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長恨歌ワールドに浸り「もののあわれ」にとらわれる=「柳橋新誌」二編(37)

成島柳北の「柳橋新誌」(岩波文庫、塩田良平校訂)二編シリーズの37回目です。白居易の長恨歌をモチーフにして、柳北が考える「柳橋一番」の芸妓の思い出話を綴ります。久しぶりに柳北の漢詩が登場します。岩波文庫では読み下し分しか載っていないので、折角ですから柳北全集(近代デジタルライブラリー)を参照して白文も掲載しておきます。

(これを機に長恨歌を復習するのもいいかもしれません。カテゴリー欄〈→〉の「漢検問題・長恨歌」からどうぞ)


天宝の後闈(オクムキ)三千の1)■■(ヂヨチウ)、美ならざるに非ず麗ならざるに非ず。而して明皇独り2)■■(ヤウキヒ)に恋々たる者は何ぞや。蓋し傾国絶世の3)■■(エラモノ)、4)セキトク奇才の士と一般(オナジ)、一生能く幾人に5)■■(デアフ)するを得る耶。余十年間識る所の柳橋の紅裙を歴算するに、其の色芸皆相伯仲(ニタモノ)、未だ一個の佳人一笑百媚多少の6)フンタイをして顔色無からしむる者を見ず。然れども強ひて之を其の中に求むるに一人有り焉、其の名阿清と曰ふ。麗質天成にして沈静、言寡し、之を望むに7)エイゼンたる美玉、之に接するに温然たる春風、余初め之を友人永芳山の家に見る。年紀三五。余詩有り、云ふ。

夭桃花上露に声無し
深く仙扃を鎖して夢驚かず
他日劉郎若し相訪はゞ
8)タンシン一笑始めて相迎へん


■白文

夭桃花上露無声
深鎖仙扃夢不驚
他日劉郎若相訪
■■一笑始相迎



■戯訓語選択。

1) 「ジヨチウ」
2) 「ヤウキヒ」→楊貴妃のこと。
3) 「エラモノ」
5) 「デアフ」


タイシン・ヒヒン・チンカ・ドウチャク・ユウブツ・オウユウ




■正解

1) ヒヒン=妃嬪。皇后以外の天子の第二、第三の夫人。女官。

2) タイシン=太真。唐の玄宗皇帝の妃、楊貴妃のこと。

3) ユウブツ=尤物。目だってすぐれたもの、美人・美女。

5) ドウチャク=撞着。つき当たる。考えの前後に辻褄の合わないことをいう場合もあるがここは違う。



4) セキトク=碩徳。充実した人柄、それを備えた人。

6) フンタイ=粉黛。おしろいと、まゆずみ。化粧をした美女をいう。粉白黛黒(フンパクタイコク=美人がおしろいをつけてまゆずみをぬって化粧すること)。

7) エイゼン=瑩然。玉の光のあざやかなさま。「瑩」は「あきらか」「ひかり」と訓む。瑩潤(エイジュン=つややかなさま、鈍い光沢のあるさま)、瑩徹(エイテツ=明らかで、透き通っている)。

8) タンシン=丹唇。あかくて美しいくちびる。丹脣(タンシン)とも。



」(イ)は「周りを囲んだ宮中の奥向き、后妃のいる所、女性の住む奥座敷」。江戸幕府でいえば大奥。ここは明皇(=玄宗皇帝)の住む宮殿の後宮をさす。ここのくだりには、長恨歌のワードがふんだんに鏤められています。「六宮粉黛無顔色」「廻眸一笑百媚生」「後宮佳麗三千人」。楊貴妃のような絶世の美女に人生で何人と遇うことがあるのだろうか。柳橋に十年来通っているが、どれも大体似たような色香。強いて一人を挙げるとすれば阿清。年はまだ十五だった。そんな阿清の姿を、柳北は漢詩で褒めそやします。「夭桃」はまだ十五歳の阿清。まだ露が無いウブな花をたたえており、どんな男も近づくことができないように深く「仙扃」(仙界と地上をつなぐ扉の閂)を鎖している。夢から目が覚めない。ところが、そのうちに「劉郎」(イロオトコ)が現れてにっこり笑って出迎えて、女になる日が来るだろう。色艶も瑞々しい少女から色気たっぷりに女に変身する日も近いが、その時まではその初々しさを賞でようではないか。遊客にとって芸妓を先物買いするかのごとく若いうちから目を付けることも醍醐味だったのでしょうね。ちころが、そんな阿清も病に苦しみ夭逝してしまいます。


阿清の名一時9)キョウボウを10)ケイトウし、而して常に多病に苦しむ。壬戌の秋11)■■(ハシカ)盛に行はれ、阿清も亦病んで床(トコ)に在る数旬、竟に起きず。年僅かに十七。芳山之を吊するに詩に云ふ。


12)コクショク古今相遇ふ稀なり
多情涙尽きて血衣を沾す
夕陽人は吊す孤墳の下
野菊香残して老蝶飛ぶ。

■白文
■■古今相遇稀
多情涙尽血沾衣
夕陽人吊孤墳下
野菊香残老蝶飛



余其の韻を次いで以て之を哭す。


旧情説かんと欲して聴く人稀なり
涙は滴る当年の旧舞衣
借問す13)ジョウガ何れの処にか去る
夢魂長く月中に向つて飛ぶ

■白文
旧情欲説聴人稀
涙滴当年旧舞衣
借問■■何処去
夢魂長向月中飛

芳山亦月を隔てゝ歿す。噫才子佳人天之に年を仮さず、真に痛むべき哉。






9) キョウボウ=教坊。妓女や俳優が技芸の教習を受ける所。

10) ケイトウ=かたむきたおれんばかりに名が轟くこと。

11) 「ハシカ」=麻疹。

12) コクショク=国色。国じゅうで最も美しい女性。「国容」とも。劉禹錫の詩では「牡丹」。

13) ジョウガ=嫦娥。古代、伝説上の美人。弓の名人の夫が西王母からもらってきた不死の薬を盗んで飲み、月に逃げたという。「コウガ」の読みもあり。





阿清は十七歳でこの世を去ります。柳北の友人である芳山と柳北がそれぞれ彼女を悼む詩を詠んでいます。五言絶句の「稀」「衣」「飛」の韻を踏んでおり、各人の思いを表出。「蝶飛」と「嫦娥」を上手く対比させて幻想的なワールドを描き出しています。その芳山も次の月に歿します。「才子佳人天之に年を仮さず」と嘆く柳北、源氏物語よろしく「もののあわれ」にとらわれて涙します。
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Author:char
不惑以上知命未満のリーマンbloggerです。
言葉には過敏でありたい。
漢検受検履歴
2006.3  漢字学習スタート
2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
2007.10 1級合格①
2009.2 1級合格②

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