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二度の「嗚呼哀しい哉」に籠められた秘密は?=「自祭文」(7)・完

陶淵明の「自祭文」(岩波文庫「陶淵明全集」、松枝茂夫・和田武司訳注)シリーズの7回目、最終回です。自らの死を予感して、その二カ月前に予行演習のような詩を詠じた淵明先生。死など懼れるに足らんというのでしょう。懼れはしないが、我が儘にもできないのが死だという。墓を作っても荒れ果ててしまい、すっかり消えてしまうことは恐ろしい。。。


【第7段】

1)カクとして已に滅し、2)ガイとして已に3)かなり。封せず樹せず、日月遂に過ぐ。4)ゼンヨを貴ぶに5)ず、孰か6)コウカを重んぜん。人生実に難し、死之れを如何せん。嗚呼哀しい哉。



【解釈】 我が身は空しくもすでに滅び、嘆かわしくもはるかに遠くかなたに消えた。墓の盛り土もせず、墓地のまわりに目印の木も植えず、歳月はどんどん過ぎてゆく。私は決して生前の名誉を重視することはなかったのだ。ましてや死後に私をたたえる歌などを望む気はさらさらない。それにしても生きることがこんなにも難しいというのに、死すらもどうすることもできないのだ。ああ、哀しいことよ。

1) カク
2) ガイ
3) 遐か
4) ゼンヨ
5) 匪ず
6) コウカ




「封」は「つちもり」。葬った場所に土を盛って墓とすること。「樹」は、墓であることの目印を立てること。淵明先生はこの両方ともしなくていいといいます。それは生きている自分が名誉を重んじなかったことと符合しているからです。斯くも形式的なことにこだわらない生きざま。だから、死んだあとは自分の痕跡を残すことを嫌うのです。あたかも自分はこの世に生を享けたことを否定するかのようです。生きることのむずかしさを嘆き、そして、死ぬことの難しさをも嘆くのです。「嗚呼哀しい哉」は冒頭に続き二回目の登場です。これが結果的に「辞世の言葉」と為りました。死の二カ月前に「嗚呼哀しい哉」。偶然にしては出来過ぎですが、諧謔センスを持ち合わせた淵明先生のことゆえ、たまたまおどけて詠んだだけの詩とみることもできます。しかし、其の体はすでに痾に侵されていた。生と死を隔てることのできない自分に忸怩たる思いが強かったのでしょう。生きているあいだに一度、自分で自分を弔っておこうと思ったのではないでしょうか。そうすれば何時死んでも怖くはないぞとばかりに。。。。

問題の正解は続きにて。







1) カク=廓。がらんと中空になったさま。広い。「廓」は「くるわ(城門の外に発達した商業地をさらにへいで囲んだ所)」で、外側を囲んで中に物や家がはいるよう空間をあけることから。ここでは、魂が抜けて空っぽになった状態をいう。廓清(カクセイ=不正や不法行為をすっかり払い清める)、廓然(カクゼン=がらんとして広くあいているさま、心が広く性格がさっぱりしたさま、廓如=カクジョ=)、廓然大公(カクゼンタイコウ=さっぱりとして物事にこだわらず、公平なこと、聖人の心を学ぶ者の心構えをいう言葉)、廓落(カクラク=さっぱりとした性格で、心の大きいさま)、廓寥(カクリョウ=広々としたおおぞら、広大で、がらんとしたさま、寥廓=リョウカク=)。

2) ガイ=慨。胸がいっぱいになってはあと嘆息を漏らすこと。慨然(ガイゼン=胸がつまってなげくさま)、慨慨(ガイガイ=胸をつまらせて悲しむさま)、慨世(ガイセイ=世の中のことをなげく)、慨息(ガイソク=胸をつまらせてため息をつく)。

3) 遐か=はるか。とおくかけ離れたさま。「とおい」とも訓む。音読みは「カ」。遐異(カイ=世俗とかけ離れて異なっていること)、遐域(カイキ=はるかとおくにある土地、絶域)、遐遠(カエン=はるかにとおく離れていること、遼遠)、遐観(カカン=はるかとおくをながめやる)、遐棄(カキ=見捨てて遠ざける、自分の職分をみすて離れる)、遐挙(カキョ=とおい所に行く、また、浮かび上がって高い所に行く、名誉がはるか遠い所までに伝わること、非常に優れた行為)、遐荒(カコウ=都から遠く離れた、異民族の住む未開の土地)、遐邇(カジ=遠くと近く)、遐陬(カスウ=中央からとおく離れたへんぴな土地、辺地)、遐想(カソウ=はるかにとおく行った人を思う、俗世の事がらを超越した気持ちになる)、遐登(カトウ=はるか高く登る、天上に登り仙人になる、人が死ぬこと、登遐=トウカ=)、遐年(カネン=長生きすること、長寿、遐齢=カレイ=)、遐念(カネン=はるか昔をおもいやる)、遐福(カフク=おおいかぶさるほどのしあわせ、非常に大きな幸福)。

4) ゼンヨ=前誉。生きている間の名誉。前楹(ゼンエイ=家の正面の東西にあるまるい柱、転じてその付近、ベランダをいう)、前駆(ゼンク=馬に乗って行列のさきばらいをすること、さきがけ)、前愆(ゼンケン=以前に犯したあやまち、前過・前非)、前蹤(ゼンショウ=先人の行迹、先蹤=センショウ=)、前迹(ゼンセキ=先人のしたこと、過去の事がら)、前轍(ゼンテツ=前を行く車のわだち)、前慮(ゼンリョ=よくない物事のおこらない前に、その対策を考えておくこと)、前聯(ゼンレン=律詩の第三、四句、頷聯=ガンレン=)、前路(ゼンロ=前途)。

5) 匪ず=あらず。~でない。否定語。匪人(ヒジン=正しい人ではない、行いの正しくない人)、匪石(ヒセキ=石のようには動かすことのできない、確乎とした心のこと)、匪他(ヒタ=他人ではない、兄弟のこと)、匪躬之節(ヒキュウのセツ=自分の利害の為ではなく君主に忠節を尽くすこと)。

6) コウカ=後歌。死んだあとに、自分を称える歌を歌ってもらうこと。死後のに得られる称賛。後裔(コウエイ=子孫、後胤=コウイン=)、後簷(コウエン=裏のひさし)、後勁(コウケイ=軍隊のしんがりを守る精兵)、後楽(コウラク=天下の人が平和に楽しむのを見てからはじめて自分も楽しむ、人民の上に立ち政治を行う者の心構えをいう)。
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2006.3  漢字学習スタート
2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
2007.10 1級合格①
2009.2 1級合格②

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