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変わる街と変わらない街の違いを見つけに出掛けませんか?=「礫川徜徉記」(10)・完

永井荷風の「礫川徜徉記」(岩波文庫、「荷風随筆集(上)」・野口富士男編)シリーズの10回目、最終回です。当時四十五歳だった荷風が原点を見詰め、それまでの人生を振り返るため、少年時代を過ごした小石川の散策がいよいよ終焉を迎えます。迂生の“タイムスリップ”も最終旅程に入りました。

 やがて寺のしもべ来りて兆域に案内す。兆域は本堂のうしろなる1)キュウフにあり。2)セキトウを登らむとする時その3)フモトなる井のほとりに老婆の石像あるを見、これは何かと4)に問へば5)咳嗽のばばさまとて、せきを病むもの願を掛け病癒れば甘酒を供ふるなりといへり。この日も硝子罎の甘酒四、五十本ほども並べられしを見たり。霊験のほど思ひ知るべし。

 日輪寺を出で小日向水道町を路の行くがままに関口に出で、目白坂の峻坂を6)ぢて新長谷寺の樹下に憩ふ。朱塗の不動堂は幸にして震災を免れしかど、境内の碑碣は悉くいづこにか運び去られて、懸崖の上には三層の西洋づくり東豊山の眺望を遮断したり。来路を下り7)口の8)に抵り見れば、これもいつかセメントにて築き改められしが上に鉄の釣橋をかけ渡したり。駒留橋のあたりは電車製造場となり上水の流は化して9)コウトクとなれり。鶴巻町の新開町を過れば、夕陽ペンキ塗の看板に反映し洋食の臭気10)フンプンたり。神楽坂を下り麹町を過ぎ家に帰れば日全く昏し。燈を11)げて食後戯にこの記をつくる。時に大正十三年甲子四月二十日也。



以上、荷風が四十年前の想い出を辿りながら小石川を中心としたエリアを散策した迹を付いてきました。前の年の関東大震災が東京の街に大きな変化を与えたことが明確に分かりますね。明治期から大正へと時代が移り、街の姿が変遷していることも感傷を与えます。それでも変わらないものにどうしても目が行く荷風でした。いや、俺は変わりたくはないのだ。。。。

迂生が十八の時に某田舎から上京してから既に三十年近くが経過しています。小石川に住んだのはたった一年間だけです。爾来、水道橋や飯田橋、神楽坂、本郷辺りは何度か足を踏み入れましたが、小石川には一度も赴いていません。今回、荷風の記に登場した地名で迂生が覚えているものは、今の共同印刷や小石川植物園、伝通院くらいです。あとはほとんど知りません。坂にもいちいち名前があったことも初めて知りました。現在の地図を脇に置いて見て荷風の歩いたであろう道を辿ってみたのですが、寧ろ、荷風の目で見た街を今の迂生の目でもう一度見てみたいという気がむくむくと湧いて起こりました。小石川と言えば山手線内ですし、東京都心のど真ん中やや北寄りと言っていいところ。文人墨客たちが数多く住んだ街でもあります。一抹の懐かしさは感じながらも昔の東京を感じてみることができそうです。春めいた頃にでも散歩に出よおっと。。。

以上、荷風紀行文シリーズでした。


問題の正解は続きにて。。。


1) キュウフ=丘阜。小山。「阜」は「盛り土」。丘冢(キュウチョウ=丘のように小高く築いた墓、丘墓=キュウボ=)、丘隴(キュウロウ=丘、墓、墳墓、丘壟とも)、丘墟(キュウキョ=丘、丘陵、土地・建物などが荒れ果てたあと、廃墟=ハイキョ=)、丘壑(キュウガク=丘と谷、隠棲に適した俗世間を離れた所)、丘首(キュウシュ=本を忘れないこと、キツネはふだんから丘に住み、死ぬ時も丘に首を向けて死ぬことから、故郷を憶うこと)。

2) セキトウ=石磴。石段、石畳の坂道。「磴」は「いしだん」「いしざか」。磴道(トウドウ=石を敷いた坂道、石段の道)、磴桟(トウサン=険しい山腹につけた石造りのかけ橋)。

3) フモト=麓。山のふもと、長く連なる山裾。国字では「梺」。

4) 僕=しもべ。召使いや雑用をする人。僕従(ボクジュウ=召使い、僕使=ボクシ=・僕隷=ボクレイ=)、僕妾(ボクショウ=下男と下女、僕婢=ボクヒ=)、僕僮(ボクドウ=少年の召使い)。

5) 咳嗽=せき。音読みならば「ガイソウ」。「咳」は「せき、しわぶき」。「嗽」も「せき」。

6) ヨじ=攀じ。「攀じる」は「よじる」。腹をつけてからだをそらせるようにして、木や岩場を登る。音読みは「ハン」。攀登(ハントウ=よじのぼる、登攀=トウハン=)。

7) 堰=せき。水流をせきとめたり調節したりするために土を盛ってつくったしきり。音読みは「エン」。堰堤(エンテイ=川などの水流・土砂をくいとめるための堤防)。

8) 瀑=たき。高い所から流れ落ちる川の水。音読みは「バク」。瀑泉(バクセン=たき、瀑布=バクフ=・瀑流=バクリュウ=)。

9) コウトク=溝瀆。みぞ、どぶ。人家のない寂しい所の喩え。「溝」も「瀆」も「みぞ」。「瀆」は「けがす」とも訓み、瀆慢(トクマン=親しみ過ぎてあなどること)、瀆冒(トクボウ=けがす、冒瀆=ボウトク=)、瀆告(トッコク=くどくど繰り返して言う、身分の高い人に話すことをへりくだっていう言い方、くどくど話してお耳をけがして申し上げるの意)、瀆職(トクショク=汚職)。

10) フンプン=芬々(芬芬)。ぷんぷんとかおりがたちのぼるさま、匂いが強いさま。「芬」は「かおり」。基本的には「かぐわしい」「かんばしい」良い香りに用いますが、今回の「洋食の臭気」のように嫌な匂い・雰囲気で使う場合もあります。俗臭芬芬(ゾクシュウフンプン=非常に俗っぽくて気品に欠けること)もその類ですね。

11) 挑げ=かかげ。「挑げる」は「かかげる」。灯下のしんをひっかけて上に出す。「灯を挑ぐ」と用いる。挑灯(チョウトウ・トウをかかぐ・ともしびをかかぐ=灯心をかきたてて明るくする、ともしびをかかげる、「ちょうちん」とも訓む)。
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Author:char
不惑以上知命未満のリーマンbloggerです。
言葉には過敏でありたい。
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2006.3  漢字学習スタート
2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
2007.10 1級合格①
2009.2 1級合格②

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