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落籍を巡る芸妓と遊客の意地と意地の相剋=「柳橋新誌」二編(21)

成島柳北の「柳橋新誌」(岩波文庫、塩田良平校訂)二編シリーズの21回目です。芸妓を請け出して妻か妾にするのが遊客の醍醐味です。それは十年前も変わらないはずですが、芸妓の質が劣化しているのにその身受け金が高騰していることに驚愕する柳北。以前、インフレが進行していることの言及がありましたが、芸妓の身受け金の高騰ぶりに至っては半端ないようです。やや長いので上下に回に分けます。

聞く頃日(コノゴロ)客有り、一妓を1)■(ウケダス)ひ去る。余其の客を識らずして其の妓を識る。妓名は阿辰(タツ)、年紀十七八、余其の眼を以て之を看れば姿色は中等の上に在り、技芸は中等の下に在り。其の1)■金を問ふ、曰く、七百円。余一驚倒れんとす。夫れ十余年間、柳橋の校書未だ七百円を獲て2)ジュウリョウする者有らざる也、阿辰は後進也、3)■を掲げ(ヒロメ)て未だ一歳に満たずして此の若き豪客に4)カイコウす。5)シコウと謂ふべし矣。而して特り阿辰の幸ならず、乃ち亦柳橋の為に一片の光彩(ケイキ)を生ずる者歟。昔阿幸〔今大幸を称す〕五百金の6)ヘイを本阿弥氏に7)■(コトハル)る。本阿弥氏之を慚ぢて名声阿幸の右に在る者を択びて阿金を獲たり。当時(ソノトキ)人皆本阿弥の豪を称して阿幸の8)■(タテヒキ)に服し、以て一美談を為す。今を以て之を視れば五百のヘイ五百の辞、9)ぞ豪且つ達と為すに足らんや。




■戯訓語選択一字ヴァージョン。

1) 「ウケダス」→ジョク・モク・ショク・ボク・ゴク・コク
3) ■を掲げる=「ヒロメ」→サキ・コウ・トキ・セキ・モウ
7) 「コトハル」→ジ・ギ・ビ・キ・シ
8) 「タテヒキ」→キツ・オン・タツ・モン・ホン・チン




正解

1) ショク=贖。あがなう。財貨を払って人の身柄をひきとる。金を納めて質物を請け出す。

3) セキ=籍。人別帳。ここはある妓女が名前を載せる人別帳のこと。「籍を掲げる」で「妓女がお披露目をすること」。披露目・広め。デビュー。

7) ジ=辞。いいわけをのべて受けとらない。「ことわる」は表外訓みでもある。

8) タツ=達。義理や意気地を立て通して張り合うこと。主に妓女が客の遊興費を立て替えること。立引・達引。これはやや難しい。ここは妓女・阿幸が大金持ち・本阿弥氏の落籍のオファーを断ったことをいう。





2) ジュウリョウ=従良。芸妓などが情人に請け出されてその妻になること。以前「ヒッコム」という戯訓が付された箇所もありました。色街・花街の華やかな“表舞台”から退き、堅気になるという意味からでしょう。

4) カイコウ=邂逅。思いがけなく出会うこと。
5) シコウ=至幸。このうえないしあわせ。「至高」や「至行」や「至交」ではないので要注意。前後の文脈を押さえましょう。
6) ヘイ=聘。贈り物をして賢者を招く。ここは妓女を妾か妻にめとること。聘君(ヘイクン=かくれた賢者で、天子に招かれたが、その招きに応じなかった人)、聘賢(ヘイケン=礼儀をつくして賢人を招く)、聘后(ヘイコウ=礼儀を尽くして迎えた皇后)、聘召(ヘイショウ=礼儀をつくして人を招く、聘命=ヘイメイ=、聘請=ヘイセイ=、聘徴=ヘイチョウ=)、聘納(ヘイノウ=礼儀をつくして正式に妻をむかえ入れる)、聘幣(ヘイヘイ=尊敬の気持ちをあらわすために、人に贈る絹の布、転じて、尊敬の気持ちを表し人を招聘する時の贈り物)、聘問(ヘイモン=贈り物をもって人を訪ねる)、聘用(ヘイヨウ=礼儀をつくして人を召し用いること)、聘礼(ヘイレイ=諸侯が大夫を国につかわす儀礼、結婚前にとりかわす結納の礼)。
9) 奚ぞ=なんぞ。どうして~だろうか(いやない)。反語用法。「いずくんぞ」と訓む場合もある。





柳橋の常識を覆すような落籍がありました。その名を阿辰という。年のころは十七か十八。今でいうならまだ高校生ですわ。芸妓という芸妓を観てきた柳北の冷徹な相馬眼によれば、容姿は「中の上」。三味線小唄は「中の下」。厳しい評価です。まだデビュー間も無い1年もたっていないので芸妓は仕方なしでしょう。見た目は柳北の好みではないというだけだったかもしれません。ところが、その請け出しの金額を聞いて瞠目する柳北。なんと金七百両という。この額は未だ嘗て聞いたことがない高額でした。滅多にお目にかかれない旦那といい出会いをしたものだと感心しきり。運も実力のうちと言ったところでしょうか。とんと不景気だった柳橋に久々に明るい話題を投げかけたと評しています。

この十年余を振り返れば、阿幸(現在は大幸と改名していますが)という芸妓が金五百両で迎えたいという本阿弥氏の申し出を断ったのが記憶に新しく、最も高額だったのではないか。本阿弥氏は悔しくてもっと上等だと評判の高かった阿金を請け出すことに成功しました。当時、本阿弥氏の豪快なオファーについて、阿幸の意地の張り合いと専らのうわさで持ちきりになったという。今になってみれば五百両で申し出る者、五百両を断る者それぞれに豪快であり、意地の強さであり、柳北の往時を偲ぶエピソードと言えました。金と欲が渦巻く花街ではありますが、そこに生きる人々の気風が感じられました。躍動感と言うか。ところが、昨今の柳北ときたら。。。。以下は次回に続きますが、ちょっとおセンチになる柳北です。永遠に続く栄華が自分にもなかったように、この街にも廃れの兆候が見えるのではないかと溜息を吐きます。
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2006.3  漢字学習スタート
2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
2007.10 1級合格①
2009.2 1級合格②

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