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日本国再建のため教育論を再考しよう=「学制に関する意見箚子」(1)

橋本左内が教育について意見具申した「学制に関する意見箚子」というのがあります。明治政府は殖産興業を進め、国民のレベルを上げるため、教育制度改革に力を入れましたが、その十年以上も前に左内が教育の重要性を説き、安政四年(1857)五月、殿様に提言していたのです。資源のない国であり人材こそ宝。いまでも言い古されたフレーズですが、左内は当時、藩校明道館の学監の職にあり政治と教育の一致という藩是を実現するための方策として意見具申しました。講談社学術文庫「啓発録」(全訳注)に採録されており、同書の解題(P236)には「藩校教官の無能力を辛辣な語調で叱責しつつ、人材育成の要点を説き、国家興隆の基盤となるべき教育の重要性について、論及している」と解説されており、「今日の混迷した疆宇行く問題を考える上でも、重要な指針を示すもの」と言います。教育施策を重視する民主党政権、そして、文部科学省のキャリア官僚にも左内の熱弁を今一度提示しようではありませんか。聊か長めなので7~8回に分けてロングラン連載します。

■…明道館御取立ての義は、深き思召も在らせられ、政教一致・文武不岐と申す御標準にて、後々は士大夫仁譲節烈の風に興り、庶民時雍文化に移り候やう、年来御労思あそばされ候御大願・御1)コウギョウは、明道館中より御成就の2)キシを開き候やうにとの御趣意に御座候やうに欽承し奉りをり候。右は、中々尋常容易の御趣向にては御座なく、実に古今の聖主・賢補も難んじをられ候義に御座候へば、御処置の次第において、まづ3)コウエン明確の御定案相定まりをり候て、一切模稜安排の御仕向け等、御脱却御座候はでは、とても御満願の期これ有るまじくと存じ奉り候。さて、いよいよ右の御趣意に相極り候上は、人材を得るの道を開き候こと、肝要に愚考し奉り候。

(要旨)藩校明道館の設立目標は、政治と教育の一致、文武の不離一体であります。各藩士におごることなく節度ある態度を身につけ、庶民に和らぎを与え学問が興隆することを望まれた結果、ようやくここに結実したものです。


■…人材の義は、古今必須のものにて、いづれの時代にても不用と申すことは御座なく候へども、当今新政を御4)コウチョウ、百廃を御振起の折柄において、殊に御規模・御区画等、すべて小成に御安著の御姿にこれ無き御様子に御座候へば、昔より只今ほど人材を得ること急用専務となりをり候時節は、これ有るまじくと存じ奉り候。さりながら、目前に成り立ちをり候人材は、既にあらあら御細択御精選相成りをり候上、おひおひ御研究御論じ詰めも御始めに御座候へば、最早これを得、これを成すの道、すこぶる開けをりし申し候。この上は学校において、おひおひ年少の者養育・薫陶つかまつり、非常傑出の材に仕立て揚げ、行末当今御趣意のところ、ますます御手広かつ御手厚に相成り候やう、今日より御配慮御座あるべく候こと、時勢に適切なる義と存じ奉り候。

(要旨)しかしながら並大抵のことでは実現はしません。ですから、最初が肝心、曖昧な態度は脱却し、反対意見をあしらうことで妥協するようなことは擺脱しなければなりません。この方針を決めた暁に大事なことは、人材を獲る道筋を開くことです。

■…もつとも、人材を得、人材を成し候には、種々手段もこれ有り、学校のみに限り候訳はこれ有るまじく候へども、有用の大材を造成いたし候は、必ず教化の道より外に5)セイロ捷径これ有るまじく候へば、やはり学校をもつて上田といたすべき義と存じ奉り候。この義はただに小臣の6)オッケンのみならず、恐らくは7)ウダイの道理ここに漏れ申すまじくと、年来信じ込み罷りあり候。

(要旨)人材はいまだかつて不用であった時代はありません。越前藩もこれまでの弊政を改め、新政を断行する折、小さな成功に甘んじてはいけません。大事業を成そうという心づもりの下、いまほど人材の獲得が急務であったことはないでしょう。当藩の人材はおよそ選択は済んだものと思われ、人材育成の道は開かれたと言えるでしょう。今後は明道館において少年を養育し、正しい方向に教化し、優秀な人材に仕立て上げ、目下ご推進されている各事業がより大きなものとなるようにするのがよろしいでしょう。

■…さて、この一事すこぶる至重の難事に御座候。就中、当今の明道館においては、難事中の最大難事と存じ奉り候。大抵人材を得るには、四箇条の要件が御座候ものにて、これを尽さずして材を得んとするは、夜行して日を見んと思ふ者と同様の愚と申すべく存じ奉り候。四箇条の要件と申し候は、

 第一。材を知るの道。即ち、その人の長ずる所を知りて、また、その短なるところをも看破いたしをり候事。

 第二。材を養ふの道。すでにその材を知り候はば、また、これを生育・長養して、害を避けしめ、難を去らしめ、かつその支捂・8)カンカクの患ひを除くの術を尽して、その志を遂ぐることを得せしめ候事。

