スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

花街で遊ぶ明治高官 文明開化と混同すなよ=「柳橋新誌」二編(4)

成島柳北の「柳橋新誌」(岩波文庫、塩田良平校訂)二編シリーズの4回目です。お上が花街を統御することの是非を論じています。むろん、柳北は程度の問題ではあるものの自由にやらせよという主張。おそらくそれは日本古来の伝統的な文化という観点に立脚しているものと思われます。それは明治政府の花街遊びが文明開化の名のもとに行われているというちょっと歪な形になっていることを憂えているからです。


往昔1)ホクリ盛んなりと雖も、柳橋熱すと雖も、未だ名公2)キョケイ(ミガラノヒト)一遊して以て其の情味を嘗むる有るを聞かず。蓋し文政天保3)■■(コノカタ)、幕府4)■■(オキテ)極めて厳にして、5)■■(ハタモト)の士と雖も遊べば即ち6)譴(□□□)有り。天朝其の弊を矯めたまひ、小過を赦し、賢才を挙げ、其の大綱を正し、其の大典を修め、花を擁し柳を抱く瑣末の事の如きは釈して問はず。故に7)シバ高蓋、時有つて蘇小の家を三顧す。彼の公子王孫深閨中に在り、畢生8)■■(アソビ)の郷(サト)に入る能はざる者、一朝放縦(ハナサレ)其の之く所に任かずこと、9)ヤカクの籠を出でて飛び、洪水の堤を決して進むが若し。其の快知る可き也。10)■■(ゲイシヤ)11)■■(タイコ)媚を捧げて来り、12)を13)して14)つ。一酌百金一弾千金、真に是れ一曲紅綃数を知らざる者なり。夫れ下情に通じ人事を解する者は、遊に若く莫き也。貴介15)■■(ヤクニン)深意を遊戯に寓(ヨセ)し、以て閭巷の情態を察せば、則ち治を為すに於いて益無しと為ず。且つ16)■■(セイヨウ)諸国の若き、帝王遊を民庶に同じくす。花旗(アメリカ)聯邦の若き、貴賤、等を殊にせず。皆是れ所謂文明開化なる者、頃歳、本邦日に旧弊を除き力めて政務を新にす、美事と謂はざる可けんや。然りと雖も徒らに酒楼の遊び娼妓の楽を以て文明開化の道と為す者は、余肯んじて其の祖を左にせざる也。




1) ホクリ=北里。色街のことですが、とくに江戸時代に栄えた吉原遊郭をいう。

2) キョケイ=鉅卿。年長者を尊敬していうことば。「鉅」は「おおきい」の意。鉅公(キョコウ=天子、偉大な人物)。「名公」(メイコウ=名高いいえがら)と合わせた戯訓「ミガラノヒト」は不明。家がら身分の高い人くらいの意でしょうか。

■戯訓語選択の問題。花街用語が多数含まれますが、これまでも何度かご紹介したものがほとんど。復習がてら挑戦してみてください。やや難解なものも含まれます。8問中6問正解で合格!

3)「コノカタ」
4)「オキテ」
5)「ハタモト」
8)「アソビ」
10)「ゲイシヤ」
11)「タイコ」
15)「ヤクニン」
16)「セイヨウ」



キカ・ホウカン・コライ・イカン・シンシン・タイセイ・キョウシャ・インポン・キンモウ・コウショ・カンガン・ゴジョウ







正解

3) イカン=以還。今よりのち。以来、以降、已来。

4) キンモウ=禁網。法律のこと。禁罔とも。法に触れて罰せられることを、魚が網にかかってとらえられることにたとえている。

5) キカ=麾下。大将に直接さしずされる部下、将軍直属の兵士、江戸幕府では旗本。「麾」は「さしずばた」とも訓む。

8) キョウシャ=狭斜。遊廓の街のこと。

10) コウショ=校書。芸者のこと。

11) ホウカン=幇間。太鼓持ちのこと。男芸者。幫間とも書く。「幇」は「なかま」「たすける」とも訓む。幇助(ホウジョ=わきから力を添えて手伝うこと)、幇党(ホウトウ=なかま)。

15) シンシン=搢紳。官吏および官吏階級に属する人。官吏は礼装として「紳」(からだを締める帯)をつけ笏をさしたことからいう。縉紳もOK。搢(縉)笏(シンコツ=笏をさしはさむ)。

