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中大兄皇子も詠んだ「豊旗雲」ってどんな雲?=山陰道五日の旅「日本道中記」(5)

遅塚麗水の「日本道中記」(近代デジタルライブラリー所収)から「山陰道五日の旅」シリーズの5回目です。神々の宿る出雲大社には、「人なして覚えず襟を正しうせしむ」といった神々しい雰囲気が醸しています。


出雲大社

湖南の幾駅、やがて今市の駅より折れて杵築(きづき)駅なり、道を夾んで旅館多し、大いなる鳥居を潜りて松並木の賽路を渡る、青銅1)擬宝珠の祓橋、水は浅く2)白葦紅蘋の間を流る、これを過ぎて土塀長く左右に連らなるは出雲の名族千家北島両家の宅なり、賽路坦として砥のごとく、当面の八雲山、3)豊旗雲の晴れに4)いて、其の麓に南面して八重の珠垣結ひ繞らせる大社は鎮座するなり、威武には八千矛(やちほこ)の名に呼ばれ、仁慈には大己貴(おほあなむち)と慕はれて、山の幸あり、海の幸あり、5)シライの民は蒸々として、此は是れ万家の都たりし6)かなる世のさまを想へば、山は自ら悠々水は自ら溶々として玉気のいまだ全く7)せざる見るなり。

珠垣のうちに入りて拝殿の前に額づく、楼門のうちに本殿儼として立てり、大黒注連といふなる大注連懸けたる御社(みやしろ)は、上つ世は高さ三十二丈、後十六丈となり、斉明の時に六間四面と制せらる、今も尚ほ其の制なり、崇高8)シンゲン、人なして覚えず襟を正しうせしむ、

此の宵は宍道湖畔の水楼に過せり、月を待つ、月升ること遅し、秋ならねば名物の9スズキは膳に上らざりしが、鰻の美なるあり、鮒の鮮なるあり、浅く酒に酔ひたる折しも、月、10)の花散る11)東廂の上に升る。

★八千矛=大国主命(おおくにぬしのみこと)の異称。
★大已貴=大国主命の別名。大穴牟遅命とも。



麗水はジャーナリストなのですが文学者でもある。神話の世界なので万葉集や日本書紀の言葉もちりばめて文っています。いかにも神話然となっています。この辺りの文体はうまいなぁと思うと同時に、このおっさんは勉強してはるわと感心しないわけにはいきません。同時代の大町桂月も紀行文を数多くものしていますが、彼の文体は淡々としていてあまり色がない。実は麗水と桂月は友達で一緒に旅をしたりしています。同じ旅の紀行文なども書いているのですが比べてみれば一目瞭然。いずれ機会があれば桂月の文章も紹介したいと思います。


いずれにせよ麗水の紀行文はあらゆる土地土地の歴史や地理の勉強の素材になります。学習していていつも時間を忘れ没頭。Blogに反映しきれませんがさまざまな知識に埋もれてしまいます。ただし、時間はかなりかかるので平日はしんどいな~。

問題の正解などは続きにて。。。






1) 擬宝珠=ギボウシュ・ギボシ。宮殿のてすりや、橋の欄干の柱の頭などにつける、ネギの花の形をした飾り。書き問題でもいい。

2) 白葦紅蘋=ハクイコウヒン。しろいアシが茂り色とりどりの水草が生えているさま、水辺の城と紅のコントラストを表した美しい描写ですが、麗水の独自の表現でしょう。「蘋」は「うきくさ」。蘋藻(ヒンソウ=ウキクサとモ)、蘋萍(ヒンペイ=ウキクサ)。

3) 豊旗雲=とよはたぐも。旗のようになびいている美しい雲。この「トヨ」は美称。いろいろ調べてみましたが具体的にどのような雲かはよく分かりません。豊幣帛(とよみてぐら)、豊明(とよあかり)、豊御酒(とよみき)などがある。万葉集「巻1・15」の中大兄(皇子)の歌に「海神(わたつみ)の豊旗雲に入日さし今夜(こよひ)の月夜(つくよ)さやけくありこそ」(渡津海乃 豊旗雲尓 伊理比紗之 今夜乃月夜 清明己曽)があります。

4) 靉いて=たなびいて。「靉く」は「たなびく」。靉靆(アイタイ=雲のたなびくさま)は必須熟語で、「老人のメガネ」の意もある。

5) シライ=子来。子が親を慕うように、招かなくても人民が喜んで集まってくるさま。「経始勿亟、庶民子来(ケイシすることキョクなることなけれどもショミンシライす)とは「詩経・大雅・霊台」にある成句です。

6)邈かなる=はるかなる。邈は「バク」。とおくにぼんやりかすむさま。邈焉(バクエン=ほのかにかすんださま、邈乎=バクコ=・邈然=バクゼン=・邈邈=バクバク)。

7) 銷す=ショウす。とかすこと、けすこと。銷距(ショウキョ=けづめをけずりとる、武器をなくすこと、刀狩り)、銷金(ショウキン=とかした金、むだづかい、放漫財政)、銷骨(ショウコツ=ほねをとかす、しんまでむしばむ、「衆口鑠金、積毀銷骨」(史記・張儀)、讒言の害の激しいことことをいう)、銷鑠(ショウシャク=金属を溶かす)、銷厭(ショウヨウ=滅ぼしけす、病根やたたりをもみけす)、銷落(ショウラク=きえてなくなる、木の葉などが衰え落ちること、銷亡=ショウボウ=・銷失=ショウシツ=)、銷路(ショウロ=売れ行き、販路)。

8) シンゲン=森厳。暗くておごそかなさま、静まり返っていかめしいさま。「森」は「こんもりとして暗い、こもった感じで陰気であるさま」の意。森聳(シンショウ=こんもり茂ってそびえているさま)、森疎(シンソ=静まり返ったさま)、森列(シンレツ=おごそかに並ぶ)。

9) スズキ=鱸。カジカ科の淡水魚、松江鱸。ハゼに似る。川や浅い海に生息し口が大きい。蓴羹鱸膾(ジュンコウロカイ)。

10) 樗=オウチ。センダンの古名。音読みは「チョ」。樗材(チョザイ=役に立たない木)、樗散(チョサン=役に立たない人、樗櫟散木の略)、樗蒲(チョボ=ばくち)、樗櫟(チョレキ=使い道がなくなった役に立たない木、転じて使い道のないやくにたたないもの)。

11) 東廂=トウショウ。母屋(正堂)の両側に在る脇屋のうち東側にある建物。東側の脇屋。ここは「ひさし」ではなく建物を指す。
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Author:char
不惑以上知命未満のリーマンbloggerです。
言葉には過敏でありたい。
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2006.3  漢字学習スタート
2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
2007.10 1級合格①
2009.2 1級合格②

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