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男女共同参画社会を先取り?妓女が華麗に転身=「柳橋新誌」二編(36)

成島柳北の「柳橋新誌」(岩波文庫、塩田良平校訂)二編シリーズの36回目です。柳橋の芸妓が芸を売ったり、色を売ったりするだけでなく金の亡者になるばかりか、そのうち役人になるのも現れるのではないか?―そんな予感を茶化し半分ながら口にする若者の駄弁りの続きです。


乙道ふ、諸を置け(オキヤアガレ)。近来彼等銭を獲る多し、故に1)■■風(オゴリガツキ)を為し巻毛(チヂレツケ)2)ビンジョウに漫に黄金釵(ムクノカンザシ)を挿(サス)む。惜しむべし(オシイモノダ)惜しむべし、早晩(イマニ)拐児に遇つて抽了され(スリニヌカレ)醜瞼泣(ナキツラヲスル)を上さん。那瞼(アノツラ)、蜂児(ハチモ)も亦肯て螫さず(サスマイ)、其の態(ザマ)見るべし。甲道ふ、否々(イヤイヤ)、彼の輩3)■■(ケチ)、夜帰るや常に4)簪釵を徹し(ヌキ)楮生(サツ)を併せて巻いて之を懐にす。何ぞ其れ5)カツなるや。乙道ふ、汝(テメエ)聞かずや、去年房八婆(フサハチババア)、書画会を中村楼(ヤ)に開く、当日諸先生皆臨む焉。6)ヒンキャクの盛なる賀金(ヨリ)の7)オビタダしき近来比無し、人皆其の会を称して滅法会と曰ふ、豈妙ならずや。余屡屡彼宅(アイツノウチ)に往く、未だ嘗て彼の墨を8)■(スリ)し9)毫を舐め所謂漢字(カラヤウ)と云ふ者を10)■(ナドル)するを見ず。而して書画会の先生と為る、真に是れ不可思議(フシギ)。妓にして書画の先生と為る者古今有ること11)なり、後来妓にして官員(ヤクニン)と為る者世間に生ずるも亦測るべからず。相視て大に笑ふ。乍ち見る12)■■(オマハリ)兵隊整々銃を荷ひ叱咤して来る。両個(フタリ)13)■■(アワテテ)橋を下りて去る。



■戯訓語選択。

1) 「オゴリ」
3) 「ケチ」
12) 「オマハリ」
13) 「アワテテ」

ケイソツ・ソウボウ・ヒリン・シャシ・ジュンラ・ゼイセイ





■正解

1) シャシ=奢侈。おごり、ぜいたく。侈奢とも。いずれの語も「おごる」の意。侈倹(シケン=ぜいたくと、倹約)、侈言(シゲン=おおげさなことば、大言壮語)、侈傲(シゴウ=おごりたかぶる)、侈汰(シタイ=ぜいたくをする、ぜいたく、侈泰=シタイ=)、侈靡(シビ=身分不相応にぜいたくすること)、侈放(シホウ=ぜいたくでわがままなこと)、侈楽(シラク=適切な程度を過ごして愉しむ)。

3) ヒリン=鄙吝。けちなこと、惜吝(セキリン)とも。「陋」は「いやしい、ひなびた、いなかくさい、けちくさい」の意。

12) ジュンラ=巡邏。見回りをして調べること、また、その人。巡視。「邏」は「めぐる、みまわる」とも訓む。邏騎(ラキ=見回りの騎兵)、邏卒(ラソツ=見回りの兵士、明治初期の巡査をこう呼ぶ、邏士=ラシ=)、邏吏(ラリ=見回りの役人)。

13) ソウボウ=匆忙。あわただしいさま。「怱忙」とも。匆匆とも。怱怱とも。




2) ビンジョウ=鬢上。耳際の髪に。

4) 簪釵=シンサイ。かんざし。両者の区別は微妙です。後者は二股の髪飾り。前者は竹製で髪の毛の間に潜り込ませる。などなど最もらしい違いはありますが、実のところは明確な区別はないでしょう。釵股(サイコ=かんざしのまた)、釵釧(サイセン=かんざしと、うでわ)、釵梳(サイソ=かんざしと、くし)。

5) カツ=黠。悪賢い、腹黒くてぬけめがない。黠獪(カッカイ=悪賢い、ずるい、狡黠)、黠慧(カッケイ=悪知恵が働く、こざかしい)、黠智(カッチ=悪賢い知恵、悪知恵)、黠奴(カツド=悪賢い奴)、黠虜(カツリョ=悪賢い野蛮人)。

