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母上様 一刻も早く顔見たや 険しき近道踏み越えても=「飛騨の山と越の海」(2)

遅塚麗水の紀行文集「日本道中記」(近代デジタルライブラリー所収)シリーズから、「飛騨の山と越の海」の2回目です。御母堂が在す飛騨は高小千谷を目指して、名古屋から岐阜に入ります。岐阜から飛騨・高山に抜ける路には二種類あるという。即ち、関、金山からのルート、これは比較的平坦ですがかなりの回り道。もう一つは、上有知、八幡を経て龍が峰を越えるコース。こちらは近道ですが険しいという。さあ、麗水はどっちを通るのでしょうか。


二 岐阜

 停車場を出でたる余は、早く既に乗合馬車の1)廝丁の為めに拘引されて、市の端(はづ)れなる一個湫隘なる旅亭の二階に馬を2)マグサする間を留置さるゝの身となりき、主人を喚びて飛騨越の路を3)モンジンしたるに、高山に到るに二道あり、一は関、金山を歴て高山に入るもの夷なれども4)、他は上有知(かうづち)、八幡を過りて龍が峰を度るもの嶮にして捷なりと、余は即ち嶮にして捷なるものを撰びたり。

 俟つこと之れも久しうして馬車の発すべき気色もなし、香魚の外には箸を下すに堪えざる寂しき午餐(ひるげ)をしたゝめし後、5)セッチンを左にし行燈部屋を右にせる6)陋穢なる四畳半の中に、7)キョクコウの興を貪りしが、頓(やが)て高低断続響き度れる8)ラッパ声に夢は破れぬ、風常に死せる9)庇間の窓の本格子を、己が天下と網を張れる蜘蛛の巣の、蝶、蛾、さまざまの屍を懸けし間より射し入る日影は室に遍く、汗のA)■■(しとしと)と流るゝを拭ひも敢へず、10)ハンシャツ、11)ハンモモヒキ、太肚(ふとはら)の括るゝまで12)ヘコオビ13)緊乎と拳結びになしつ、脱ぎたる単衣を推襞(おしたゝ)んで小14)カバンにくゝりつけ、左の肩に振分けて急ぎ此家を立ち出でたり。




和訓語選択。

A) 「しとしと」=シュクコツ・ホウハイ・リンリ・シュウゼン・シンシュツ

麗水は険しいが時間が短縮できる方の道を選びました。一刻も早く母上に逢いたいという急いた気持ちの表れでしょうか。ところが、うまかいの都合で足止めを食らわされ閉口します。そこに突如の出立の知らせが。取る物も取りあえず慌ただしく汗だくになって乗合馬車に乗り込みます。長い長い孤独な旅の始まりです。


語選択も含めた問題の正解は続きにて。。。





1) 廝丁=シテイ。「シチョウ」とも読む。牛車の牛飼。また、乗馬の口取。とねり。「廝」は「こもの」。雑用をする召使い、しもべのこと。廝役(シエキ=こまごました雑役、雑用をする召使い)、廝養(シヨウ=雑用、雑用をする召使い、廝徒=シト=)。

2) マグサ=秣。牛馬の食料にするため、細かく切りこんだわら、かいば。「秣」は「まぐさかう」とも訓み、「牛馬にかいばを与えて養うこと」。音読みは「マツ」。秣粟(マツゾク=牛馬のかいばにする穀物、穀物をかいばに用いること)、秣馬(マツバ=牛馬にまぐさを与える、転じて牛馬を養うこと)、秣陵城(マツリョウジョウ=南京の古称)。

