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没落する色街と自分の行く末を重ね案じ悲嘆に暮れる=「柳橋新誌」二編(38)

成島柳北の「柳橋新誌」(岩波文庫、塩田良平校訂)二編シリーズの38回目です。佳人薄命。柳橋一の絶世の妓美女、阿清が十七で可惜命を失ったお話に続き、今回は老妓女、阿園と将来有望な阿鳥のお話です。ところが、柳橋を支える妓女と目されていた二人でしたが、いずれも落籍・従良してしまい、柳橋の行く末を憂う漢詩を柳北が詠じます。


近来老輩中独り阿園有り。阿園少き時阿栄と並び立つ、双美の名久しく二州に冠たり。往時柳橋の妓風、新橋金春(コンパル)諸地と太だ異なる無し。而して輓近(チカゴロ)服飾声調(ナリノツクリチヨウシ)一変して1)セイコウ幽雅を尚び、其の2)■(オモムキ)他方に同じからざるは、蓋し二人より始まる焉。蓋し阿園は色芸3)リョウゼン、之に加ふるに中年(ナカゴロヨリ)故さらに自ら4)■■(ヘリクダリ)し客に驕らず、善く後進を5)■■(ヒキタテル)す。是を以て人皆之を賢とす、妓中の君子と謂ふ可し。後進中名声頗る鳴る者は阿鳥を推して首と為す。阿鳥中其の才を蓄(ツゝミ)へて外其の行を円(マルク)にす。親に事ふる孝順、人に接する温淑(ヤワラカ)、未だ嘗て声色発するを見ず、亦良妓也。阿園既に6)カクロウに落籍(ヒツコミ)し、阿鳥亦今春に従良(カタヅク)す。知らず方今7)■■(タレ)を以て群芳の8)とせん哉。余未だ其の公論を得ざる也。余昔竹西坡と故柳橋の某楼に飲み、詩を其壁に題して云ふ。


 嬌歌酒を侑めて高秋に酔ふ
 限無き歓情卻つて愁を惹く
 門柳は9)ショウソ美人は去る
 他年の追感此の楼に在らん

 嬌歌侑酒酔高秋
 無限歓情卻惹愁
 門柳■■美人去
 他年追感在此楼

今を距る僅かに七八年にして西坡は老病北地に10)リュウリし、当時(ソノトキ)の紅裙は皆11)チョウラクして12)■■(アケボノホシ)の如し。余も亦余生を13)フウジン中に託す。故柳橋を過ぐるとて仰いで老柳樹を見、14)ソウゼンとして旧に感じ桓氏金城の嘆有り。嗚呼遊人多し矣其れ孰か斯の感を同うする者ぞ、其れ孰か斯の嘆を同うする者ぞ。



1) セイコウ=清高。人がらがけだかい。生硬、精巧、悽惶ではない。

■戯訓語選択、一字音読みヒントヴァージョン。

2) 「オモムキ」→タ・チ・ツ・テ・ト。




■正解

2) チ=致。気持ちのいたるところ、おもむき。意致(イチ=気持ちのいたるところ、意趣)、情致(ジョウチ=おもむき、おもしろみ、味わい、情趣=ジョウシュ=)。


3) リョウゼン=両全。両方とも完全なこと。亮然、瞭然ではない。ヒントはその前の「色芸」。ここは「色も芸も備わっているということ」。

■戯訓語選択。

4) 「ヘリクダリ」
5) 「ヒキタテル」
7) 「タレ」
12) 「アケボノボシ」


ユウドウ・シンセイ・アスイ・ヨクソン



■正解


4) ヨクソン=抑損。自分の気持ちをおさえてへりくだる。損抑(ソンヨク)とも。

5) ユウドウ=誘導。先に立って人をある場所にみちびくこと、人をある状態にみちびくこと。誘掖(ユウエキ=人が物事をするとき、先に立ってすすめ、わきから助ける、「掖」は「わきぞえをすること」)、誘然(ユウゼン=しらずしらず何かにひかれるさま、自然の原理に無心に従うさま、美しさにさそわれるさま)。

