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どっちの「直人」が強いのか?頼りになるのか?=「学制に関する意見箚子」(8)・完

幕末の越前藩士、橋本左内の「学制に関する意見箚子」(講談社学術文庫「啓発録」、伴五十嗣郎全訳注)シリーズの8回目、最終回です。一つにまとまらないのはどの世界にもあるが、こと学校、教育に関して言えば、もしまとまりがなく乱れていると判断されたならば、果断に浄化しないわけにはいかない。人材育成の源泉は基から清めなければいつまでも濁った水が湧き出るばかりである。左内の危機感はピークに達しています。


■…要するところ、政教一致と申す御趣意に御座候はば、教官の1)たる者、政体の宏図を識らずしては相叶はず、文武不岐と申す仰せ出され御座候上は、文武の大体に達し候者、総督いたさずしては、行はれざること当然に御座候。これらの辺は、固より御熟議も御座候て、御心配御座候趣も恐察奉りをり候へども、究竟、なんらの時節に旧弊残らず御2)ソウデキに相成り申すべく、御剛断急度相定りをり候義に御座候か。もし、その御剛断なくして、3)コウショに日を送り月を累ねられ候はば、後には4)ヘイコの憂ひ、安排の御処置のみ相嵩み、今日の所為ことごとく他日の弊端と相成るべしと恐れ入り奉り候。

(要旨)要するに、教官の長、文武それぞれに熟達した者が統率監督しなくてはなりません。既に御熟議なされているところですが、いついつまでに払い清めると明確な決定がないと進歩もないしだらだらと時間が徒に過ぎ、後々とんでもない事態が招かれないとも限りません。

■…これらの患ひ、ただ学校のみならず、諸向にもこれ有り候やう察し上げ奉り候へども、学校は清議の地、教化の源に御座候へば、外向とはこと変りをり候訳も御座あるべくと存じ奉り候。外向は已むを得ざる御寛容御座候もいたし方御座なく候へども、5)カクヘイの表的、造材の基礎なる場所において、かくのごとき模稜の御仕向け御座候ては、人心改観の道6)ヘイソクいたし候義と愚考奉り候につき、旧弊一掃の御勇断御施し御座候やう願ひ奉りたく存じ奉り候。

(要旨)こうした欠陥は学校ばかりではなく、藩内のどの役所にも内在しているのです。人材育成の場でありますことから曖昧な処置であってはなりません。弊害を一掃するために御勇断を施されますことを切に願います。

■…もつとも、右御処置の上には、種々御手段も御座あるべく、小臣もいささか心づき候廉も御座候へども、第一宏遠闊大の御規模ありながら、まま俗情を斟酌して、利弊等分打混じの御処置、向々に往々御座候て、これがために士気振ひ立たざることも、随分これあるやう存じ奉り候ゆゑ、まづ政府においての御見当は、学校においても、やはり俗情相交へ候御処置、当節の釣合ひに相叶ひ、7)イットウの落着き宜しかるべしと思召され候やいかが伺ひ奉り候。御見当の東西により、御処置の義伺ひ奉りたき存念に御座候につき、今般はわざと弊患の大略数へ立て申し候義に御座候。

(要旨)もっとも、利益と弊害が混在した処置が見受けられ、身命を擲って努力しようとする気概が奮い立たないことがあるように思います。ただいまの藩校の処置に於いてもそのような在り方がいいとお考えかどうかという点をお聞きしたい。これを確かめて上で私の処置の考え方を申し上げるつもりでおり、ここでは弊害や欠陥の概略を書き連ねるだけにとどめております。

