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昔々浦島は木曾路の「寝覚の床」で好好爺に…=木曾道中記「日本道中記」(13)・完

遅塚麗水の紀行文集「日本道中記」(近代デジタルライブラリー所収)から、「峡雲蘇雲・木曾道中記」の13回目は、「五 木曾道中」の「その2」です。最難関の鳥居峠を越えて木曾道中の都とも言われる福島の宿に入ります。いよいよ木曾道中の旅の最後です。冒頭は信濃の民謡、木曾節のまさに冒頭の一節。「旅」は「足袋」の紕繆ではないかと思われますが、麗水一流の掛け言葉なのかもしれません。


 福島は木曾道中の都なり、夏に蚊なければ蚊帳の用なく、夢を食む蚤もなしとぞ、御嶽に登る人は皆こゝに宿る、旅の徒然に、『木曾の御嶽さんは夏でも寒い、1)アワセ遣りたや旅添へて』の木曾節の踊の手振を見るも亦た面白し、御嶽登山口は町の尽頭(はなれ)折れ、王瀧川に傍ふて行くなり、橋戸の常盤橋を渡りて黒沢、登山の人は此の里にて昼飯をしたゝむ、御嶽の神を2)カンジョウしたる社殿あり、講社の人は3)ミズゴリして登山平安の護符を受く、含満の淵より四合目の松の尾の小屋、五合目の千本松の小屋、これよりは檜槙帯の大森林、扇ケ森には六合目の中の小屋あり、七合目の一の又小屋、さて八合目の新小屋にて日の出を拝す、人間の夜いまだ明けやらぬ一万尺の峯の端に、紫金の妙光4)チュウウに流るゝ朝日影、南東にて富士、東には浅間、駒ケ岳は前に在り、北には飛騨の乗鞍、槍ケ岳、越中の立山、西には加賀の白山を見る、これより路は偃松帯のうちに入り、灰白帯黄の羽ある禽の、鳩よりも大きなるが松の蔭より起つを雷鳥と珍しく看めながら、覚明の籠堂より右に折りて三の池を過ぎ、高天原を度り、万年雪の上を5)ホフクしつゝ絶巓の御嶽神社に6)るなり、この山の巓は、宛がら半開の蓮華のさまに幾箇の峯の欹たちて色の赭き火山帯より成り、其の花の7)に当れる六十坪ばかりの夷らなる処に、小社ありて嶽神を祀れる社あり、社を繞りて、講社の人の奉納せる8)セッケツ、銅人など攅り立つ、怖ろしき地獄谷、更に怖ろしき大のぞきの9)シンガクを度りて山を下り、七合目より落葉松帯、田の原の荒原を過ぎて深樹昼間暗き三笠山の、一禅の吟ずるなく、又た一鳥の啼くことなく古道を下りて八海山の麓を行き、二合目より左に折るれば清瀧といふ瀧あり、百余尺と聞えし青き一枚岩の削り立ちし上より、水の浅く落つるさま極めて清麗、その名に負かず、岩の面の皺に生ふる水苔の、さまざまの模様を作りて瀧の水に透けて見ゆるなど更に優美の趣を添へたり、一つの峯を踰ゆれば大瀧あり、清瀧よりは大なれど風趣は揚らず、但し瀑布の後に岩窟ありて、人は此処に立ちて瀑布の裏を見るが面白し、王瀧に帰りて御岳二日の荒行を終るなり、王瀧より三里にして鞍坡橋の勝あり。

 上松は木曾第一の勝と聞えし寝覚の床のあるところ、臨川寺の10)クリの木欄干に凭れば全渓の勝を11)ソウランすべし、歯牙香ばしき名物の蕎麦もあり、小野瀧は、今や汽車その瀧の前を度る、須原野尻三留野より妻籠、吾妻、このあたり木曾乙女の、檜笠を作るあり、木曽川常に路に傍ふて、紅葉の秋や殊に好し、中津川は木曾路の関門、大井、釜戸、土岐津を歴て多治見には虎渓山永保禅寺あり、路は濃州を過ぎて名古屋に入るなり、空に霞める金の12)シャチホコ


御嶽山登山はかつての八ケ岳ほどではないにせよ、かなりの難所のようです。「人間の夜いまだ明けやらぬ一万尺の峯の端」の「人間」は「ジンカン」と読みたいところ。神の世に対する人間界のこと。御嶽山を中心にして「
南東にて富士、東には浅間、駒ケ岳は前に在り、北には飛騨の乗鞍、槍ケ岳、越中の立山、西には加賀の白山を見る」と、日本を代表する数々の峰々が莅める超絶景。日本を代表する鳥、雷鳥も生息しています。頂上から一気に下り降りる描写はスリリングで圧巻ですね。流石は筆力扛鼎の麗水なり。最後には「二日の荒行」だったと形容しています。

