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新しい日本型の教育システムを構築せよ=「学制に関する意見箚子」(6)

幕末の越前藩士、橋本左内の「学制に関する意見箚子」(講談社学術文庫「啓発録」、伴五十嗣郎全訳注)シリーズの6回目です。前回で一人一人の長所を伸ばし、全員が向上に向けて奮励させるという教育の要諦を左内が説きました。それぞれの持ち味、キャラクターをいかに生かすかが重要で、そのためには教育を施す側の資質の向上が最大のカギとなるのです。いい先生、いい教官を作り上げる。それが教育なのです。


■…いづれ大業を成し候には、一藝一材も捨て置き申す理はこれなき筈に御座候。もし微能なりとて捨て置き候はば、中人以下の者過半自ら望みを絶ち、恃みを失ひ、1)ジキに安んじ、人材の生ずる道、2)ヨウアツつかまつり候こと些かならざるべく存じ奉り候。微能・小長はさて置き、選挙の大体を立て置き候こと、もつとも大切の義と存じ奉り候。この大体一定し候はば、教育の道も趨向区々とならずして、教ふる者学ぶ者、ともにその目的一に帰し申すべく候。この大体定まらずして、いたづらに教導に労し候は、足を知らずして履を作ると同前に御座候へば、選挙の大体をあらかじめ心得をり申すべき事、これまた教官の当務なる義と存じ奉り候。

(要旨)いずれ大事業を完成させるためには、わずかな技能しかない者でも役に立てるようにしなければなりません。そうした者どもを放っておけば、並み以下の者の過半は将来に絶望し、よりどころを失い、捨て鉢になって、その後は人材の生ずる道も長くふさがり止まってしまうものと思われます。人材を推薦し実地に活躍させるための方策は、早急に大筋を確立させておけねばなりません。

■…すべて人材は経世の3)ヤクセキに御座候へば、時態により選挙いたしぶり少々づゝ相変り、あるひは正直剛果を重んじ、あるひは機敏4)ショウキュウを主とし、あるひは道徳を先にし、あるひは気概を択み候やうの小差は、これ有るべく候へども、5)クッキョウ忠義の士・有用の材を採り候より外はこれなくして、その能は文武兼備は勿論、あるひは一方に長け候者にても、随分有用の材と申す者これ有るべく候。


(要旨)およそ人材は治世の上で役に立ち効果のあるものですから、情勢によって推挙の基準も変化するものです。あるときは剛胆さが求められ、あるときは機敏さが必要となる。また、道徳心が重視されることもあれば、血気盛んな気概がなくてはならない場合もあり、小さな差がその時々で生じます。しかし、最終的には不動の忠義心、実地に役立つ才能、これ等のある人物を選ぶことに尽きるのです。文武兼備であることは言うまでもないですが、場合によってはどちらか一方しかない者も役立つ人材となることも多いです。

■…西土は従来文を貴び候国にて、文官を高くして政権を執らせ候ゆゑ、文士中より非常の人材も出、経済有用の大業をなし候につき、世の儒生輩、とかく学者さへ相用ゐ候へば、国は治まり候やう心得をり申し候へども、これは拘泥の甚だしき義に御座候。本朝は元来武を重んぜられ、御政体も6)ブダンを尚ばれ候御風儀に御座候て、習俗も7)カンケイを喜び8)ハンジョクを好み申さず、いづれの代にも、武林より往々9)チュウリョウ明快・廉潔剛正、百里の命を寄せ10)リクセキの孤をも託すべき人物輩出つかまつり候こと自然の勢ひにて、西土と同じからざる訳も数々御座候へども、当時のごとく世風おひおひ打ち開け、人心11)レイメイに相成り候上は、政権は自ら学術ありて、道理に純熟いたし候者に帰すべきは、これまた自然の勢ひに御座候。


(要旨)中国では、古来文事を貴び、文官の権威を高くして政治を執り行ってきましたから、儒学を少しでも学んだ者を登用しさえすれば国が無事におさまると考えられてきました。しかし、昔の風潮にあまりにもこだわり過ぎております。わが国は元来、武を重んじる国柄であり、政治体制上も武事を尚び、剛毅で大まかであれば喜び、細々としてわずらわしいことを嫌う風潮が強いのです。武人が政治を担っており、安心して任せられる人物が十四五の幼君であっても登場したのも無理のないことでございます。中国とは同じに考えてはいけません。次第に世の中が開け人々の心も夜明けに向かういま、政権は自然と学識高く、道理に熟達した人のところに帰すことは当たり前と言えるでしょう。

■…さりながら、上古より近世まで武をもつて天下を定められ候御国体にて、怯懦を悪み、不義を恥じ、君を敬ひ、祖を重んじ候習ひ、約して申し候はば、敬神尚武の風、今日に至り候ても微々ながら存しをり候形勢相見えをり候て、これこそ宇内に卓越すべきところに御座候間、この後も武道を骨とし、文事を12)ジュンショクに取り候者を貴重して、空文浮靡に流れ候者は抑留申してしかるべき義と存じ奉り候。さなくして、ただただ議論口弁のみ覚え込み候者を選挙いたし候はば、平日は必ず労勉冗劇の任に堪へずして、13)アマツサへこれを軽忽にし、一旦緩急ある期に臨み候はば、侍は必ずいたづらなる軍議の外には能なくして、14)陥陳・15)ケンキの勇夫16)モウソツは、かへつて尽く足軽・百姓などより出で申し候はんか。それにては、17)チランとも適用の人物御抜擢任用なされ候とは、申しがたかるべく存じ奉り候。

