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往復三百里の山越え海に向かう長旅です=飛騨の山と越の海(1)

遅塚麗水の紀行文集「日本道中記」(近代デジタルライブラリー所収)シリーズを続行します。次なる旅は「飛騨の山から越中、越後の海」がターゲット。出発は東京・新橋で東海道線から名古屋に出て岐阜から日本の中央部を縦断して日本海に抜けます。汽車と車の通っていない箇所も多いしんどい旅になりそうです。かなり長いのでゆっくりと歩を進めることとしましょう。母親が下の弟とともに飛騨に住んでいます。三百里と遥かなる旅程です。その五分の一は歩き。もちろん山ですよね。




まずは序文から。

▼飛騨の山と越の海

岐阜を振り出しにして、郡上街道を飛騨の高山に入り、更に神通川に沿ふて越中富山に下り、海に浮びて直江津への紀行文『飛騨より北陸道へ』と、新潟より海を伝ふて、弥彦、寺泊、出雲崎など三日路の『越の海を伝へて』の二篇を収む、記者の飛騨旅行当時は徒歩なりしが、今は岐阜より高山まで乗合自動車ありて、昔の旅の三日路を、其の日のうちに走る、便利の世とはなりたり。


「飛騨より北陸道へ」

一 東海道

 人は争ふて松青く砂白き海辺に1)ショウカの郷を尋ぬるに、余は独り嵐寒く雲冷やかなる山間に2)ジョウショの境を覓めんと思ひ立ち、八月尽前の半宵、陸地測量部の二十万分の一の地図を披展して、旬日の閑をもて踏遍し得べき好箇の3)セイロを4)タントウしたる後、美濃の岐阜より程を起して、飛騨の高小千谷の次弟の家に、児と共に5)す老母に陪して還らんといふに決しぬ、程を計るに6)オウカン約三百里、其の中舟車の便あるは二百四十里、他の六十里は荒山乱水、儘我が七寸の7)アイコンを印すべきところなり。


 翌、晦日、暑さ烈しき日なりき、夕の六時、新橋停車場の楼上に於て、三盃の麦酒、一皿のハム及びサンドウヰツチとにて、心ばかりの独旅の8)首途を祝ひ、9)ヒョウゼンとして汽車に上りぬ、静岡にして午夜、浜松にして10)ケイメイ、新橋の11)ビクン百里の夜を度りて静醒山と共に青きの暁、名古屋より南して桑名に往き、知れる人の門を敲きしも逢はず、更に雨足り稲肥えたる木曾川沖積層の美霽の風色を看て、岐阜に車を降りしは、九月初一の午前十一時なりき、北、濃飛の境を望めば乱山雲を摩せり、山霊、河伯、木魈(もくせう)、石鬼、幸ひに此の独往の人を愛護せよ。



「山霊、河伯、木魈(もくせう)、石鬼」は良く分かりませんが旅の途次に待ち受ける妖怪たちのことか。旅の無事を祈って見守ってほしいという願いを籠めているのでしょう。暗雲垂れこめる濃尾と飛騨の県境をみて果てしない旅だと流石の麗水も聊かビビっているようです。今回は完膚無き迄に孤独な煢然たる「独り旅」です。



1) ショウカ=銷夏(消夏)。夏の暑さをしのぐ。、消暑、避暑。「銷」は「けす」。銷厭(ショウヨウ=滅ぼしけす、病根やたたりをもみけす)、銷骨(ショウコツ=骨をとかす、しんまでむしばむ、讒言の害が激しいことをあらわす)。

2) ジョウショ=攘暑。これも↑と似た意味でしょうが、こっちはかなりの難問でしょうか。暑さをしのぎ、涼しさを求めること。「攘」は「はらう」。じゃまなものを払いのける。

3) セイロ=征路。旅の道、旅路。征途ともいう。

4) タントウ=探討。物事の本質をさぐりきわめる、探尋、探究ともいう。ま、ここはそれほど深い意味ではなく、避暑の旅の目的地をどこにするか地図を見ながら検討するくらいの意でしょう。探勝(タンショウ=風景のすぐれた所をたずねて見て歩くこと)、探梅(タンバイ=冬、花の咲いた梅をたずねて野山に行くこと)、探花(タンカ=花見に行く)、探賞(タンショウ=けしきのよい所をたずねて楽しむ)。

5) 在す=います。この世にいる、生きている。「まします」とも訓めるが、最高尊敬。自分の母親に使うにはどうか。。。。

6) オウカン=往還。いき帰りする。往復。

7) アイコン=鞋痕。くつ、わらじのあと、人の足跡。「鞋」は「くつ」。鞋韈(アイベツ=くつとくつした)。「アイコン」と言われると絵文字の「icon」が浮かんじゃいますね。鞋痕を印すは、自分の足で歩くという意味か。鞋底魚は「したびらめ」。

8) 首途=かどで。旅行や戦争などに出発すること。「シュト」の音読みもあり。首路(シュロ)ともいう。「かどで」は「門出」が一般的ですが熟字訓問題なら此方。

9) ヒョウゼン=飄然。ひらひらと風にひるがえるさま。ぶらりと来たり去ったりするさま。漂然でもOK。

10) ケイメイ=鶏鳴。夜明け。鶏鳴狗盗(ケイメイクトウ=ニワトリの鳴き真似したり犬のようにこっそり盗みをはたらいたりすること、詰まらないと思われることも時には身を助ける有用性があるということ、中国戦国時代の孟嘗君の食客の故事)。

11) ビクン=微醺。ほろよい。微酔とも。「醺」は「よう。ほろよい加減になるさま。醺然(クンゼン=酒に酔って快いさま、ほろよいかげん)。
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Author:char
不惑以上知命未満のリーマンbloggerです。
言葉には過敏でありたい。
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2006.3  漢字学習スタート
2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
2007.10 1級合格①
2009.2 1級合格②

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