■…かつまた、この辺の事、わざわざ書取りをもつて申し上げ候までにも及び申さず、直に言上つかまつり候てしかるべしとも存じ奉り候へども、当今のごとく8)カクゼン御打明け御塾評御座候上は、小臣など庸劣愚直の者、ただ隆恩9)カンカの情にめくらみ、声情10)ジンネツの際になじみ、11)リンレツの気12)ザクツつかまつり、13)ケンガクの風衰袪(スイキョ=おとろえさること、「袪」は「去」に当てた用法)いたし候義相覚え候ことも御座候。箇様なりゆき候ては、衆に14)へ人に従ふの御美事よりして、かへつて面従15)バクギャグの邪径を誘出し、上下とも公平の心にて忠論讜言(トウゲン=道理に合った正しい意見)を尽し候やう存ぜられず、篤と省察つかまつり候へば、聖賢相与に警戒する旨に乖き、国家御善政の御徳輝を毀損つかまつり候はんかと、深く恐怖つかまつり候義に御座候ゆゑ、唐突不敬の譲を顧みず、尊厳の御威光をも懼れず、みだりに冗語16)ゼイセツ拝陳つかまつり候。臣紀、頓首々々誠恐謹言


安政四丁巳閏五月十五日

(要旨)このようなことはわざわざ書面に記すまでもないこと。直接言上すればいいことです。私ごときを御登用いただいており、感激のあまり声も上ずり覚悟が衰えてしまうことになりかねません。かえって人前で諂い、よこしまな態度を誘発することにもなっては公平な心で忠誠の正論を尽くすことも難しくなるでしょう。それでは聖人・賢人がたがいに戒めあうというお上の趣旨にも背くこととなり、無益な論を申し述べた次第でございます。臣綱紀、頓首して恐れ多いことでございます。





具体的な固有名詞は登場していませんが、左内の頭には藩校の教官について、あいつを代えてこいつにせよというアイデアがはっきりとあるでしょう。教育をするのもされるのも人であるということですから、ダメだと思ったらあっさり首を挿げ易えるべきです。御殿様に対する意見具申ですから最大限謙ってはいますが、最後の言辞はかなり峻烈な言いぶりです。怒り心頭に発している。藩を動かす最大の武器が教育であり、一歩間違えれば最大の弱点でもあることを知っているからでしょう。人が命の藩。その人材を生かすも殺すも教育なのです。左内の身分は下級武士でしたがあらん限りに才能を発揮して重用されました。聊か方に力が入り過ぎのきらいもあります。出る杭は打たれるの言の通り、井伊直弼に睨まれてこの世を去らざるを得なくなります。二十代半ばですからね。この人の脳味噌には詰まるだけ詰まっていた。嗚呼、勿体ないことです。越前藩では左内に続く人材は現れなかったですが、幕末の推進力として憂国に志士たちにその思想理念は確実に伝播しました。

「伊達直人」運動の環がさらに広がっています。仮面ライダーや鉄人28号、星飛雄馬も登場しているようです。善意の寄付などは今さら感が強く、一過性のブームに終わる公算が大です。悪い話じゃないけど、ことさら騒ぐ話でもない。飽きっぽい国民、いやマスメディアですから、そのうち終熄はしますが、折角のブームの炎が燃えているうちにこれはまじで真の教育の在り方を国民全員が持つ機会としたいもの。福祉的な発想ではありますが、その根本は世代と世代が繋ぐ「ユニティ」です。世代間が分捕り合戦を展開する啀み合いではなく、上の世代から下の世代へ「いい国家を作ってくれ」というメッセージの伝達。その証左であるヒトモノカネの移転。そして、最も重要なのが、そのメッセージを受ける側の気概であり、そこに教育が生まれる。施しやオネダリではないやりとり。国民全員が伊達直人になればこんなに逞しいものはないでしょう。もうひとりの直人、菅首相は「共助の精神を大切にしたい」と記者団とのやり取りで語ったそうです。しかし、国民が一丸となってそうした精神を養うことができるようにするには「直人」の力が必要なのですが、どっちの直人の力の方が役に立つのでしょうかね?見物ですな。