 第三。材を成すの道。養ふの方、すでに具はらば、これに藝を教へ学を植ゑ、それを正道に誘き、実事に試み、つひにその材を練熟して、有用の者とならしむる事。

 第四に材を取るの道。材すでに用に堪ふるの地に到り候はば、久しく下に9)エンタイ廃棄いたさせ申さず、それを朝に薦めて、その堪ふべきところの任に当らしむべき事。

(要旨)人材を得て育てるためには、学校教育に於いて次の四つが大事となります。私見であはなく天下の王道でありましょう。
 第一に、人材を知ること。その長所を見出し、また短所をも見抜くこと。
 第二に、人材を養成すること。その人物の長所・短所を確認した後は、長所を伸ばし、短所を改めるような養成に注力する。成長を妨害することのないよう、内部から起こる反抗心やひねくれ根性を取り除き、立派に志を遂げられるようサポートすることが大事です。
 第三に、人材を完成すること。養成が終われば、いよいよ学問と技能を教育し、その成果を正しい方向に開花させ、実際にその能力を試し、熟練させて、有用な人材として完成せなければなりません。
 第四に、人材を挙用すること。実際の用に堪えうるところまで完成したら、長期間挙用もせず棄て去っておくことはせずに、ただちに推薦してしかるべき任務につけて活躍させなければなりません。

■…この四道を兼ね行はざれば、材を得るの道は尽き申さず候へども、四道の内においても、知材・成材の二道を尽し候こと、最も難しと存じ奉り候。その仔細は、千里の馬は必ず踶囓(テイゲツ=ひづめで踏み、牙でかむこと)の病ありて、「足+斥」弛(タクシ=才能があり、世俗に束縛されることを嫌う)の士には必ず負俗の累御座候こと、今古の痛患に御座候上、兎角衰世の風儀・迂俗の旧習にて、怠懦・畏怯・平弱・10)ジュウビの性質は大抵人にも愛され、その上目立ちたる過失もなきやうに相見え候へども、これ等の輩は、皆一生己の為にする貪利と申す病根全治つかまつらざる者にて、学問に熟し候ほど面諛11)トンジに長じ、古人のいはゆる12)キョウゲンなるものに陥り、なかなか安心して倚頼すべき者にては御座なく候。

(要旨)このなかでも特に第一の人材を知ることと第三の人材を完成させることの二つの要件が非常に難しいのです。なぜなら、一日に千里を走る馬はひづめで蹴ったりかみついたりする欠点があり、小事にこだわり萎縮することのない人物は世間から悪く言われるものです。世の中が衰えてくると、なまけ者でも、臆病ものでも、普通以下の能力しかなくても、物腰柔らかく媚び上手ならばたいてい好かれます。一見過失はないようですが、一生自分の利益の為だけに行動する貪利という病気が治っていない者です。学問に熟達すればするほど、人前で媚び諂うことや、言い逃ればかりが横行し、孔子の云う「郷愿」、つまり偽善者になりはててしまい、安心して仕事を頼めないのであります。



最後のくだりは耳が痛い人も多いのではないでしょうか(かくいう迂生もその一人です)。自分の利益ばかりを考える人物。学を獲るほど媚び諂いが上手になる。左内は教育の「甘い罠」を見抜いている。憖、知恵が授かったばかりに処世術だけが身についてうまく世を渡ることができてしまう。そんな人材を育てる教育のあり方は失敗だというのでしょう。鋭過ぎる指摘です。

問題の正解は続きにて。。。








1) コウギョウ=鴻業。大きな事業。
2) キシ=基趾(基址)。建物の土台。転じて、物事が成り立つもと。
3) コウエン=宏遠。度量が広く、才知がすぐれている。弘遠。
4) コウチョウ=更張。今まで衰えていたことを改めて盛んにする。
5) セイロ=正路。正規の道路。本道。
6) オッケン=臆見。自分ひとりかってな考え。臆出(オクシュツ=かってにおしはかって説をたてる)。
7) ウダイ=宇内。天地四方の内、天下。
8) カンカク=扞挌(扞格)。物事にさからい反対すること、ひねくれること。その前の「支捂」(シゴ)は「つかえさからうこと」。
9) エンタイ=淹滞。すぐれた才能がありながら下の位にとどまっている、また、そのような人を指す。
10) ジュウビ=柔媚。やわらかな物腰でこびへつらう。
11) トンジ=遁辞。逃げ口上、言い逃れ。
12) キョウゲン=郷愿(郷原)。郷中にて謹み深い有徳の人と誉められているが、実は郷里の俗人の気に入られるように振る舞っている偽善者のこと。論語の陽貨に「郷原は徳の賊なり」ととして出てきます。
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2006.3  漢字学習スタート
2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
2007.10 1級合格①
2009.2 1級合格②

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