帝国劇場を倒したほどの岩って…でかっ!=木曾道中記「日本道中記」(4)
遅塚麗水の紀行文集「日本道中記」(近代デジタルライブラリー所収)から、「峡雲蘇雲・木曾道中記」の4回目は、「二 八ケ岳の絶頂」の「その2」です。真っ逆さまに落ちるかのような断崖絶壁に立った麗水。身も心も震え戦きながらも、更に高みを目指して進みます。それは海抜2500メートルに垂とする、岩しかない高みです。
岩鏡といふ紅き花さく石の1)逕、白樺の林の蔭を行くほどに、やがて金字塔(ぴらみつど)形せる絶頂は、崢として眉に迫れり、海抜八千余尺の絶頂は都て岩なり、小なるにても六噸積の貨車ほどはあり、其の大なるは丸の内の帝国劇場を推し倒したるほどもありて、皆な2)花崗岩なり、霉爛せる其の石の数知れず3)ライライとして積み累なれる中ごろより下には、青き毛糸の襟巻したるさまに、4)偃松これを5)繞り6)纒へり、先達の査公は早や偃松帯を越へ、絶頂に近き岩角に剣を横へて立てり其の顔豆よりも小なり、偃松の7)此処彼処には、村人の台湾パナマ突盔帽子、菅笠の出頭没頭せり、余等は大声に査公に路を問へり、石毎に雲を吐いて、且つ舂き且つ奔り人を8)偸却す、叫べども聞えず。
★崢(コウソウ)=山がとりまいて競い立つさま。崢(ソウコウ)=山が乱れ立つさま、山道がぎざぎざとめぐり続くさま。
★霉爛(バイラン)=あとからあとから繁殖した黴でただれたさま。「霉」は「かび」。
★突盔(トッカイ、トッパイ)帽子=かぶとのように頂部が高く突き出た帽子。パナマ帽。
いよいよ絶頂目前。しかし行けども行けども偃松に雲が絡み見通しが悪い。足下は雪道。岩石だらけなのですが、「小なるにても六噸積の貨車ほど」はいいしても、「其の大なるは丸の内の帝国劇場を推し倒したるほどもあり」は大袈裟でしょう。帝国劇場を倒した岩って、それは小山ですよね。喩えとして帝国劇場が出てきたのは面白いですが、それにしても何故?独特な形していましたっけか?それは扨措き、絶頂目前でとんでもないことが起きます。次回ご期待。
問題の正解は続きにて。。。
1) 逕=みち。山野や庭の小さなみち。音読みは「ケイ」。逕庭(ケイテイ=小道と広い道、非常に違っていることのたとえ、懸隔)。
2) 花崗岩=みかげいし。岩石名。かたくて美しく、建築・装飾などに使用する。「カコウガン」もOKですが、ここは熟字訓で。
3) ライライ=磊磊。石がごろごろと重なるさま。磊塊(ライカイ=ごろごろした石の塊、山や岩石が平らでなく高いさま)、磊落(ライラク=あけすけで小事にこだわらないさま、スケールの大きいさま)。
4) 偃松=はいまつ。高山帯に植生する匍匐性のある常緑低木。曲がって地を這うように生えている松。通常は「這松」で完全な宛字。「偃」は「ふせる」「たおれる」。偃臥(エンガ=
5) 繞り=めぐり。「繞る」は「めぐる」。まわりを回る。とりまく。「まとう」「まつわる」とも訓む。音読みは「ジョウ」、呉音では「ニョウ」。繞環(ジョウカン=周囲をめぐってとりまく)、繞梁(ジョウリョウ=音色が家の梁にまといつく、歌声が美しく余韻が嫋嫋としていること、列子・湯問篇から)、繞梁(ジョウリョウ=まつわりつく、繚繞=リョウジョウ=)。
6) 纒へり=まとへり。「纒ふ」は「まとふ(う)」。「纏」の異体字。点はあっても無くてもいいようです。まつわりつく。「まとめる」の訓みも。音読みは「テン」、呉音は「デン」。纏繞(まつわりつく、転じて、足手纏いとなって自由を束縛すること)、纏足(テンソク=中国の旧風習、美人の条件)、纏頭(テントウ・はな=かずけもの、御祝儀)、纏綿(テンメン=思い悩んではればれしないさま、情緒が細やかなこと)。
7) 此処彼処=ここかしこ。ここやあそこ。