問題の正解は続きにて。。。





1) 魁=かしら。首領。一団の仲間を率いていく者。首魁、魁首、魁帥(カイスイ)とも。

2) ソウデキ=掃滌。掃き清めたようにすっかりと取り除くこと。「滌」は「テキ」で「あらう」。滌漑(テキガイ=あらいすすぐ)、滌洗(テキセン=すすぎあらう、滌濯=テキタク=)、滌滌(テキテキ=ひでりのために草木・川水がなくなり、洗い去ったようになること)、滌蕩(滌盪、テキトウ=よごれをあらい去る、よごれをあらい落とす、滅んでなくなる)、滌煩(テキハン=茶の別名、世間のわずらわしさをあらい流してくれる物の意)。

3) コウショ=苟且。一時凌ぎ、かりそめ。苟且偸安(コウショトウアン=いいかげんにその場逃れをして、一時的な安楽をむさぼること)。苟免(コウメン=一時凌ぎに誤魔化して罪・困難をまぬかれる)、苟容(コウヨウ=無責任に迎合して人の気に入るようにふるまう)、苟完(コウカン=どうにか当面だけをつくろう)、苟簡(コウカン=一時の間に合わせで簡単なこと、かりそめ、物事を一時しのぎに簡略に済ませる)、苟言(コウゲン=無責任でいいかげんなことば)、苟合(コウゴウ=無責任に他人にへつらい迎合する)、苟生(コウセイ=いいかげんな態度で生きながらえる、苟活=コウカツ=)、苟得(コウトク=本来得てはならないものを誤魔化して自分のものとする)。

4) ヘイコ=蔽錮。おおいふさぐ。「錮」は「ふさぐ」。「ふさぐ」はほかに、「塞ぐ、堙ぐ、填ぐ、壅ぐ、怫ぐ、抑ぐ、杜ぐ、柴ぐ、栫ぐ、欝ぐ、湮ぐ、閼ぐ、雍ぐ」があります。

5) カクヘイ=革弊。悪い点をとり除き、あらためる。革敝(カクヘイ)とも。「ヘイをあらたむ」とも訓む。

6) ヘイソク=閉塞。閉じふさぐ、閉じて通じないようにすること。「閉息」は息を殺すこと。

7) イットウ=一統。一つにまとめて統一すること、仲間全体。

8) カクゼン=廓然。心が広くて性格がさっぱりとしたさま。廓如(カクジョ)とも。廓然大公(カクゼンタイコウ=さっぱりとして物事にこだわらず公平なこと)。

9) カンカ=感荷。受けた恩恵を深く心に感じ、ありがたく思うこと。

10) ンネツ=稔熟。穀物がじゅうぶんにみのること、物事の程度がしだいに勢いを得てくること。「稔」は「つむ」。長年にわたりつみ重なったものがたまっていっぱいになる、回数を経て熟すこと。

11) リンレツ=凜烈。寒さの極度に厳しいさま。凜冽とも。「凜」は「りりしいさま、きっぱりとしているさま、引き締まってすきのない態度をいう」。凛乎。

12) ザクツ=挫屈。くじけて屈する。挫衄(ザジク=勢いを失って敗れる)、挫北(ザホク=勢いを失ってにげる、挫敗=ザハイ=)。

13) ケンガク=蹇諤。強引に申し立てて恐れない。また、正直なさま。蹇愕(ケンガク)とも。この「蹇」は「侃」(カン=剛直なさま)に当てた用法。通常は「あしなえ」「とどこおる」の意。

14) 稽へ=かんがへ。「稽える」は「かんがえる」。よせあわせてかんがえる。無稽(ムケイ=根拠がない)、稽式(ケイシキ=かんがえあわせて模範とする)。

15) バクギャグ=莫逆。一見逆らわないさま。莫逆之友(バクギャクのとも=互いに逆らいあうことのない、非常に親しい友)。

16) ゼイセツ=贅説。言わなくてもよい余計なことば。無駄口。贅言(ゼイゲン)・贅辞(ゼイジ)・贅語(ゼイゴ)・贅句(ゼイク)ともいう。
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Author:char
不惑以上知命未満のリーマンbloggerです。
言葉には過敏でありたい。
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2006.3  漢字学習スタート
2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
2007.10 1級合格①
2009.2 1級合格②

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