(要旨)しかしながら、古代より近世まで武を以て天下を平定してきた国家ゆえ、臆病で卑怯な事を憎み、節義に反することを恥じ、君主を敬い、祖先を重んずる習俗、つまりは敬神尚武の風儀がわずかながらも残っております。その精神こそ、世界に超絶する誇るべきものですから、今後も武道を骨とし、文事をその肉付けとして熱心に兼ね修める者を尊び、実用に適さぬ無益な学問に耽り軽はずみで派手な気風に陥る者をしっかりと教育する必要があります。無益な議論や弁舌だけが得意な者を推挙し任用することは平常の仕事はしないばかりか、危機にあっては無用の軍議に明け暮れ、敵陣を攻め破り、敵の軍旗を抜き取ってくるような勇猛な者はむしろ足軽や百姓の中から生まれるのではないでしょうか。そんなことでは平時であれ戦時であれ適材を抜擢し任用したとは到底言えないのです。



今回のくだりの中では、中国を引き合いに出しているのが興味深いですね。文官を重用したきた。すなわち儒学です。翻って我が国も江戸幕府は儒教を重視してきたが、これに対して左内は懐疑的な見方を示しています。以前も出てきたのですが、名立たる儒学者は我が国では数えるほどしか育たなかった。それは武士の世の中が続いてきたあとで、儒教を強引に持ち込んでも馴染まないという。中国と歴史が異なるため、中国だけを模倣していては立ちゆかなくなる。開明の世の中が到来したのだから、これを機に儒教儒教とだけ言うのはやめて、儒教に加え、新しい考え方も持とうではないかという。君主を敬い、祖先を大事にする風習は世界に冠たるものであり、これを生かして、全員が向上に向けて動く。

ユニティ。その精神的支柱は中国で発展した儒教ではない。ここを誤らずに藩校の教官も変わらなければならない。そのエッセンスの一部をベースにしてもかまわないが、やはり日本国の新たな教育とも言うべきものであろう。左内は日本型の新しいシステムを構築するべきだと説いているのです。




1) ジキ=自棄。自分の希望・信念・能力・生きがいに絶望し、やけになること。自分の才能や美質を世の中にうずもれさせること。「やけ」や「みずからすつ」とも訓む。

2) ヨウアツ=壅遏。ふさがりとどまること。

3) ヤクセキ=薬石。病気を治す薬と鍼。転じて、薬剤の総称。ここは人材の効能を比喩している。

4) ショウキュウ=捷給(捷急)。話し方が上手で応対がすばやいこと。利口。便給ともいう。「捷」は「さとい」。

5) クッキョウ=究竟。いちばんすぐれている、屈強。注意すべきはこのほかに、「キュウキョウ」「クキョウ」の読みもあることです。「キュウキョウ」は「畢竟」、「クキョウ」は「仏教語で、すべての真理を悟った最上の位」。

6) ブダン=武断。武力で押さえつけて政治を行う。威力によってかってに物事を行う。

7) ケイカン=勁簡。つよく大まかなこと。「簡」は「手をぬいてあるさま、おろそかなさま」の意。簡慢(カンマン=人との応対や仕事を行うのに、手数を省いて、いい加減に扱うこと、特に自分の不行き届きをわびたり、謙遜したりする場合に用いる、怠慢)。

8) ハンジョク=繁縟。こまごましくわずらわしいこと。「縟」は「込み入っているさま、ねばっこい」の意。縟繍(ジョクシュウ=たくさんの色を使った手の込んだ刺繍)、縟礼(ジョクレイ=込み入ったわずらわしい礼儀作法、繁文縟礼)。

9) チュウリョウ=忠亮。忠と信。真心があってうそ偽りのないこと。「忠」は「心の誠意」、「亮」は「言葉の誠意」。忠信ともいう。

10) リクセキ=六尺。「六尺之孤」と用いて「十士後妻の幼君」。論語・泰伯篇に「以て六尺之孤を託す可く、以て百里の命を寄す可く、大節に臨みて奪ふ可からず、君子人か、君子人なり」とあります。

11) レイメイ=黎明。夜明け。黎旦(レイタン)ともいう。「犂」は「くろい」。黎民(レイミン=あさぐろく日焼けした顔の民、庶民、黎首=レイシュ=・黎庶=レイショ=・黎元=レイゲン=)、黎献(レイケン=人民の中の賢者、「献」は「賢」の意)、黎黒(レイコク=色があさぐろいこと、顔色黎黒)、黎老(レイロウ=老人、老人の肌があさぐろいことから)。

12) ジュンショク=潤色。つやを出し色を付ける、表面をつくろい美しく飾る。

13) アマツサへ=剰へ。そのうえに、おまけに。剰水残山(ジョウスイザンザン=戦乱の後の荒れ果てた河川や山)。

14) モウソツ=猛卒。いさましい戦士。

15) 陥陳=カンジン。敵の陣地を攻め落とす。陥陣とも。

16) ケンキ=搴旗。戦場で敵の旗を抜き取ること。

17) チラン=治乱。世の中のおさまることと、乱れること。
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Author:char
不惑以上知命未満のリーマンbloggerです。
言葉には過敏でありたい。
漢検受検履歴
2006.3  漢字学習スタート
2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
2007.10 1級合格①
2009.2 1級合格②

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