木曾八景のひとつ、「寝覚ノ床」(ここ)(あそこ)。浦島太郎伝説も残っていて(なぜに山ですが…)、臨川寺は浦島太郎が玉手箱を開けた場所として伝わっているそうです。川の水面の色はエメラルドグリーン。麗水が謂う所の「木曾第一の勝」です。名古屋も近いだがね。木曾路の旅は終わりです。

問題の正解は続きにて。。。




1) アワセ=袷。裏地と表地とをあわせた衣。裏の付いた着物。音読みは「コウ」。袷衣(コウイ)。対義語は「単」(ひとえ)。

2) カンジョウ=勧請。神仏の出現を願うこと。神仏の分霊を神社や寺に移し、迎えまつること。

3) ミズゴリ=水垢離。神仏に祈願する前に、冷水を浴びて心身を清めること、水行、みそぎ。単に垢離ともいう。

4) チュウウ=宙宇。そら。大空。「宙」は「そら」。「宇」も「そら」。

5) ホフク=蒲伏(匍匐、匍伏、蒲服)。腹這いになる、腹這うこと。この「蒲」は「匍(ホ=はらばい)」に当てた用法です。ま、「匍匐」を覚えましょう。

6) 詣る=まいる。神社・寺などを訪れ拝む、おまいりする。音読みは「ケイ」。「いたる」とも訓める。

7) 蕋=しべ。「蕊」の異体字。「蘂」も異体字。植物のおしべとめしべの総称。音読みは「ズイ」。蕊珠(ズイシュ=花のしべや珠玉で飾られている宮殿、仙人の住むところ、仙境)。

8) セッケツ=石碣。まるい石碑。「碣」は「そそりたつ石」。

9) シンガク=深壑。深い谷底。「壑」は「たに」。同じシンガクの岑壑は「山と谷」。「深~」の熟語は、深潭(シンタン=ふかいふち)、深間(シンカン=スパイ)、深窺(シンキ=物事の本質を見通す、深見=シンケン=)、深仇(シンキュウ=ふかい恨みのあるかたき、深讐=シンシュウ=)、深閨(シンケイ=家の奥深くある婦人の部屋、深窓=シンソウ=)、深堅(シンケン=戦争で守りが非常にかたいこと)、深痼(シンコ=治りにくい病気、宿痾=シュクア=)、深巷(シンコウ=奥まった路地)、深酷(シンコク=態度や刑罰が非常にきびしくむごたらしいこと)、深樹(シンジュ=こんもりと茂った木)、深邃(シンスイ=山や家などが奥ふかいこと、学問・思想などが奥ふかくて簡単にわからないこと)、深切(シンセツ=切り込みがふかくひしひしとこたえる)、深阻(シンソ=山が奥ふかくて険しい)、深造自得(シンゾウジトク=物事のいちばん奥ふかい事がらをきわめて、我が身にわきまえる、この「造」は「いたる」)、深中隠厚(シンチュウインコウ=人情に厚く、思いやりのある性質のこと、深中篤行=シンチュウトッコウ=)、深図(シント=よく考えたふかいはかりごと、よく考えてはかりごとをめぐらす、深計=シンケイ=・深策=シンサク=)、深博(シンパク=物事をふかく広く知っていること)、深文(シンブン=きびしい法律、苛政、奥深い意味のある文章)、深壁(シンペキ=守りをかためたとりで、とりでのかこいを厳重にしてかたく守る)、深墨(シンボク=喪に服している人の顔色がやつれ黒ずんださま)、深窈(シンヨウ=奥ふかくもの静かなさま)。

10) クリ=庫裏。寺の台所、寺の住職やその家族らの住む場所。この「ク」は唐音で仏教語。通常、「庫」は「くら」。庫吏(コリ)は「くら番の役人」。

11) ソウラン=総攬。政治を一手にすべる、人々の心をまとめて服従させる。「総覧」(全体を見る)とは異なるので要注意です。「攬」は「すべる」の意。ただし、前後の文脈を見ると麗水は「総覧」の意で「総攬」を用いている節があります。意味は微妙に違うのですが弘法も筆の誤りか?

12) シャチホコ=鯱鉾。「鯱」の一字でも「しゃちほこ」。国字です。想像上の魚の名で、頭は虎に似て、背に鋭いとげをもつ。火災避けとして、宮殿・城廓・楼門などの棟の両端につける。名古屋城の「金の鯱」が夙に名高い。「さちほこ」という言い方もある。
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Author:char
不惑以上知命未満のリーマンbloggerです。
言葉には過敏でありたい。
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2006.3  漢字学習スタート
2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
2007.10 1級合格①
2009.2 1級合格②

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