6) ヒンキャク=賓客。「ヒンカク」とも。(単に)客。客分として養っておく居候。まれびと、まろうど。賓筵(ヒンエン=客をもてなす宴席)、賓位(ヒンイ=たいせつな客がすわる座席のこと)、賓次(ヒンジ=客を接待する所)、賓従(ヒンジュウ=心から服従する、多くの賓客)。

7) オビタダしき=夥しき。数や量が非常に多い。現代中国語では「仲間・連中」の意。音読みは「カ」。夥人(カジン=仲間)、夥多(カタ=非常に多い)、夥党(カトウ=仲間、くみ)、夥伴(カハン=仲間、つれ)。

■戯訓語選択、一字音読みヒントヴァージョン。

8) 「スリ」(する)→マ・ミ・ム・メ・モ。
10) 「ナドリ」(なぞる)→マツ・ミツ・ムツ・モツ。




■正解

8) マ=摩。する、なでる、さする、こする。



10) マツ=抹。「こする」「ぬりつぶす」の意。「などる」は「なぞる」。



9) 毫=ふで。筆の穂はほそい毛でつくることから。音読みは「ゴウ」。揮毫(キゴウ=筆をふるって書く)、毫楮(ゴウチョ=筆と紙、毫素=ゴウソ=)、毫髪(ゴウハツ=細い毛すじ、ほんのわずかであること)。

11) 希=まれ。めずらしい、ごく少ない、かすか。「こいねがう」「ねがう」の訓みにも注意。希覯(キコウ=まれにみる、めったに見かけない)、希書(キショ=めったに見ることのできない珍しい本)、希代(キダイ・キタイ=非常にまれで、世にも珍しい、希世=キセイ=)、希疏(キソ=まばらなこと)、希有(ケウ=きわめてまれ)。






出だしにある「オキヤアガレ」は「置きゃあがれ」。江戸っ子の言いぶりで「やめてくれよ、よせやい」。

今度は若者乙の口上です。

乙 「御蔭でさ、最近芸妓の連中は金回りが良くなっているってよ。金持ち面してさ、金の釵ときてる。ああ勿体ない勿体ない。そのうちに掏摸にすられて泣きべそをかくなよ(この「瞼」は俗語で「顔面、顔、つら」)。蜂だって刺す価値ないさね、ぼろぼろの顔だからさ」。

甲 「いやさ、あいつらのしみったれときたら、夜仕事が終わって家に帰るとかんざしを抜いて客からもらった紙幣を巻いてしまうのさ。なんて下品なんだい」。

乙 「お前さ聴いたことないかい。去年中村屋の房八婆あが「書画の会」なるものを開いたのさ。多くの客どもが御祝儀持って駆け付け、そりゃ賑やかだったらしいぜ。滅法会っていう名前が付いたそうな。だけどさ、変な話さ。中村屋にはよく行くんだけど、墨や筆など一度も見たことないし、漢字のお手本を模写しているところなんざお目にかかったことはない。本当に不思議な話さ。妓女が書画の先生になるなんて古来まれなこと、聞いたことないさ。こんな調子ならそのうち、役人になる妓女が出てきてもおかしくないさね」。

二人とも大笑い。銃を抱えたお巡りさんから怒鳴られて一目散に両国橋から逃げ出します。

中国・明末秦代の妓女は芸や色を売るだけではなく「教養」をも売り物にしたようです。詩や画を嗜み、知識人と交際して一大文化サロンの拠点を形成もしました。妓女も知識人を自任していた。どうやら柳橋の芸妓も後れ馳せ乍ら目覚めたのかもしれません。それが文明開化の恩恵なのかどうかは知りませんが。。。若者二人は昔を知っている設定ですから、柳北の若い頃をイメージしているのでしょう。羽振りの良くなった妓女たちは新たな世界へと踏みだそうとしているが、その方向は正しいのかどうか懐疑的です。自ら崩壊への途を歩んでいるのではないか。役人になるかもしれないとは現代社会の女性の地位向上、男女共同参画社会を予言しているのかもしれません。
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Author:char
不惑以上知命未満のリーマンbloggerです。
言葉には過敏でありたい。
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2006.3  漢字学習スタート
2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
2007.10 1級合格①
2009.2 1級合格②

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