16) タイセイ=泰西。西洋のこと。西のはて。「泰」は「はなはだ」とも訓む。




6) 譴=とがめ。「せめ」「つみ」とも訓める。音読みは「ケン」。譴呵(譴訶、ケンカ=きつく罪をせめてしかる)、譴咎(ケンキュウ=罪や過失についてのとがめ)、譴告(ケンコク=罪を告げて相手をいましめる)、譴責(ケンセキ=罪をせめて叱る、過失・非行をおかした官吏に対する懲戒処分)、譴謫(ケンタク=罪をせめて罰する、とがめて遠い地に左遷する)、譴黜(ケンチュツ=罪過をせめて、官位をさげる)、譴怒(ケンド=罪をせめておこる)、譴罰(ケンバツ=あやまちをせめて処罰する)。

7) シバ=駟馬。四頭立ての馬車、その四頭の馬。次の「高蓋」(コウガイ=高車ともいう)は屋根のおおいの高い立派な車のことで、「駟馬高蓋」で「貴人の乗るりっぱな馬車」をいう。

9) ヤカク=野鶴。野に居るツル。閑雲野鶴(カンウンヤカク=俗世間との関係を絶って超然としている隠者に喩える)。

12) 頤=あご。「おとがい」とも訓む。この訓みの方がいいかもしれません。音読みは「イ」。頤指(イシ=あごでさしずする、人をかってにつかうこと、頤使=イシ=、頤令=イレイ=)、頤養(イヨウ=養成する、はぐくむ)、頤和(イワ=園の名、北京の西北、万寿山のふもとの昆明湖畔にあり、清王朝の皇帝の避暑地として用いられた、現在は人民公園)。

13) ダす=朶す。たらせる、下へたらすように動かす。↑「頤」と組み合わせて使用して「朶頤」(ダイ・イをダす=あごを動かして食べようとするさま)、朶雲(ダウン=たれ下がった雲、他人から来た手紙の敬称)。

14) 候つ=まつ。あらわれるのを待ちうける。「まつ」はほかに、「俟つ、待つ、竢つ、須つ、佇つ、竚つ」がある。




江戸後期の文政天保年間ですら、幕府は法度を厳しくして、幕臣が吉原、柳橋の遊郭で遊ぶことを禁じました。ところが、朝廷、すなわち明治新政府になると、いささかそれは厳し過ぎるとして、その禁遏を弛めました。「花」を賞でて「柳」(おそらく、仙石官房長官の言いたかったのはこの柳腰)を抱くぐらいいいではないか。小さきことである。それ以降、高級官僚が挙って芸妓の楼に足繁く通うこととなった。「蘇小」は「蘇小小」のことで中国狭斜の芸者妓女の代名詞です。往きたいところに往けばいいではないか。隠者とて籠を飛び出れば気のままに任せればいい。洪水の水もどこにまで流れつくのか分からないではないか。それはそれは気持ちのよい遊びです。芸者や幇間がみなみなお手を拝借と持ち上げ、あごを垂れ下げてお恵みを待っている。飲めや歌えのどんちゃん騒ぎ。金の心配は後からでいい。苟も上に立つ者は下の者の気持ちも知らねばならぬのだ。民の実情知らずして、為政者たることできはせぬ。それを知るには遊びが一番。一挙両得、一箭双雕。楽しく真面目に“仕事”をしましょう。西洋諸国も同じこと。王族はみな遊び好き。アメリカ合衆国ときたら下々まで文明開化、貴賤を問わず楽しく暮らす。わが国もそれにならって御一新。幕府はいらない。新政府よこんにちは。ああ、楽しい哉うれしい哉。それでも、遊郭で遊ぶことこそ文明開化というのなら、それには与せぬ、できませぬ。最後の「肯じて~せざる」は「~することを承諾しない」の意。漢文訓読用法です。「祖を左す」は今一つ不明ですが「左」に「たすける」の意があることから、賛成・同意の意であると思われ、斯様に意訳してみました。

この段は短いながら豊富な語彙のオンパレード。貴賤を問わず柳橋をはじめ遊廓で遊ぶさまを謳っています。悪いことではないと。西洋諸国も皆そうだという。真似することから始めてみてはいかがかとも受け取れます。しかし、最後には痛撃も。文明開化を履き違えてはいけないぞ。遊里遊郭の遊びは古来、日本の伝統なのだから。何も西洋の真似であろうはずがない。もっと本質的な部分を認識し、玩わうことでないと、上辺の表面的な部分だけで真似ごとととらえるならば、消え去るのは早い。柳北は既に看破っています。皮相な文明開化の末路を。。。でも、西洋諸国を自分の目で観に行くのです。それはこの二編のまとまった明治4年3月の明くる年、明治5年9月のことなのです。
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

profile

char

Author:char
不惑以上知命未満のリーマンbloggerです。
言葉には過敏でありたい。
漢検受検履歴
2006.3  漢字学習スタート
2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
2007.10 1級合格①
2009.2 1級合格②

calendar
07 | 2017/08 | 09
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -
recent entry
recent comment
category
monthly archive
search form
RSS links
links
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。