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城崎温泉エリアを貪欲に巡り尽くそう=山陰道五日の旅「日本道中記」(1)

かねての予告通り、明治期のジャーナリストであり紀行文の大家、遅塚麗水の「日本道中記」を題材にします。近代デジタラルライブラリーで検索すると閲覧することができます。大正六年六月に書いたという、その「序」によりますと、両三年来の紀行文をとりまとめたもので「吾が烟霞の痼癖」だとして、「旅路の友」として欲しいというのが本願であると言っています。目次を見ますと、全国あらゆる土地土地を巡っていることが分かります。

順に列挙しましょう。

一 京と大和巡り
二 富士の巻
三 奥羽七州旅日記
四 峡雲蘇雨
五 飛騨の山と越の海
六 山陰の海を伝へて
七 神戸より別府へ
八 宇佐八幡と耶馬渓
九 鎮西縦貫記
十 日向洋上
十一 瀬戸内海の風光


北へ南へ。あちこち足を運んでいます。まさに南船北馬といったところでしょうか。

麗水の漢文体の紀行文は雄渾で無駄がない。ただし古今の故事来歴を知っていないと理解できない部分も多く大変勉強になります。手始めにこの中から「六 山陰の海を伝へて」を紹介いたします。旧仮名遣いはそのままに、旧漢字は基本的に新漢字に改めます。当て字っぽい和訓は(   )で示しますが、問題にした方がいいと判断した場合は訓み問題(時には書き問題)に仕立てます。

劈頭には以下の解説文が添えられています。

山陰道の旅は城の崎温泉に始まりて、出雲の大社、美保関に終る、途中、応挙寺、東郷湖、大山、船上山、御来屋、米子、夜見が浜、安来、松江、宍道湖等の名所古蹟多し、五日の旅なれば遍く観ることを得べし。


別題は「山陰道五日の旅」。山陰には行かれたことがありますか?地味ではありますが意外な穴場が目白押し。古来、神話エリアでもあります。昨今はゲゲゲエリアでもあります。今年は豪雪のようですが、冬に訪れるのもいいですよ。

本日はその一回目です。兵庫県の北部、日本海に面した城崎温泉が出発点です。城崎温泉と言えば、志賀直哉の「暗夜行路」。「城崎にて」という短編もありますが、志賀は「生涯に十数度訪れている」と城崎温泉HP(ここ)に出ています。


一 城崎温泉

本谷川は温泉(ゆ)の末を集めて円山の江に注ぐ、或夜ひそかに旅人の新妻(にいづ)が1)燕膩を流すらめ、神代の昔荒神の剣を揮つて、山を2)き島を造ると言ひ伝へたる津居山の港の追門(せと)より、日本海の潮は江を伝ふて此処までは通ふなり、木欄干の小橋を渡れば、湯の宿は千本格子の窓を並べて、二階三階3)き路を4)んで立てり、名物の5)麦稈(    )細工、出石焼を賈る店に交はりて、浅葱暖簾を垂れ籠めたる6)キテイもあり、町に在る六つの湯殿、大小の差異(けじめ)はあれど、何れも檜の香の薫る7)ハフ作りにて、鉄道の開けし以来(このかた)、太(いた)く其の8)キュウカンを更ためたり、絵日傘を9)カザしつゝ、湯具を抱へて浴場に通ふ客の送迎へする湯島女も亦婈(かほよ)し見られたり、春の水のさゝ濁りするに似たる温泉のうちに身を浸せば、日に焦けし我が肌への象牙とばかり白く透けたり。


「町に在る六つの湯殿」は健在のようですが、現在、外湯は「七つ」とあります。その後増えたのでしょうか。


★「ささ濁り」は「水がすこしだけ濁ること」。漢字で書けば「小濁り、細濁り、薄濁り」などとなる。
★「」は「かおよし」の訓が振られていますが「器量よし、美人、佳人」の意。


 城の崎の湯の起源(おこり)は遠き昔に在り、脚を傷つけたる鴻の来り浴するを見て、始めて甘露峯の麓に温泉湧くを知りたるは、今の鴻の湯其の蹟なりといふ、天平年中、僧道智が曼陀羅を修して一湧泉を穿ち得たるは今の曼陀羅湯、亀山の帝の中宮安嘉門院の来り浴したまひしは、今の御所の湯、10)ゲッケイ雲客時に11)ヨバを12)げ、文墨13)ホウガイの徒も亦た14)(   )を解き杖を留む、しほらしな山わけ衣春雨に雫も花に匂ふ袂はとは、吉田の兼好が此の湯に浴みせし帰るさの雨に逢ひてての口すさみ、わけて聴く麓の泉峯の蝉とは、頓阿が夏の幾夜を温泉の宿に過せし時の吟なり。


「鴻の湯」(こうのゆ)は今も有名な外湯です。この「鴻」は「コウノトリ」のようです。「曼陀羅湯」は今の「まんだら湯」。「御所の湯」は現在もあり。歴史書「増鏡」に記述があるそうです。いずれも入り口が「破風作り」。麗水が記した兼好法師の歌、「しほらしな山わけ衣春雨に雫も花に匂ふ袂は」は、正確には「しほらしよ 山かけ衣春雨に 雫も花も 匂ふたもとは」というようです。頓阿は兼好法師と同時期(鎌倉時代後期~南北朝期)の僧侶で、兼好と共に和歌四天王の一人。「わけて聴く麓の泉峯の蝉」は不詳。



