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猫に小判 柳橋の妓女に鰹節 ん?価値が分かるのかぁ?=「柳橋新誌」二編(34)

成島柳北の「柳橋新誌」(岩波文庫、塩田良平校訂)二編シリーズの34回目です。最近江戸の犬の数が減ったという瞽人の按摩師が遊客に漏らします。すなわち、江戸に人口が減った証であり、これを以て江戸がさびれているとの結論。翻って、その代わり栄えているものもいるというのですが、それが猫。柳橋にいる猫ども。さてさて、どうしてなのでしょうか。


瞽道ふ、近年此の地猫1)■(カズ)〔都俗戯れに声妓を称して猫と曰ふ、三絃皆猫皮を張るを以て也。〕日に殖(フエル)す、亦狗の減するに頼る耶。奴の宅2)シリン皆猫窟(ネコノス)。聞く往年同閭(ヒトツナガヤ)左次平なる者、四国を巡つて3)■(サル)と為る、方今4)■■(チヨウナイ)の女児皆坐(ヰナガラ)して猫と為る。何ぞ其の術の捷きや。奴思ふに公(ダンナ)亦猫を愛する者、聞く近来猫の価頗る騰る。一隻(ピキ)を買ふ必ず一円金を5)ふ、諺に曰ふ猫に円金(コバン)とは、豈信ならずや。今日猫の盛なる驚くべし、小猫は論ぜず、独り大猫を算するに一百五十名有り、試みに一名一日一円に6)るを以て之を計るに、一月の金四千五百円、噫亦盛なる哉。奴の先師(シシヤウ)赤西検校(アカニシケンコウ)に遺訓(ユイクン)あり、曰く、神仏は其の道を信ずべからず、衣食は其の美を択ぶべからず、親戚相愛すること勿れ、7)ホウユウは厚く交はること勿れ、夙に興き夜は寝ね爪に火(ヒヲトモシ)して以て金に算(ソロバン)せよ、唯々利是れ貪れば則ち一生安楽なりと。真に是8)■■(メイゲン)、奴(ワタクシドモ)不肖遺訓を守る能はず、今に至つて赤貧半文銭を貯へず、人にして猫に若かざる者、毎に隔壁(トナリ)の猫輩食ふ所の9)香(□□□ノニホヒ)を嗅いで以て飯する耳。忽ち聞く婢階下より報じ曰ふ、令寵(マイリマシタ)来ると。瞽忙はしく道ふ、猫の話(オハナシ)此に尽く、尊筋亦頗る10)む(スヂモヨホド□□□マシタ)速々(オハヤク)寝に就いて可なりと。

■戯訓語選択、一字音読みヒントヴァージョン。

1) 「カズ」→アン・イン・ウン・エン・オン。

3) 「サル」→サ・シ・ス・セ・ソ。



■正解


1) イン=員。人の数。

3) ソ=狙。テナガザル。狙候(ソコウ=ねらいうかがう)、狙公(ソコウ=サルを飼う者)、狙猴(ソコウ=サルのこと)、狙詐(ソサ=すきをねらってだます)、狙伺(ソシ=サルが物をねらうように、ひそかにうかがう)。




2) シリン=四隣。四方の近所、四方の隣人。



■戯訓語選択。

4) 「チヨウナイ」→町内の意。

8) 「メイゲン」→名言の意。

チョウボウ・シゲン・イチボウ・モウゲン・ガイク・リョコウ




■正解

4) イチボウ=一坊。この「坊」は「まち」の意。市街地の一区画。坊間(ボウカン=まちの中、世間)。

8) シゲン=至言。最も道理に合ったことば、真実・事情などを言い当てていることば。






5) 費ふ=つかふ。まとまった金品をばらばらに分散させ使い減らす。費隠(ヒイン=君子が踏み行うべき道は骨が折れるが、人目にはつきにくいこと)。

6) 値る=あたる。役目や順番にまともにあたる、「あたいする」とも訓む。価値がそれだけあるということ。

7) ホウユウ=朋友。友達。中国語では「ポンユウ」。「朋」は「とも」。朋輩(ホウハイ)・朋儕(ホウサイ)・朋儔(ホウチュウ)・朋徒(ホウト)ともいう。朋僚(ホウリョウ)もあり。

9) 鱣=ウナギ。タウナギ。音読みは「セン」。鱣序(センジョ=教室、講堂、鱣堂=センドウ=)。

10) 施む=ゆるむ。戯訓に入るのは「ユルミ」。「のびる、のばす」の意。長く伸びる、のびて移っていく。この場合は「イ」と読む。施施(イイ=のびのびとするさま、ゆるゆるとするさま)。





瞽人の按摩師の話頭は、狗から猫へと転じます。「この柳橋にも猫の数が増えました。恐らく犬が減ったからでしょう。私の家の近所も猫だらけです。むかし同じ長屋に住んでいた左次平という男が、四国八十八カ所巡りをしていたらサルになったという話を冗談で聞いたことがありますが、今の街の若い娘ときたらいつの間にやら猫になってしまうんです。その術の素早いことといったらありませんよ。旦那さんは猫のことがお好きでしょうが、近ごろは猫と遊ぶ値段も跳ね上がっているとお聞きでしょう。一匹と遊ぶに必ず一円が必要ですね。俗にいう猫に小判とはこのことですよ。猫の勢い目を見張りますわ。子猫はもちろん、大猫ときたら150人ですよ。一日一人が一円を稼いでごらんなさい。ひと月で4500円ですよ。なんとまあ大金だこと。私の師匠に赤西検校というのがいるんですが、有り難い教えを残してくれております。神仏の道は信じてはいけない。衣食は贅沢ではいけない、親戚を愛してはいけない、友達とは深く付き合ってはいけない、朝は早く起きて夜は早々に寝る、爪に火をともして金は大事に使え、こうすれば金がたまって一生安楽に暮らせるのだ。いやいや至言ですよ。師匠に似ないのでこの教えはなかなか守ることができないので、ここに至っても貧乏暮らしから抜け出せはしないんですが、かといって猫の真似はできませんよ。隣に住んでいる猫の食うウナギの匂いだけ借りてご飯を食べている始末ですわ」。と、下女の呼ぶ声が聞こえます。「旦那、お姉さんが帰ってきましたよ」。按摩「ささ、猫のお話はここで御仕舞です。ちょうど筋もほどよく緩んでいます。お姉さんと牀を共にしてもOKですよ」。

聊か按摩の長口舌がすぎたようですが、柳橋の隆昌を言い当てています。客の氏素性は全く明かにしていませんが、恐らく旧薩長藩の士族と見ました。彼らが柳橋を支えているのです。幕府を転覆させた張本人であり、時代が明治に代わって政治に主役となった彼らが猫におまんまを食べさせているのです。按摩が言うところの「狗」は旧江戸時代の中枢を象徴しているのではないでしょうか。すなわち、柳北自身のこと。廃れたのは江戸時代。新たに「猫」が中心の明治時代になったことを遠回しながら寓意しているのではないか。女が簡単に猫になる風潮を非難しているのですが、それでもそうせざるを得ない事情、社会情勢をあてこすっている。そして、その猫に餌を与える明治政府の役人ども。妓女の金銭感覚も麻痺して、俗臭芬芬たる柳橋の雰囲気に嫌気を感じながらも、そこにこそこの国のいまの「現実」が見えると看破する柳北でした。
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Author:char
不惑以上知命未満のリーマンbloggerです。
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2006.3  漢字学習スタート
2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
2007.10 1級合格①
2009.2 1級合格②

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