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互いの情婦を取り合う妙味は「新五左衛門」にゃあ分かるめぇよ=「礫川徜徉記」(4)

永井荷風の「礫川徜徉記」(岩波文庫、「荷風随筆集(上)」・野口富士男編)シリーズの4回目です。大田蜀山人・南岳の墓石の無事を確認して本念寺を後にします。今度は小石川白山権現の先にある蓮久寺に辿り着きます。、そこには荷風の莫逆之友、唖々子こと井上精一氏の墳墓があります。

本念寺を出で白山権現の境内をよこぎりわづかに人力車を通ずべき垣根道を北へと歩み行けば、坂の下に蓮久寺とよべる法華寺あり。これ去年癸亥七月十二日わが1)コウユウ唖々子井上精一君が埋骨のところなり。門に入るに2)リリたる古松の下に寺の男の落葉掃きゐたれば、井上氏の3)エイイキを問ふ。導かれて行くにいまだ一周忌にも到らざれば、4)チョウド新にしていまだ5)ヒケツを建てず。傍なる6)某氏の墓前に香華を手向けて蓮久寺を出づ。われは今日に至りても唖々子既に7)コウドに帰せりとの思をなすこと能はず。この日子のわれと共にあらざるは前夜の酒を病みなぞして約に背きて来らざるが如き心地のせらるるのみ。世に竹馬の交をよろこべるものは多かるべしといへども、子とわれとの如く終生よく無頼の行動を共にしたるものは稀なるべし。学生の頃悪少年を以て目せられしものは、8)セイハイの中子とわれとの二人なり。十六、七の頃には倶に漢詩を唱和し二十の頃より同じく筆を小説に染めまた倶に俳諧に遊べり。わが狎妓の窃に子と情を通じたるものあり。子の情婦にしてわれのこれを奪ひしものまたなしとせず。けだし9)シャハンの情事は烟花場裏一夕の遊戯にして新五左衛門等の到底解し得べきところに非ざるなり。われ田舎の人より短冊を乞はるることあるや常に唖々子が句を書して責を10)フサげり。われ俳才なく自作の句を記憶せず。これを憶ふ時子の名吟まづわが念頭に浮びいづるを以てなり。



悪友朋友というものは誰しも持っているもので、荷風にとって唖々子井上精一氏はまさにそんな関係。お互いの彼女も奪い合った間柄だと告白しています。「新五左衛門」とは「新五左」と略し、江戸吉原などで無粋な田舎武士を罵っていう言い方。浅葱裏(あさぎうら)ともいう。その辺の花街、遊里の世界の機微については野暮な田舎侍、いやさ野暮な連中には到底理解できないさね、とでも言うのでしょう。とりわけ俳諧を詠じる能力では一目も二目も置いていたようで、色紙などへの揮毫を求められた折は、自分の句ではなく唖々子氏の遺した句を書きつけたそうです。


問題の正解は続きにて。。。





1) コウユウ=狎友。親友。「狎」は「なれる」とも訓み、人と近づきになって遠慮をしないようになる。狎近(コウキン=なれて近づく)、狎愛(コウアイ=なれなれしく愛する、身近に置いて可愛がる)、狎昵(コウジツ=なれ親しむ)、狎弄(コウロウ=なれてあなどる、狎侮=コウブ=)。狎妓(コウギ=なじみの妓女)。

2) リリ=離々。つぎつぎときれいに並び連なるさま。

3) エイイキ=塋域。墓場、墓地。塋地・塋田・塋土ともいう。荷風は以前、兆域という言い方も用いていました。

4) チョウド=冢土。土地の守護神。冢社(チョウシャ)ともいう。「冢」は「つか」。盛り土をして墓とする。冢塋(チョウエイ=盛り土をした墓、墳墓)、冢君(チョウクン=君主、大君)、冢卿(チョウケイ=重臣)、冢蔵(チョウゾウ=墓の穴、冢壙=チョウコウ=)、冢宰(チョウサイ=六卿の一つ、天子を弼け百官をひきいた)、冢祀(チョウシ=先祖の祭り)、冢樹(チョウジュ=墓場に植えてある木)、冢上(チョウジョウ=墓の上、墓のそば)、冢嫡(チョウテキ=世継ぎの太子、冢嗣・冢子=以上、チョウシ=)、冢婦(チョウフ=後継ぎの長男の妻)、冢墓(チョウボ=墓)。

5) ヒケツ=碑碣。石碑、いしぶみ。「碑」は「平らで四角のいしぶみ」、「碣」は「突き立ったいしぶみ」。事績を後世に伝えるため、文字を刻んで建てた石。

6) ヒ=妣。はは。死んだ父を「考」というのに対して、死んだ母をいう。先妣(センピ)と用いるケースが多い。考妣(コウヒ=死んだ両親)。

7) コウド=黄土。めいど、あの世。黄泉、黄泉路、九泉とも。

8) セイハイ=儕輩。仲間、ともがら。「サイハイ」とも読む。儕等(セイトウ・サイトウ)・儕類(セイルイ・サイルイ)ともいう。「儕」は「ともがら」とも訓み、同列に並んだ仲間の意。「セイ」は慣用読み、「サイ」は漢音。吾儕(わがセイ)は「わたしたち(仲間)」の意、汝儕(なんじがセイ)は「君たち(仲間)」の意。

9) シャハン=這般。このような、このように。「這」を「これ・この」の意味で用いるのは、中国・宋代以降に生れた俗語です。

10) フサげり=塞げり。「責めを塞ぐ」と用いて「一応責任を果たす」。熟語として「塞責」(ソクセキ)ともいう。(相手などが)うるさく注文を求める口をふさぐということでしょう。「ふさぐ」には「堙ぐ、壅ぐ、塡ぐ」などありますが、成句なので「塞」を覚えましょう。
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Author:char
不惑以上知命未満のリーマンbloggerです。
言葉には過敏でありたい。
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2006.3  漢字学習スタート
2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
2007.10 1級合格①
2009.2 1級合格②

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