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島根半島の最突端の町が中国の華やかな色街に見えちゃう=山陰道五日の旅「日本道中記」(6)・完

遅塚麗水の「日本道中記」(近代デジタルライブラリー所収)から「山陰道五日の旅」シリーズの6回目、最終回です。山陰最後の旅先は「美保の関」。宍道湖から船に乗って境港を越えて日本海に突き出た島根半島東部の突端にあります。昔は杵築半島と呼んだようです。


美保岡の一夕

短夜や、水に近ければ明くるに易し、午後一時、擬宝珠の木欄橋、天神川の大橋の1)より小蒸気船に乗りて美保関に遊ぶ、船幾たびか水村の渚に停まりて汽笛を鳴し客を呼べば、柳を穿ち芦を披いて、小艇、客を乗せ来り、又客を載せて去るなり、江尽きて中の海なり、杵築(きづき)半島延びて海を2)る、其の尽るとことろは美保の関なり、右は境港より米子にかけて、五里の大天橋夜見の浜の松原を見る、吾が船境の港に泊ること半時ばかり、やがて夕陽の海を度りて美保の関に入る、青嶂の上に数株の松の相依りて立つは、無名の郷土詩人の歌ひたる『関の五本松一本伐りや四本、跡は伐られぬ女夫(めをと)松』なり、

 青山3)のごとく静なる湾を抱き、岸を繞りて人家4)ソウソウ三百有余戸、甚だ常陸の平潟の景に似たり、美保神社は大国主の子事代主命(ことよぬしのみこと)を祀る、四月七日大祭ありて、青柴垣の神事、海上に執り行はる、建御雷神(たてみみかづちかみ)、縫津主神(ふつぬしのかみ)、天孫の勅を5)んで八雲の都に臨むや、事代主、父の尊に恭順を説き、自からはこの海に青柴垣を結ひ繞らし、波を踏んで去り玉ひしといふ神話に基ける神事なり、この命やがて伊豆の海に現はれ玉ひて七島を6)ケイリャクし、三島の大神と祀られしは、史家の7)へ誌すところなり、

海辺の旅館に入り、浴みし罷んで帯を緩うし襟を披いてこの佳麗なる海山に対す、水に沈めのるの8)亭榭、一燈又た一燈、灯の影繁く新潮の上に走る、酒も佳なり肴も鮮、夜の美保関は9)カスイカイなり、正に是れ、烟は寒水を籠め月は沙を籠む、夜る秦淮に泊して酒家に近し、の情趣ある也。



残念ながら慌ただしく中途半端な感じで山陰五日の旅は終わっています。最後は島根半島の突端の地を中国南京の色街に譬えているのが面白い。麗水は酒がお好きなようで相当入っていますね。


麗水の博識ぶりには瞠目せざるを得ません。伊の紀行文はまだまだこんな感じではないですな。まだまだ続けましょう。今度はどこがいいですか?お薦めのスポットはありますか?



1) 辺=ほとり。近くの処、そば、あたり。「ほとり」はほかに、「畔、上、沂、滸、潯、濆、陲、頭」があります。

2) 劃る=かぎる(くぎる)。刀でくぎりのしるしを刻み込む。

3) 環=たまき。わ。◎型の輪の形をした玉。腕輪や指輪などに用いる。転じて、広くわの形をした物。環暈(カンウン=太陽や月の周囲に輪のように見える物)、環遶(環繞=カンジョウ、まわりをとりかこむ)、環翠(カンスイ=家の周りに青々とした木や竹をめぐらす、その木や竹)、環堵(カント=四方が一堵ずつしかない土塀、転じてせまい家のこと、環堵の室)、環堵蕭然(カントショウゼン=家の垣根がみずぼらしく、貧しいさま)、環珮(カンパイ=腰につける、環の形をした玉、佩、珮、環佩)。

4) ソウソウ=簇々。むらがり、あつまるさま。「簇」は「むらがる」。「ゾク」は慣用読み。「ゾクゾク」もありか。簇火(ソウカ=むらがってもえる火)、簇出(ソウシュツ=たくさん、むらがりあらわれる)、簇生(ソウセイ=草木などが群がって生えること、叢生)。

5) 啣んで=ふくんで。「啣む」は「ふくむ」。「銜」の異体字です。「啣える」は「くわえる」。

6) ケイリャク=経略。天下を治めいとなみ、四方を攻め取って平定すること。国を治めること。「計略」ではないので要注意。

7) 稽へ=かんがへ。「稽ふ」は「かんがふ」。寄せあわせて考えること。

8) 亭榭=テイシャ。あずまや、見晴らし台。ちん。「榭」は「うてな」。屋根の差し出た見晴らし台のこと。台榭(ダイシャ)ともいう。亭子(テイシ)は「あずまや、ちん」。亭次(テイジ=宿駅)。

9) カスイカイ=歌吹海。歌舞または遊興のさかんなところ。遊里。「秦淮」(シンワイ)は中国の明・清の時代に栄華を極めた色街。今の南京。かの成島柳北の憧れの地でもありんす。谷崎潤一郎に「秦淮の夜」があり、芥川龍之介の「南京の基督」の舞台でもあります。

南宋の陸游の詩に「冬夜聴雨戯作」に「遶檐點滴如琴築,支枕幽齋聽始奇。憶在錦城歌吹海,七年夜雨不曾知。」があります。歌舞音曲のやかましき巷。お洒落な響きのある言葉です。以前も確か、柏木如亭の漢詩で出てきた記憶が朧げながらにありますが、今回加えて、陸游と遅塚麗水の二人のお陰でなんとか覚えられそうですね。
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