3) モンジン=問訊。問い尋ねる。

4) ウ=迂。回り道。この場合のヒントは「捷」。すなわち近道です。「迂」と「捷」は対立する概念の言葉です。ここの妙味を読みとりましょう。迂疎(ウソ=まわりくどくて実際の役にたたない、世事にうとい、迂遠=ウエン=)、迂闊(ウカツ=まがぬけて実際の役に立たない)、迂緩(ウカン=物事をするにぐずぐずしてのろい)、迂久(ウキュウ=しばらくして)、迂折(ウセツ=まがりくねる、迂曲=ウキョク=)、迂愚(ウグ=世事にうとくて愚かなこと)、迂言(ウゲン=まわりくどい言い方)、迂儒(ウジュ=世情にうとくその知識が実際に役に立たない、つまらない学者)、迂拙(ウセツ=世情にうとく世渡りのへたなこと)、迂叟(ウソウ=世事にうとい老人)、迂誕(ウタン=言うことが現実とかけはなれていて大げさなこと)、迂鈍(ウドン=世事にうとくてにぶい)、迂腐(ウフ=まわりくどくて実際の役に立たないこと)、迂路(ウロ=回り道)。捷径(ショウケイ=近道、正道とは違った手近な便宜的な方法・やり方、捷路=ショウロ=)、捷足(ショウソク=足がはやい、物事をすることがすばやいこと、捷足先得=ショウソクセントク・早い者勝ち=)、捷敏(ショウビン=すばやい、捷疾=ショウシツ=・捷速=ショウソク=)、捷聞(ショウブン=戦勝のしらせ、捷報=ショウホウ=)。

5) セッチン=雪隠。便所、かわや、不浄。もと「セツイン」が訛ったもの。

6) ロウワイ=陋穢。やや難問。むさくるしくてきたないさま。「ロウアイ」とも。

7) キョクコウ=曲肱。ひじをまげてまくらがわりにすること。「曲肱之楽」(キョクコウのたのしみ)で「貧しいながらも道を行う楽しみ」。論語・述而に、孔子の一番弟子、顔回がひじをまげてまくらとしたという故事にちなむことば。ここは曲肱之楽ならぬ曲肱之興と応用形になっているのが味噌。「きょくこうのたのしみ」で浮かぶのならば「きょくこうのきょうを貪る」で閃いてほしいものです。ライバル候補は「旭光」か「亟行」ですが。

8) ラッパ=喇叭。吹奏用の金管楽器。軍隊や葬式の際に用いて、甲高い音を出す。

9) 庇間=ひあわい。家と家との間の狭い所、日光が通らない所、ひあい。普通は「廂間」と書く。「庇」「廂」ともに「ひさし」と訓むことから入れ換えたものか。

10) ハンシャツ=半襯衣。半袖のシャツ。「襯衣」は「シンイ」とも読む。

11) ハンモモヒキ=半股引。足が半分出る猿股。「股」は「もも」「ふともも」。音読みは「コ」。股肱(ココウ=足のももと、手のひじ、転じて頼みになるたいせつな家来)、股掌(コショウ=足のももと手のひら、転じて頼みになるもの)、股弁(コベン=こわくてももがふるえる、股戦=コセン=・股慄=コリツ=)、刺股読書(ももをさしてしょをよむ=苦学すること、眠くなるとももを錐でさして読書を続けた戦国時代の蘇秦の故事、「戦国策」秦)。

12) ヘコオビ=兵児帯。男子または子供のしごき帯。もともと薩摩の兵児(へこ)が用いたことからいう。一幅(ひとはば)の布を適当の長さに切り、しごいて用いる帯のこと。旅館などの浴衣を締める、ぐるぐる巻くあれです。

13) 緊乎と=しかと。しっかりと、たしかに。これは完全な当て字で通常は「確と」あるいは「聢と」を覚えましょう。

14) カバン=鞄。かわかばん。音読みは「ホウ」。


★和訓語選択


A) リンリ=淋漓。水・汗・血などのしたたるさま。淋瀝(リンレキ)ともいう。「淋離(リンリ)」だと「長いさま」。流汗淋漓(リュウカンリンリ=汗がたらたらとながれる)、淋浪(リンロウ=水が絶え間なく流れ注ぐさま、はらはらと乱れ落ちるさま)。
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2006.3  漢字学習スタート
2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
2007.10 1級合格①
2009.2 1級合格②

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