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二股かけた妓女が一人を振る刹那 男の取るべき行動や何奈=「柳橋新誌」二編(30)

成島柳北の「柳橋新誌」(岩波文庫、塩田良平校訂)二編シリーズの30回目です。本日のテーマは、二股をかけていた妓女が竟に身受けをしてもらうため、一人に決めるシーン。十人の情夫と付き合って父親の不明なる子を身籠もった淫乱妓女のお話はありましたが、“真剣”な付き合いの中で伴侶となるべき「男」を選択する真面目なお話は初めてです。恋の駈け引きばかりが取り沙汰される花街・色街の遊びですが、妓女にしても自分の人生を決断する迚大きな岐路に立たされることがあるのです。男にとっては遊びかもしれないが、女は真剣。男のいい加減さの裏返しである真剣さと女の一見不真面目な真摯さの間には、恐らく永遠に埋まることのない懸隔がある。別れ話を切り出した妓女と、別れ話を切り出された遊客の真剣勝負が語られます。聊か長いので上下二回に分けます。



一妓二1)コウカク有り。一は商にして一は士、士婦有りて商家未だ娶らず。妓意を商に属し、而も好みを士に絶つこと能はず。頃日(コノゴロ)意を決して将に商に従良(カタヅク)せんとす。一夕士人と酌み、酒熟して将に寝ねんとす。妓曰く、妾君の2)■■(ゴヒイキ)を蒙る久し矣、3)シセイ忘れず、妾長く4)キソウを執つて以て君に事へんと欲す。而して妾が母許さず、母商家に生長し5)■■(ブケ)と親を結ぶことを願はず、且つ君6)■■(オクサマ)の故国(オクニ)に在る有り、縦ひ妾をして紅払(カケダシ)を学びて以て其の願を成すも、窃かに恐る銀瓶縄絶へ(スヘガツマラナイ)7)ギョクシン中より折れんことを。却つて是れ君を煩はす耳。8)コジン某久しく妾を愛す、毎に招いて以て酒を侑む。彼未だ嘗て一回(イチドモ)も妾に説くに9)■■(イヤラシキ)の事を以てせず。妾君に請はずして去るに忍びず今告るに実を以てす、君を騙さざる所以也。願くは一盃を飲み快く一夕を眠り、以て10)■■(オワカレ)を為さん。君若し遊時11)■■(アヒテ)に欠くことを思へば則ち幸ひに12)■■(シンコ)の名を掲ぐる者有り、13)キョウエン愛す可し、妾君の為に14)して以て恩情に報せん、君の意若何。


1) コウカク=狎客。馴染みの客。常連。



■戯訓語選択の問題。

2) 「ゴヒイキ」
5) 「ブケ」
6) 「オクサマ」
9) 「イヤラシキ」
10) 「オワカレ」
11) 「アヒテ」
12) 「シンコ」


コウグウ・エイケツ・シンギ・レイハイ・ケンコ・シリュウ・チンセキ






■正解

2) ケンコ=眷顧。情をかけてひいきする。愛顧。

5) シリュウ=士流。士人の仲間・社会。士族。もと武士で、明治維新後は華族と平民の間に位置する階級。

6) レイハイ=令配。おくさま。夫人の敬称。「配」は「つれあい」との表外訓みがあり。継配(ケイハイ=後妻)、匹配(ヒッパイ=妻、夫妻)。

9) チンセキ=枕席。まくらとしきものの意。寝具、ねどこ。女が男の意に従って共寝をすること。

10) エイケツ=永訣。ながの別れ。通常は死別をいうが、ここは男女の別れをいう。永辞とも。「永」は「とこしえ」「とこしなえ」。

11) コウグウ=好耦(偶)。よきなかま、よき相手。「耦」は「つれあい」とも読み、「相手、パートナー、仲間」。詩経・周南・関雎にある「窈窕淑女、君子好逑」が想起されますね。好逑(コウキュウ=よい配偶者、よき連れ合い)。もともとは「二人並んで耕す」の意。耦語(グウゴ=むかいあってひそひそ話す)、耦耕(グウコウ=二人が並んで耕す)、耦刺(グウシ=二人で互いに刺し違えて死ぬ)。

12) シンギ=新妓。新しく出たての遊女・芸妓。新子とも書く。




3) シセイ=死生。死ぬことと生きること。死と生。どちらかというと「死んでも」と「死」に重きを置いた偏義複辞と見た方がいいでしょうか。

4) キソウ=箕帚(箕箒)。ちりとりとほうき。「執箕帚(箒)」(キソウをとる)と用いて「人の妻になること、嫁ぐこと、嫁娶」。箕箒妾(キソウのショウ)ともいう。

7) ギョクシン=玉簪。玉で飾ったかんざし。女性の美の象徴。

8) コジン=故人・胡人・古人・賈人・個人・胡塵からふさわしい語を択べ。


正解=賈人。商人のこと。ここは冒頭にある「二狎客」のうちのもう一人である「商」の為人をいうくだり。死んだ人でも、えびすの人でも、昔の人でも、一人の人でも、えびすのちりでもない。

13) キョウエン=嬌艶。あでやかでなまめかしい。そのような女の姿。嬌嬈(キョウジョウ)ともいう。「キョウエン」は同音異義語の「杏園、竟宴、饗宴、共演、競演、供宴、協演」でないことに留意しましょう。

14) 媒=なかだち。結婚しようとする男女の間にたって結婚の仲介をつとめる。媒娉(バイヘイ)ともいう。若い妓女を馴染みの客に紹介しようという厚遇です。





一人は士族、一人は商人。二股をかけた妓女。士族には国元に妻がいる。恐らくは旧薩長藩士でしょう。妓女を権妻にでもしようとしたのでしょう。商人は生真面目一本。妻はおらず、いやらしいこともしないプラトニックラブ。妓女とは真剣交際の末プロポーズ。妓女の方は気持ちは商人にあるのですが、士族も好みで捨てがたい。ところが、母親が商人の出であるため士族との婚姻は認めない。士族への思いもあるのですが断ち切って、今宵最後の一夜を明かしてすっぱり分かれてほしいと懇願しているのです。やはり女のプライドがあって、本妻の二番手では将来生い先が怪しいと心配になったのです。「縦ひ妾をして紅払(カケダシ)を学びて以て其の願を成すも、窃かに恐る銀瓶縄絶へ(スヘガツマラナイ)」は意味が今一つすとんと落ちない。お国にいらっしゃる奥さまに気兼ねして、一生日陰の女で暮らすのは嫌だということでしょうか。「紅払」は以前も出てきたのですが、「隋末唐初の時代、唐の太宗に仕えた宰相、李靖の愛妾。元は隋朝の権臣、楊索の侍女」。恐らく本妻に負けて末路が哀れだったという喩えとして引き合いにだしたのでしょう。妓女は士族への思いがるが故にすべてを打ち明けて区切りをつけようとしています。剰え、自分が無き後の士族のパートナーまで世話しようとさえしています。若い娘を紹介しようという。これほど律儀で美味しい別れはないと思うのですが、士族もどうやら妓女への思いは真剣だったようです。後半では士族と妓女の意地とプライドと本当の姿がバチバチと音を立ててぶつかり合います。
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Author:char
不惑以上知命未満のリーマンbloggerです。
言葉には過敏でありたい。
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2006.3  漢字学習スタート
2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
2007.10 1級合格①
2009.2 1級合格②

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