8) 偸却=トウキャク。見えなくすること。ここは雲が湧いて見えなくなるさまを形容か。ただし、辞書には掲載がなく迂生の解釈です。「偸」は「ぬすむ」。
岩鏡といふ紅き花さく石の1)逕、白樺の林の蔭を行くほどに、やがて金字塔(ぴらみつど)形せる絶頂は、崢として眉に迫れり、海抜八千余尺の絶頂は都て岩なり、小なるにても六噸積の貨車ほどはあり、其の大なるは丸の内の帝国劇場を推し倒したるほどもありて、皆な2)花崗岩なり、霉爛せる其の石の数知れず3)ライライとして積み累なれる中ごろより下には、青き毛糸の襟巻したるさまに、4)偃松これを5)繞り6)纒へり、先達の査公は早や偃松帯を越へ、絶頂に近き岩角に剣を横へて立てり其の顔豆よりも小なり、偃松の7)此処彼処には、村人の台湾パナマ突盔帽子、菅笠の出頭没頭せり、余等は大声に査公に路を問へり、石毎に雲を吐いて、且つ舂き且つ奔り人を8)偸却す、叫べども聞えず。
★崢(コウソウ)=山がとりまいて競い立つさま。崢(ソウコウ)=山が乱れ立つさま、山道がぎざぎざとめぐり続くさま。
★霉爛(バイラン)=あとからあとから繁殖した黴でただれたさま。「霉」は「かび」。
★突盔(トッカイ、トッパイ)帽子=かぶとのように頂部が高く突き出た帽子。パナマ帽。
いよいよ絶頂目前。しかし行けども行けども偃松に雲が絡み見通しが悪い。足下は雪道。岩石だらけなのですが、「小なるにても六噸積の貨車ほど」はいいしても、「其の大なるは丸の内の帝国劇場を推し倒したるほどもあり」は大袈裟でしょう。帝国劇場を倒した岩って、それは小山ですよね。喩えとして帝国劇場が出てきたのは面白いですが、それにしても何故?独特な形していましたっけか?それは扨措き、絶頂目前でとんでもないことが起きます。次回ご期待。
問題の正解は続きにて。。。
1) 逕=みち。山野や庭の小さなみち。音読みは「ケイ」。逕庭(ケイテイ=小道と広い道、非常に違っていることのたとえ、懸隔)。
2) 花崗岩=みかげいし。岩石名。かたくて美しく、建築・装飾などに使用する。「カコウガン」もOKですが、ここは熟字訓で。
3) ライライ=磊磊。石がごろごろと重なるさま。磊塊(ライカイ=ごろごろした石の塊、山や岩石が平らでなく高いさま)、磊落(ライラク=あけすけで小事にこだわらないさま、スケールの大きいさま)。
4) 偃松=はいまつ。高山帯に植生する匍匐性のある常緑低木。曲がって地を這うように生えている松。通常は「這松」で完全な宛字。「偃」は「ふせる」「たおれる」。偃臥(エンガ=
5) 繞り=めぐり。「繞る」は「めぐる」。まわりを回る。とりまく。「まとう」「まつわる」とも訓む。音読みは「ジョウ」、呉音では「ニョウ」。繞環(ジョウカン=周囲をめぐってとりまく)、繞梁(ジョウリョウ=音色が家の梁にまといつく、歌声が美しく余韻が嫋嫋としていること、列子・湯問篇から)、繞梁(ジョウリョウ=まつわりつく、繚繞=リョウジョウ=)。
6) 纒へり=まとへり。「纒ふ」は「まとふ(う)」。「纏」の異体字。点はあっても無くてもいいようです。まつわりつく。「まとめる」の訓みも。音読みは「テン」、呉音は「デン」。纏繞(まつわりつく、転じて、足手纏いとなって自由を束縛すること)、纏足(テンソク=中国の旧風習、美人の条件)、纏頭(テントウ・はな=かずけもの、御祝儀)、纏綿(テンメン=思い悩んではればれしないさま、情緒が細やかなこと)。
7) 此処彼処=ここかしこ。ここやあそこ。
8) 偸却=トウキャク。見えなくすること。ここは雲が湧いて見えなくなるさまを形容か。ただし、辞書には掲載がなく迂生の解釈です。「偸」は「ぬすむ」。
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