「しなやかにまといつくさま、そよかぜやけむりなどのなよなよとしたさま」。嫋嫋も同義語。



唐詩を口にすれば木や石が言葉を発しゆらゆらと空高く舞う。そんな空気が立ち籠めています。恰も一幅の墨絵の如き風景に酔い痴れる麗水でした。昨夜泊った鬱悒(いぶせき)なる宿の存在はとっくにお忘れですな。この項はまだ続きます。


問題の正解は続きにて。。。



1) シンシ=参差。長短入りまじっていっしょになるさま、並び連なるさま。ここは大きな家も小さな家もおよそ九百戸がまとまって建っているさま。参差錯落(シンシサクラク=ふぞろいな物がいりまじっているさま、参差不斉=シンシフセイ=)。

2) 街=ちまた。まちなみ。ここは繁華な大通りのこと。街衢(ガイク=四方に通じる広い道)、街巷(ガイコウ=まち、まちの道路)、街陌(ガイハク=まちの通り、まちすじ、街路=ガイロ=)

3) サンイ=山彙。山系または山脈を成さず、孤立している山岳の集まり、山群。「彙」は「あつまる、あつめる」。はりねずみが針を丸く集めたさまを言います。したがって、山が独立してこんもりと盛り上がっているさま、例えば富士山なんかも山彙と言えるでしょう。「山彙」「山脈」「山系」の違いについて某サイトに以下の記述が見えました。

〔山彙・山脈・山系〕 群山の相重畳し、叢立するを山彙《さんい》、あるいは山塊と称し、また蜿蜒《えんえん》して一条の連鎖のごとく連立するを山脈と名づく。しかしてこれらの山脈、もしくは山彙が、これを立基せしむる基盤によりて相連絡するときは、これを全体より見て、山系と称せり。

4) エイタイ=映帯。景色などが互いにうつりあう。映蔚(エイウツ=青々と茂り互いにうつりあって美しい)。

5) スイビ=翠微。高山の八合目あたり、みどりにけむる山の中腹。もやが立ちこめている青々とした山のこと。「翠」は「みどり」。翡翠のような青緑色、山・草・葉などよごれのない青みどりのもの。翠靄(スイアイ=青みを帯びたもや)、翠帷(スイイ=みどり色のとばり、翠幄=スイアク=・翠帳=スイチョウ=)、翠蔭(スイイン=青葉のかげ、翠陰)、翠羽(スイウ=カワセミの羽、珍重品、翠翹=スイギョウ=)、翠雨(スイウ=青葉に降る雨、美しい黒髪に降る雨)、翠煙(スイエン=青みを帯びた煙、もや)、翠娥(スイガ=青黒い三日月形のまゆ、美人、翠黛=スイタイ=)、翠鬟(スイカン=輪型に巻いた、つやつやしたまげ、緑の黒髪)、翠嶂(スイショウ=青々したきりたった峰)、翠苔(スイタイ=緑色のこけ、翠蘚=スイセン=)、翠鳥(スイチョウ=カワセミ、翠禽=スイキン=)、翠帳紅閨(スイチョウコウケイ=貴婦人の寝室)、翠鈿(スイデン=カワセミの羽または翡翠でつくったかんざし)、翠髪(スイハツ=緑の黒髪)、翠被(スイヒ=カワセミの羽でつくった着物)、翠阜(スイフ=青々とした丘)、翠屏(スイヘイ=緑色の屏風、青々とした山や樹木の茂った崖のたとえ)、翠鳳(スイホウ=緑色の鳳凰、天子の乗る車)、翠嵐(スイラン=青々とした山にかかったもや、青々とした山の形容)、翠柳(スイリュウ=青々としたやなぎ)、翠嶺(スイレイ=青々とした山、翠巒=スイラン=)、翠輦(スイレン=天子の乗る緑色の手押し車)、翠簾(スイレン=緑色のすだれ、翠箔=スイハク=)、翠浪(スイロウ=青緑色の波、翠波=スイハ=・翠濤=スイトウ=)、翠楼(スイロウ=青く塗った高殿、遊女屋、翠館=スイカン=)。

6) 苔磯=タイキ。コケが一面に生えている渓流の岩。「苔」は「こけ」。苔径(タイケイ=コケが一面に生えているこみち)、苔砌(タイセイ=コケが一面に生えている石畳)、苔磴(タイトウ=コケが一面に生えている石の階段)。「磯」は「石が流れに洗われる川原、水際の石の多い所」の意。日本では「いそ」ですがここは勿論海ではない。音読みの「キ」は珍しいかもしれませんが音符「幾」で読めるでしょう。

7) 欸乃=アイダイ。船頭が舟を漕ぐときにかけあう声、あるいは、樵が木を切る時に歌う歌。ルビには「おうあい」が振られています。掛け声の擬声語でしょう。

8) ヒョウヨウ=飄揺。ひらひらと動いてさだまらないさま。

9) ウンショウ=雲霄。空のこと。「霄」は「空の果て」。高い位をたとえることもある。
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2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
2007.10 1級合格①
2009.2 1級合格②

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