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左内の深い悩み・嘆きは底知れず続く…=「学制に関する意見箚子」(4)

幕末の越前藩士、橋本左内の「学制に関する意見箚子」(講談社学術文庫「啓発録」、伴五十嗣郎全訳注)シリーズの4回目です。儒学者に対する辛辣な言葉を繰り広げつつも、その改心を目指す左内。学問に優れているのは間違いないので、高い志を掲げた行動力さえ具えれば優秀な人材育成は自ずとシステム化されるであろうと。しかし、現状見まわすとその可能性は極めて低いことを憂慮される。この教育の危機から脱するにはどうすればよいのだろうか?



■…しかるところ、今の教官たる者、大言抗論、尽く空理に陥り、聞くべくして行ひがたきことのみ申しをり候上に、その平生の所為等を詳らかに相考へ候はば、いまだ俗情・俗態を1)ハイダツつかまつり候ほどのこともこれなく、その上忠孝・節烈のことなど、毎々口には出し候へども、その自ら守るところ、蹈むところに至りては、いまだ俗見・俗論に拘り、飾偽・畏難・顧望等の心病、尽く克ち去ること能はずして、2)キョウキョウとして凡庸中を超脱いたし候ほどのことも御座なく、右のごとく、すでに人聴を3)ショウドウするの卓論なく、また及びがたきの大節なき者にては、衆人と競ふところの長短は、僅僅言談・文字等分寸の間にこれあり候ゆゑ、君子たる者は、その4)キンボ景仰の心を起し候由なくして、小人たる者も忌憚・畏伏の情を抱き申さず、是により学校の内、諸事彪漫にして、厳整・5)シュクボクの気味一向に相見え申さず、人に道義確信の風乏しく、道義確信ならざるより勇鋭欽化の風振り立ち申さずして、動もすれば、怠慢邪僻に傾くべきの萌御座候。かくのごとき勢ひにては、なかなか前件傑出の人材どころにてはこれなく、中等の人物を仕立て候も覚束なく存じ奉り候。

(要旨)いまの明道館の教官は柄にもない大言壮語をはいているものの、空理空論に陥り、実行が不可能な状況となっています。いまだに名誉や利益ばかりを求めており、忠義や節義を堅く守ろうなどとは口にこそすれ自身が実践することはない。臆病で横並び。見かけ倒しの並みのレベルを抜け出せないでいます。人の心を動かす卓見などありません。わずかに学問上の言論や経書に関する文字上のことだけ競い得るものの、そのほかは何もないに等しいのです。よって君子たる資質を秘めた学生は彼らを敬い慕うことはないばかりか、畏れひれ伏す学生は皆無と言えます。学校の中はしまりなく、怠慢でねじけた気風に傾いていく兆しすら見えます。この情勢下ではとても優秀な人材育成どころではなく中程度の人物を仕立て上げることさえ困難でしょう。


■…右等6)アクセク浅鹵の教官に託し、非常の豪傑、有用の才俊を作り出さしめんと望み候は、たとへば7)バンイツの美玉を8)レンワン痿躄(イヘキ=両足がしびれる病気)の病夫に付して、これを千里の遠きに達せしむるに異ならず。いづれの頃にか届き得申すべき哉と案じられ申し候。傍人より通観いたしをり候はば、愚人といへども、その所志、所為の相反して、ただに所望に充たざるのみならず、かへつて9)キソンの患ひ有らんことを、憂ひ申すべくと存じ奉り候。

(要旨)このようなとかく小事にこだわり浅はかで愚鈍な教官に学生を託し、豪傑や俊才が輩出することの期待感は乏しい。いつになることやら。あたかも重量感たっぷりの美玉を手足のしびれた病人に持たせ千里も先の彼方に運ばせようするが如し。志と行動が相反して目的を見失うのみならず、学校そのものの存続が危ぶまれることを嗟き悲しむこととなりましょう。

■…さてまた、文武一致の御趣意に候ゆゑ、今般武藝所取り立てに相成り、造士の方においては次第にその具備はり、有りがたき御仕向けに御座候へども、第一教官の胸中にその10)トリャク具はりをり申さず候はでは、なかなか武芸一致には相成り申すまじく候。たとへ総教の御方にて、いかほど御気配り御世話等御座候ても、自ら上下11)ケンゼツの勢ひもこれ有り、かつは賤役叢脞(ソウサ=煩雑で統一がないこと)、日々の12)サジは御透かし見御むづかしき訳等もこれ有り候へば、二十分の御探討御注意より出づるところ、御処置にても自ら下方において論談和熟つかまつり候やうに、充分には参り届き申すまじく、その上みだりに御仕向けの迹を13)オクサツして、互にかれこれ御贔屓これあるにてはなきかと申すやうなる14)ギサイの心等相生じ、それよりして、しばしば双方15)ソウタンなど醸し候はんも計りがたく存じ奉り候。



(要旨)さてまた、文武一致の御趣意から、このたび明道館内に総武芸稽古所を付属させることとなり、文武兼備の藩士を養成することは次第に設備は整えられていきます。教官の心の中にそれを生かす計画と覚悟がない限り、その実現は無理です。藩校の上層部と末端の間の意思疎通がなく統一感が見られません。全体を隅々まで調査なされれば分かりますが、学校運営に関して憶測が横行し、贔屓があるのではないかとねたむ心も生じており再三にわたり内紛が勃発しそうな気配も強いのです。


