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今こそ負けじ魂を見せてくれようぞ=学習継続への「啓発録」(2)

幕末の越前藩士、橋本左内の「啓発録」(講談社学術文庫、伴五十嗣郎全訳注)シリーズの2回目は「振気」。稚心を棄て去った後になすべきことは、精神を奮い立たせて持続することです。高みへ高みへと自らを鼓舞することのなんと難しいことでしょう。去ったはずの甘えの心がまたぞろ頭を擡げてくるのを禁じ得ないばかりか、徒に安きに流れてしまうことも止めようがないのです。士気が低下しないようにするにはどうすればよいのでしょうか。左内の熱弁に耳を傾けることと致しましょう。

■気を振ふ(振気)

 気とは、人に負けぬ心立てありて、恥辱のことを無念に思ふ処より起る意気張りの事なり。振ふとは、折角自分と心をとゞめて、振ひ立て振ひ起し、心のなまり油断せぬやうに致す義なり。この気は生ある者には、みなある者にて、1)キンジュウさへこれありて、キンジュウにても甚しく気の立ちたる時は、人を害し人を苦しむることあり、まして人に於てをや。人の中にても士は一番この気強くこれ有る故、世俗にこれを士気と唱へ、いかほど年若な者にても、両刀を帯したる者に不礼を致さざるは、この士気に畏れ候事にて、その人の武藝や力量や位職のみに畏れ候にてはこれなし。

 然る処、太平久しく打続き、士風柔弱2)ネイビに陥り、武門に生れながら武道を忘却致し、位を望み、女色を好み、利に走り勢ひに付く事のみにふけり候処より、右の人に負けぬ、恥辱のことは堪へぬと申す、雄雄しき丈夫の心くだけなまりて、腰にこそ両刀を帯すれ、太物包をかづきたる商人、樽を荷うたる樽ひろひよりもおとりて、纔に雷の声を聞き、犬の吠ゆるを聞きても3)キャクホする事とは成りにけり。4)偖々嘆くべきの至りにこそ。

 しかるに今の世にも猶未だ士を貴び、町人百姓などお士様と申し唱ふるは、全く士の士たる処を貴び候にてはこれ無く、我が君の御威光に畏服致し居り候故、拠どころ無く5)のみを敬ひ候ことなり。その証拠は、むかしの士は平常は鋤鍬持ち、土くじり致し居り候へども、不断に恥辱を知り、人の下に屈せぬ心逞しき者ゆゑ、まさか事有るときは、吾が大御帝或ひは将軍家などより、募り召し寄せられ候へば、忽ち鋤鍬打擲げて、物具を帯して千百人の長となり、虎の如く狼の如き軍兵ばらを指揮して、6)ヒジの指を使ふごとく致し、事成れば芳名を7)セイシに垂れ、事敗るれば屍を原野に暴し、富貴利達死生患難を以て、その心をかへ申さぬ大勇猛・大剛強の処これ有るゆゑ、人人その心に感じ、その義勇に畏れ候へども、今の士は勇はなし、義は薄し、8)ボウリャクは足らず、とても千兵万馬の中に切り入り、縦横9)ムゲに駈廻る事はかなふまじ。況や10)イアクの内に在りて、11)を運らし勝を決するの大勲は、望むべき所にあらず。

 さすればもし腰の両刀を奪ひ取り候へば、その心立て、その分別、尽く町人百姓の上には出で申すまじ。百姓は平生骨折を致し居り、町人は常に職業渡世に心を用ひ居り候ゆゑ、今もし天下に事あらば、手柄功名はかへつて町人百姓より立て、福島左衛門大夫・片桐助作・井伊直政・本多忠勝等がごとき者は、士よりは出で申さゞるべきかと思はれ、誠に嘆かはしく存ずる。

 け様に覚のなきものに高禄重位を下され、平生安楽に成し置かれ候は、扨扨君恩のほど申す限りなきこと、辞には尽しがたし、その御高恩を蒙りながら、不覚の士のみにて、まさかのときに我が君の恥辱をさせまし候ては、返す返す恐れ入り候次第にて、実に寝ても目も合はず、喰うても食の咽に通るべきはずにあらず。ことさら我が先祖は国家へ対し奉り、聊かの功もこれ有る可く候へども、その後の代代に到りては、皆皆手柄なしに恩禄に浴し居り候義に候へば、吾吾共聊にても学問の筋心掛け、忠義の片端も小耳に挟み候上は、何とぞ一生の中に粉骨砕身して、12)ロテキほどにても御恩に報ひ度き事にて候。

 この忠義の心を13)タワまさず引き立て、迹還り致さぬやうに致し候は、全く右の士気を引き立て振ひ起し、人の下に安んぜぬと申す事を忘れぬこと肝要に候。さりながら只この気の振ひ立ち候のみにて、志立たぬ時は、折節氷の解け酔のさむる如く、迹還り致す事これ有る者に候。故に気一旦振ひ候へば、方に志を立て候事、甚だ大切なり。



負けじ魂を奮い立たせて弛緩することなく奮励することを説きます。武士が本来備えていた士気がいつしか失われたしまったことに危惧の念を強めます。出世や遊興、損得勘定ばかりが優先される。武士の本文を見失った輩は町人百姓よりも劣るのだと扱き下ろします。伴食宰相ではないか。人には負けないという気概こそ今再び思い起こせ。安きに流れるな。世のため人のためとは言わない。まさに自分自身の価値のために粉骨砕身、主君の忠義に報い切る覚悟こそ必要であろう。途中に出てくる「福島左衛門大夫・片桐助作・井伊直政・本多忠勝」は豊臣秀吉に仕えた福島・片桐、徳川家康に仕えた井伊・本多のこと。武士の代表であり、いまこそ見習うべき存在として出しています。