 温泉寺の春日仏師の作と称する国宝十一面観音に15)サンケイし、更に車にて玄武洞駅に至り、円山の江を渡りて、玄武洞を観たる翌(あす)の日は、竹野の浜に潮浴せり、柴栗山の『左右に隠岐佐渡及び三越(ゑち)を16)チュウエキに17)ゲイし、満洲女直を雲天の外に望む、酒を把つて浩然18)コウセイの懐ありといふ文を彫りたる石は、海浜の丘に立てり、北陸佐渡を袂の陰に看るなどは文人の誇張なれど、快晴の日には隠岐の島を水天の間に望み見るべしといふ。


★「柴栗山」は江戸時代後期の儒学者である柴野栗山。日本漢詩の項を参照(ここ)。「玄武洞」は円山川東岸にある洞窟。栗山が文化四年(1807)に訪れ、連なる亀甲模様が四神の一つ・玄武が亀と蛇をまとっており、その姿かたちに似ていることから命名したとあります。城崎から新潟・佐渡島は流石に見えるべくもないですが、隠岐の島なら晴れた日に空と海のかなたに臨むことができるそうです。

それにしても一日がかりではありますが、城崎温泉エリアのほとんどすべての見るべきポイントを網羅して見尽くしている貪欲な旅です。タクシーもない時代ですから不便この上ないのですが、それだけに見るのも必至で目に、いや心に焼き付けている感じがします。事前の下準備も周到で、これは絶対見ようという気概がありあり。それは文章にも現れていると思います。山陰道五日の旅の初日が終わり、二日目も終わろうとしています。城崎エリアではゆっくりしましたな、麗水さん。。。
1) 燕膩=エンジ。べに、べにいろ。燕脂の方が一般的か。臙脂、燕支(エンシ)とも。「膩」は「あぶら」。
2) 劈き=さき。「劈く」は「さく」。刃物で二つに切り開く。「つんざく」とも訓む。劈裂(ヘキレツ=ぱくっとさけめがあいて、横にさけること、擘裂=ハクレツ=)、劈砕(ヘキサイ=こなごなに割り砕く)、劈開(ヘキカイ=さけるように開く、割る)。
3) 窄き=せまき。「窄し」は「せまし」。窮屈なさま、窮屈な状態。窄狭(サクキョウ=ぎゅっとしまってせまい、狭窄=キョウサク=)、窄衫(サクサン=つつそで、その衣服、窄袖=サクシュウ=)。「すぼまる」「すぼめる」「つぼまる」「つぼむ」「つぼめる」「せばまる」「せばめる」とも訓む。
4) 夾んで=はさんで。「夾む」は「はさむ」。わきばさむ、両脇からはさむ。音読みは「キョウ」。夾撃(キョウゲキ=はさみうち、夾攻=キョウコウ=)、夾雑(キョウザツ=いろいろな物が雑じる、まぜる)、夾帯(キョウタイ=わきにはさんで持つ、科挙で不正のため辞書などを持ちこむ不正行為、カンニング)、夾輔(キョウホ=君主ののばにいて補佐する)。
5) 麦稈=むぎわら。音読みなら「バッカン」。「稈」は「わら」。乾燥したむぎわら。稈心(カンシン=わらの皮を取り去った茎、わらしべ、みご)。
6) キテイ=旗亭。酒屋、料理屋。看板としてはたをたてているから。
7) ハフ=破風。日本建築で屋の切妻に付いている合掌形の装飾板。「破風作り」は「切妻作り」で「書物を半ば開いて伏せた形の屋根」。
8) キュウカン=旧観。もとのすがた、昔のありさま。
9) カザし=翳し。「翳す」は「かざす」。手または手に持った物を上げて、あるものにさしかける。頭上にかかげる、おおうようにする。

10) ゲッケイ=月卿。高位高官、公卿。「月卿雲客」で「公卿と殿上人、高貴な身分の人」。卿相雲客とも。
11) ヨバ=輿馬。こしと、それをひく馬。「輿」は「こし」。人が担いで載せる台のこと。
12) 枉げ=まげ。「枉げる」は「まげる」。メンツを無理におしまげて~してくださった、との意をあらわす丁寧なことば。枉駕(オウガ=乗り物の予定のコースをまげて、わざわざ立ち寄る、人の来訪を敬っていうことば、枉車=オウシャ=)、枉屈(オウクツ=高貴な身分の人がみをまげる、へりくだって来訪すること)、枉顧(オウコ=人の来訪を敬っていうことば)。
13) ホウガイ=方外。俗世間から離れた世界、世捨て人、隠遁者。
14) 鞋=わらじ。くつ、履き物。わらじは「草鞋」。鞋韈(アイベツ=くつと、くつした)。「韈」は「くつした、しとうず」。
15) サンケイ=参詣。神社・仏閣にお参りする。「詣る」は「いたる」。
16) チュウエキ=肘腋。ひじとわき。非常に距離が近い所。一牛鳴地。
17) ゲイシ=睨し。「睨」は「細目でにらむこと」。「ねめる」とも訓む。睥睨(ヘイゲイ=城壁のくぼみから敵情をのぞき見ること)。
18) コウセイ=曠世。世にまたとない。曠世之才(コウセイノサイ=世に珍しい才能・人材)。



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Author:char
不惑以上知命未満のリーマンbloggerです。
言葉には過敏でありたい。
漢検受検履歴
2006.3  漢字学習スタート
2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
2007.10 1級合格①
2009.2 1級合格②

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