スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

淵明先生に倣い自分の葬送の予行演習をしてみませんか?=「自祭文」(1)

成島柳北は暫くお休みします。柳橋新誌で一気に使い果たしたため、“ネタ”を充電しなければなりません。あることはあるのですがblogに書くには十分に咀嚼する必要があります。そこで、繋ぎというわけではないのですがこんな時こそ隠逸詩人、陶淵明先生に頼りましょう。宋の朱熹の著した「通鑑綱目」によると、淵明は元嘉四年(427)十一月、六十三歳でに卒したと記されています。そのたった二カ月前に作した「自祭文」(自ら祭る文)を紹介します。「陶淵明全集」(岩波文庫)のカテゴリーで言えば、死者に哀悼の意を表する「祭文」。しかも自分を祭る文。自らの死を予告し、暗示する文章です。「死は恐れるに足らず」とでも言いたいのか、それとも「死ぬのが怖い」からなのでしょうか。

全部で第七段まであります。本日は第一段。

【第1段】

歳は1)れ丁卯、律は無射に中る。天寒く夜長く、風気2)ショウサクたり。3)コウガン4)に征き、草木黄落す。陶子、将に5)ゲキリョの館を辞し、永えに本宅に帰らんとす。胡人、悽として其れ相悲しみ、同に今夕に6)ソコウす。7)うるに8)カソを以てし、薦むるに清酌を以てす。顔を9)えば已に冥く、音を10)けば愈々漠たり。嗚呼哀しい哉。



【解釈】 丁卯の歳(元嘉四年)の秋九月、天は寒く夜は長く、風はわびしく吹き、雁は南に飛び去り、草木は黄葉して散った。わたしはいま仮住まいの宿に暇を告げて、永遠に本宅に戻ろうとしている。友人はいたましげに嘆き悲しみ、相集うて今宵わたしの旅立ちを見送るため、美味なる野菜果物と酒を供えてくれた。わたしの顔を覗き込めばもはや黒ずんでいよう。耳を傾けて声を聞こうとしてももはや聴き取れはしまい。ああ、悲しいことではないか。

短い一節の中ではありますが、一つ一つの言葉が染み渡り、あるいは心を射さし、あるいは魂を揺るがせます。「律は無射に中る」は岩波文庫に解説が見えます。「古代においては、長短不同の竹筒を吹いて、その音声の清濁高下によって十二の音階を定める。すなわち陽の調子の六律=リクリツ=と陰の調子の六呂=リクリョ=と、合せて十二律とする。無射=ブエキ=とはその中の陽律の六番目にあたる音階。古代この十二律を十二カ月に配当し、無射は九月にあたる」とあります。

1) 惟れ

2) ショウサク

3) コウガン

4) 于に

5) ゲキリョ

6) ソコウ

7) 羞うる

8) カソ

9) 候えば

10) 聆けば

■文中、漢字の誤りが一か所ある。指摘して正せ。



誰しも齢六十も過ぎれば己の死と真正面から向き合わないわけにはいかないのでしょう。死んだ自分をシミュレートして予行演習的にあの世に逝く自分を見送るという発想は不惑半ばである迂生にしてはまだまだ生まれません。しかし、確実に老いを向かい合う毎日が続いています。どうすれば気持ちよく楽しく老いることができるのか。死を見詰めることができるのか。この世に生を禀けた者として最終場面を想像することは大事だと思います。淵明先生に倣うことはできないですが、先生の姿を、心の葛藤を味わうのはいい機会かと思われます。

問題の正解は続きにてどうぞ。

1) 惟れ=これ。文頭または句間に置いて語調を転じて強調する意を表す。

2) ショウサク=蕭索。細細として物寂しいさま。蕭条・蕭寂・蕭寥・蕭颯(ショウサツ)も同義。

3) コウガン=鴻雁。(秋に来る渡り鳥である)カリをいう。「鴻」は「大きなカリ」で「雁」は「普通のカリ」。

4) 于に=ここに。語調を整える言葉。于嗟(ああ=感嘆の言葉)。

5) ゲキリョ=逆旅。旅館。「逆」は「迎える」の意。「旅」は「たびびと」の意。この世を一時的な住まいと見做す考え方に由来する。「夫れ天地は万物の逆旅なり、光陰は百代の過客なり」は李白の「春夜従弟の桃花園に宴する序」の名高い一節。

6) ソコウ=祖行。旅人に別れを惜しむ送別の宴。この「祖」は「徂」(遠くへいく、死)を含意する。祖帳(ソチョウ)・祖宴・祖筵(ソエン)・祖席・祖送・祖道ともいう。祖餞(ソセン)という言い方もある。

7) 羞うる=そなうる。これは当て字。通常は「羞める」(すすめる)。御馳走を人にすすめてもてなすこと。羞饌(シュウセン=ごちそうを供えてすすめる、羞膳=シュウゼン=)。

8) カソ=嘉蔬。おいしい野菜果物。嘉肴(カコウ=けっこうな料理)、嘉実(カジツ=りっぱな果実)、嘉饌(カセン=りっぱな御馳走、嘉膳=カゼン=)。

9) 候えば=うかがえば。「候う」は「うかがう」。そっとようすをのぞくこと。斥候(セッコウ=偵察)、候伺(コウシ=訪問して相手のきげんをうかがうこと、候問=コウモン=・候視=コウシ=)。

10) 聆けば=きけば。「聆く」は「きく」。耳を澄まして聞くこと。音読みは「レイ」。


■文中、漢字の誤りが一か所ある。指摘して正せ。





正解=「胡」→「故」。「胡人」は匈奴・モンゴル人・ウイグル人などをさす、「故人」は友人。死んだ人ではないことに注意。


スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

profile

char

Author:char
不惑以上知命未満のリーマンbloggerです。
言葉には過敏でありたい。
漢検受検履歴
2006.3  漢字学習スタート
2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
2007.10 1級合格①
2009.2 1級合格②

calendar
10 | 2017/11 | 12
- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 - -
recent entry
recent comment
category
monthly archive
search form
RSS links
links
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。