■…かつ、当今学問の道いまだ弘く行はれざるにより、武人なる者往々一種16)コロウ一偏の見に片倚りをり、とてもたやすく自然に洞開通達の識・正大光明の見相立ち、国家の御大願を推し伸べ申すべきほどの頼みは御座なく候。これを導諭候にも、誰ぞ大有力の者、その辺の17)ロウケンを推し破りて、正道に18)ジュンジュンと誘引いたし候者御座なく候ては、目今真武御引立ての大御処置、永々御持ち堪へのほど、はなはだ覚束なく存じ奉り候。これとても、別に望むべき人は御座なく、やはり教官の当任と存じ奉り候。


(要旨)学問が行き渡っていない現状では、武芸者と称する人は頑固で視野が狭いので考えに偏りが見られます。開けた見識を持ち国家の大目標達成のために積極的に協力させるのはなかなかに難しい。これを諭し正しい道に導いてやらねばなりません。これも藩校の教官の役目ではないでしょうか。





左内の嗟きが続きます。まずは、藩校の教官のレベルが低いと嘆く。自分で何ができるかも分かっておらず偉そうに説くだけだと。学生に対し示しが付かないではないか。藩校の雰囲気が悪くなっているだけ。中程度の人材もはぐくむことができない。どうして瑣末なことばかりに囚われるのだろう。宝であるはずの学生が朽ちてしまうだけだ。折角、お殿様が教育を重視されてヒトモノカネを投じて充実を図ろうと御英断なされたのにこれではその甲斐がないばかりか、ばらばらの態勢で教育など実行できるはずもない。

要するにリーダーとなるべきカリスマ性を備えた教育者がいないというのです。先を見通して大局的に物事を進められる人材が不足している。お殿様の高い志がいまだ末端まで浸透しきっていない。何を為さねばならぬのか、その危機感が欠如している。人材の大切さは自らがその危機意識を持てるかどうかに懸かっている。厳しい自己統制と研鑽以外にあり得ない。手練手管ばかり弄して小手先の処世術を身につけても藩を、国家を前に進める力たりえないのである。文武の一体感を生むにはどうすればよいのでしょう。頭だけでもダメ。力だけでもダメ。そのバランスを図るには何が必要なのか。人心を掌握するトップの力が求められるのは間違いない。この人のため、この人が言うことは間違いない。そういう意識をお互いが持ちあえる関係をいかにして構築するか。上も下も真ん中もないでしょうね。一人ひとりが考えること。尊敬しあい、励まし合い、一つの目的に向かえる態勢。

まさに、教育とは今の日本が必要な物です。空理空論を振り翳すのではなく、一人ひとりが行動すること。頭がいいとか、力があるとか、金があるとか関係ない。危機意識の共有化。他人任せにしないこと。自分ひとりじゃどうせなどと思わないことです。全員が一致して自分がやらねば誰がやると思うこと。

左内はそうした意識付けをまず教官にしたいと考えていると言っていいと思います。

しかし、かれの嘆きはまだまだ続くのです。。。。


問題の正解などは続きにて。。。。









1) ハイダツ=擺脱。古い習慣などをおしのけて抜け出す。「擺」は「ひらく」。左右に押し開く。

2) キョウキョウ=喬々。丈の高いさま。「喬」は「たかい」。

3) ショウドウ=竦動。世の中の人の耳目を驚かす。聳動もあり。

4) キンボ=欽慕。敬い慕う。仰慕(ギョウボ)。景仰(ケイギョウ・ケイコウ)も同義。

5) シュクボク=粛穆。つつしみやわらぐ、つつしみ深くて穏やかであること。粛雍(シュクヨウ)とも。

6) アクセク=齷齪。こせこせするさま、汲汲とするさま。心の狭いさま。「アクサク」とも読む。

7) バンイツ=万鎰。重たいこと、重量がたっぷりある様子。「鎰」は「金の重さの単位、一鎰は二十四両、周・漢代では約384瓦」。

8) レンワン=攣腕。腕がひきつりふるえる病気。「攣」は「つる、ひきつる」。痙攣(ケイレン)。

9) キソン=毀損。やぶれこわれる、物を傷つけこわす。

10) トリャク=図略。計画、はかりごと。図南(トナン=南に向かっていこうとする、大事業や遠征をくわだてることのたとえ)。

11) ケンゼツ=懸絶。かけ離れていること、違いが甚だしいこと。

12) サジ=瑣事。こまかくて大したことではないこと。些事とも。瑣砕(ササイ=こまごましている、くだくだしくめんどうなこと、瑣屑=サセツ=)、瑣細(ササイ=細かくて重要でない、瑣小=サショウ=・瑣末=サマツ=)、瑣尾(サビ=小さくて目立たないさま、落ちぶれたさま)。

13) オクサツ=臆察。一人勝手に推察すること。

14) ギサイ=疑猜。うたがうこと。猜疑(サイギ)。

15) ソウタン=争端。争いの端緒。釁端(キンタン)。

16) コロウ=固陋。かたくななこと。

17) ロウケン=陋見。せまくてつまらない意見・考え、自分の考えを謙遜していうことば。

18) ジュンジュン=詢々。恐らくこれは諄諄の紕繆ではないでしょうか?左内も案外誤字が多い?「詢」は「とう」「はかる」の意味しかないです。「諄諄」ならば「懇切に繰り返し説くさま」。前後の文脈からしてもこちらでしょう。
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2006.3  漢字学習スタート
2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
2007.10 1級合格①
2009.2 1級合格②

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