7) アスイ=阿誰。だれとも決まっていない人をさすことば。だれ、だれかしら。何誰(カスイ)ともいう。

12 シンセイ=晨星。あけがたの空に残る星。転じて、物事のまばらで、稀なさまを喩える。




6) カクロウ=客臘。昨年の十二月。「臘」は「陰暦十二月」。旧臘(キュウロウ)ともいう。

8) 魁=かしら。首領。一団の仲間を率いていく者。音読みは「カイ」。魁岸(カイガン=からだが大きくてがっちりしている)、魁奇(カイキ=からだつきや風采が普通の人とはひどくかけはなれてすぐれていること、魁殊=カイシュ=)、魁傑(カイケツ=人並み外れてからだが大きくたくましいこと)、魁健(カイケン=非常に、からだが大きく、力も強いこと)、魁梧(カイゴ=からだがめだって大きくてりっぱなこと、魁偉=カイイ=・魁壮=カイソウ=)、魁甲(カイコウ=科挙で首席で合格した者、状元=ジョウゲン=、魁選=カイセン=・魁星=カイセイ=)、魁士(カイシ=すぐれた男子)、魁首(カイシュ=集団の親分、かしら、首魁=シュカイ=・魁党=カイトウ=)、魁帥(カイスイ=親分、かしら)、魁然(カイゼン=大きく目立つさま、ほこらしげに孤立しているさま、超然)、魁頭(カイトウ=何もかぶらない頭、むきだしの頭)。

9) ショウソ=蕭踈(蕭疎)。木の葉などが落ちてさびしげでまばらであるさま。「踈」は「疎」の異体字。「まばら」。

10) リュウリ=流離。さすらうこと。根なし草のようにあちらこちら漂うこと。

11) チョウラク=凋落。落ちぶれる。人が死ぬこと。零落、冷落。「凋」は「しぼむ」の意。凋槁(チョウコウ=しぼみ枯れる、凋枯=チョウコ=)、凋残(チョウザン=枯れ残り、枯れそこなう)、凋謝(チョウシャ=しぼみ落ちる、転じて、人が死ぬこと)、凋傷(チョウショウ=しぼみ衰える)、凋瘁(チョウスイ=やせ衰える、凋悴・凋衰=チョウスイ=)、凋喪(チョウソウ=元気がなくなる、意気消沈する)、凋年(チョウネン=くれていく年)、凋梅(チョウバイ=花の落ちた梅の木)、凋弊(チョウヘイ=衰えてだめになる)。

13) フウジン=風塵。風と、ちり。わずらわしくけがらわしい物事のたとえ、俗事・俗世間のこと。

14) ソウゼン=愴然。つらさにうちひしがれるさま。愴愴(ソウソウ)とも。「愴」は「いたむ」。






新橋金春は、当時の東京で一、二を争う色街。今の銀座八丁目あたり。しかし、やや下品のきらいがあり、風流を旨とする柳橋とはやや趣が異なるようです。阿園と阿栄の二人の芸妓が登場してから柳橋の雰囲気が一変しました。中でも阿園は見た目も美しく芸も優れているばかりか、年を経てからは客を立てつつ若手妓女の育成にも専心したそうです。柳北は「妓中の君子」と男子に喩えて最大の賛辞を贈っています。彼女が育てた中でも阿鳥が一番だという。才能はありながらひけらかすことはなく、外に出て来る物は円やか。親には孝行を尽くし、人と接するに温良恭倹譲、声を荒らげる場面は一度も見せず、「良妓」だという。しかしながら、この二人ともがここ最近相次いで芸妓の世界から足を洗ってしまった。これから誰が柳橋を引っ張っていくのだろうか。目すべき芸妓も見当たらないまま、昔、若い頃、友人の竹西坡と故柳橋の妓楼の壁に書きつけた詩を思い出します。なまめかしい歌を聞きながら酒をすすめて酔う空高い秋。気持ちが楽しくなればなるほどかえって愁いの気持ちも起こる。門の柳は葉が抜け落ち美人もいなくなる。いつまでも追憶の気持ちがこの楼閣に残っていよう。その友の西坡も病に伏し北の地に流れていった七八年前。そのころの芸妓たちはみないなくなりまばら。我が身を振り返れば俗世に揉まれ故柳橋を通ればあの木も老いている。時間の経過を感じて鬱然とならざるを得ない。だれか同じ気持ちでいてくれないのだろうか。いや、わたししかいないのだ。御一新の世に天地間無用の人となり果てたこの成島柳北しかおらんのだ。この気持ちの分かる男は。。。。改めて時代の変化を肌で感じた瞬間。柳橋の変化は己の変化を反映していたことに気付き、愕然と呆然と怛然とするしかありません。
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Author:char
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2006.3  漢字学習スタート
2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
2007.10 1級合格①
2009.2 1級合格②

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