悔しさを忘れてはいけません。長い人生です。偶には失敗もあるでしょう。しかし、負け癖がついてしまったら何の前進もないのです。失敗から最大限学ぶこと。負けたら次は勝つという気概が必要。この世に生を享けた証です。気持ちを強く持つこと。そして、志をしっかりと立てること。何のために己は存在するのか、行動するのかをしっかりと見極めよと左内は言う。次回は「立志」です。「志」こそが学習の継続には最も欠かせないことでしょう。


問題の正解などは続きにて。。。





1) キンジュウ=禽獣。とりやけもの。鳥獣。「禽」は「とり」。禽語(キンゴ=とりのさえずる声)、禽荒(キンコウ=狩猟にふけってほかの事がらを顧みないこと)、禽翦(キンセン=つかまえて切り殺す、擒翦=キンセン=)、禽息鳥視(キンソクチョウシ=けものやとりが息をしたり物をみたりして生活する、いたずらに生活のためのかてを求めるのみで、すぐえた志を持たないこと、俸禄を受けるのみで世に利益を与えることがないこと)、禽鳥(キンチョウ=とりのこと)、禽犢(キントク=とりと仔牛、人を訪問するときのてみやげや贈り物のこと)、禽困覆車(キンもくるしめばくるまをくつがえす=捕らえられた鳥獣でさえ苦しめば車をひっくり返す、ましてや人間に於いては弱者でも死に物狂いになれば大きな力を出す)。

2) ネイビ=佞媚。こびへつらう、そのような人。「佞」は「ねじけ」の和訓があり。人当たりがよくて口先がうまいさま。佞猾(ネイカツ=口先が上手く悪賢い、そのような人)、佞姦(ネイカン=口先がうまく心が拗けていること、佞奸=ネイカン=)、佞給(ネイキュウ=口先がうまくへつらう)、佞言(ネイゲン=こびへつらうことば、お世辞)、佞巧(ネイコウ=口先がうまく人にへつらうこと)、佞幸(ネイコウ=こびへつらって主君に気に入られる者、佞倖=ネイコウ=)、佞才(ネイサイ=口先がうまくて人にへつらう才能、その人)、佞臣(ネイシン=口先が上手い、心のねじけた家来、姦臣=カンシン=)、佞人(ネイジン=口先がうまくて人にへつらう、心のねじけた人、佞者=ネイシャ=)、佞弁(ネイベン=うまく調子をあわせて相手の気に入るようにいうこと)、佞諛(ネイユ=こびへつらう)。

3) キャクホ=郤歩。あとずさり。「郤」は「ゲキ」で「くぼみ」。正確には「却歩」。却行(キャッコウ)、却足(キャクソク)ともいう。

4) 偖々=さてさて。新しい話題に転ずるときにいうことば。「さて」は「扨」もある。

5) 貌=かたち。顔の形や姿。おぼろげにつかめたありさま。外に表れたようす。貌状(ボウジョウ=事物の状態・ようす、外から見たかたち)、貌形(ボウケイ)・貌象(ボウショウ)。貌侵(ボウシン=背が低くて小さいこと、顔かたちが醜いこと、風采が上がらないこと)、貌言(ボウゲン=うわべだけを飾った、誠実さのないことば)。

6) ヒジ=臂。「臂の指を使う如し」で「意のままに人を使うことのたとえ」。賈誼の「論時政疏」にある「海内の勢をして、身の臂を使い、臂の指を使うが如くならしめば、制戎せざる莫し」が出典。したがって成句であるので「肘」「肱」では不正解。

7) セイシ=青史。歴史のこと。昔、紙がまだ発明されていなかった頃、火で青竹をあぶり、その青みを取り除いて、文字を記録したことから「青」という。青史汗簡(セイシカンカン=歴史書のこと)も覚えやう。

8) ボウリャク=謀略。人をだますための計略。謀計(ボウケイ)・謀策(ボウサク)とも。

9) ムゲ=無碍(無礙)。さまたげられないこと。融通無碍(ムウヅウムゲ=自由自在)。

10) イアク=帷幄。戦場で幕を張り巡らし、作戦計画をたてる場所。幃幄(イアク)・幃帳(イチョウ)・帷幕(イバク)とも。帷帳(イチョウ)もあり。「帷」は「とばり」。帷幄之臣(イアクのシン=陣営にいて作戦計画をたてる臣下、転じて、参謀)。帷幔(イマン=まく、たれまく)。

11) 籌=はかりごと。考えてつくった策、計画、策略。音読みは「チュウ」。籌議(チュウギ=集まって、はかりごとを相談する、籌商=チュウショウ=)、籌策(チュウサク=計略、はかりごと、籌筴=チュウサク=・籌画=チュウカク=・籌度=チュウタク=)、籌算(チュウサン=数を書いた竹べらの計算の道具、かずとり、計画)。

12) ロテキ=露滴。つゆのしずく、ほんの少しでも。

13) タワまさず=撓まさず。「撓む」は「たわむ」。しんなりと曲げる、柔らかに曲がる。
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言葉には過敏でありたい。
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2006.3  漢字学習スタート
2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
2007.10 1級合格①
2009.2 1級合格②

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