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中秋も三冬も季節を問わず窈やかな花街を吟う=「柳橋新誌」(16)

成島柳北の「柳橋新誌」(岩波文庫、塩田良平校訂)シリーズの16回目です。華やかな柳橋の殷賑たる風景を、美辞麗句の限りを尽くして飾り立てています。春夏秋冬、季節を問わず、男が蝟集する、中国に負けず劣らず本邦が誇るべき花街である。そんなことを高らかに謳い上げています。今回のくだりも美文です。できうれば音読してじっくりと響きを玩わってみてください。


東船西舫柁(カヂ)撃ち櫂(サホ)摩し、数里の大江1)イッペキ波を見ず。或は館舫(ヤカタ)を中流に放つて漢武汾河の遊に擬し、或は2)ケイカ絃歌を尋ね去り、恍として香山瀋陽の愁有り。糸竹暁に徹し、談笑歇むとき無し。橋下州外涼飈骨に砭し、城中三伏の熱(アツサ)何物為るを覚へず。身清く心爽かに、真に是れ嫦娥に伴つて3)センクツ(ツキノミヤコ)に入る、博望の仙槎未だ必ずしも天河に向つて発せざる也。七夕星会の夜、柳橋は乃ち人間の4)ウジャク橋、織女は善く弾(ヒク)ず、雲綃を織るに暇あらず。牽牛は牛を売て飲む、5)カンスイ宵を連ぬ。連宵の合歓(デアヒ)天上の一歳一会の期太だ6)かなるに似ず。





1) イッペキ=一碧。川の水があおいさま。一碧万頃(イッペキバンケイ=見わたす限り青々と広がる海や川や湖の形容)。「碧」は「みどり」。

2) ケイカ=軽舸。軽快に進む小舟。軽舟(ケイシュウ)・軽艘(ケイソウ)とも。このあとの「館舸」には「ヤカタ」の戯訓が。屋形船のことですね。

3) センクツ=蟾窟。月をいう。戯訓は「ツキノミヤコ」。「蟾」はヒキガエルのことで、月に栖むとされる伝説に由来する。ウサギも住んでいるため、蟾兎(セント)とも。このほか、蟾魄(センパク)・蟾盤(センバン)・蟾輪(センリン)・蟾桂(センケイ=カツラの木が植わっているともされる)、蟾宮(センキュウ=月にあるという宮殿、科挙に合格して宮殿にあがる資格を得ること)、蟾光(センコウ=月の光)。古代中国では、蟾が月を食べる結果、月が欠けていくと真剣に考えられていた。ま、お洒落な発想ではありますが。。。

4) ウジャク=烏鵲。カラスとカササギ。曹操の短歌行に「月明星稀、烏鵲南飛」がある。ここは「烏鵲橋」(ウジャクキョウ)と用いており、「カササギが羽をつらねて作る橋のこと、陰暦七月七日の夜に、牽牛星と織女星があうために天の川にかけわたすというロマンチックな橋です」。

5) カンスイ=酣酔。快く酔う、ひどく酒に酔う。ここは前者。

6) 迢か=はるか。弧を描いて遠くにのびているさま。音読みは「チョウ」。迢迢(チョウチョウ=弧を描いて高くそびえるさま、はるかに遠いさま、うらみなどがいつまでも絶えないさま、夜のふけゆくさま)。迢逓(チョウテイ=はるかに遠く点々と続くさま、高くつらなるさま、迢遥=チョウヨウ=)。



まずは水上の風景。「数里の大江」=隅田川が数里に渡り、舟で犇めき合い白波が見える隙もない程だったという。「漢武汾河の遊」とは漢の武帝が汾河(現黄河に注ぐ川の名)で遊び「秋風辞」を詠じた故事があります。三味線や謡曲の歌声も艶やかに響き、酔客と芸妓の軽やかな談話は途切れることがない。「博望の仙槎」とは蒙求にある「博望尋河(ハクボウジンガ)」の故事にちなむ。博望公(張騫)は漢の武帝の命を受け西域、月支国に使いに出たが、西域起源の種々の野菜や果実などを初めて中国にもたらした人物として伝わる。その一つに西域探訪の後、流れて来た木の枝に乗り黄河を泝り、その源を訪ね極めて、銀河にまで達したという伝説もあります。その木の枝を柳北は「仙槎」(仙人の槎)と称しています。また、牽牛と織女の七夕の物語では「雲綃」(ウンショウ)、雲を「あやぎぬ=綃」に喩えている。古詩十九首に「迢迢牽牛星」があります。柳橋でなら芸妓が踊り歌い、酔客がだらしなく酒を呷って、一年に一度ではない、しょっちゅう“出会っている”よ~ん。。



況や中秋天朗かに気晴る。楼に登つて興を逞しうするの廋公有り、舫を泛べて7)ショウカするの袁郎有り。月は逾々白く風は逾々清く、8)に加ふるに芳醑(ヨキサケ)佳蔌(ヨキサカナ)、焉に加ふるに嬌絃哀簧、9)シュビ松(シユビノマツ)下10)を繋ひて酌み、百本11)  )の辺、11)を鼓して行く。既にして秋光漸く老ひ、霜気凄涼菊を墨東の園に訪ひ、楓を真崎(マツサキ)の荘(リヨウ)に観る。隠逸の花、視て富貴の相と為し、車を停むる帷中に顔舜英の如きを見る。三冬12)ジャクマクの候に13)んでは、則ち俗子傖父(イナカヲヤヂ)の履跡已に絶えて得意の遊び以て作すべき也。陋妓拙嬢の技を售る、方に息んで、至情の事以て適すべき也。風凍霰濺(ソソグ)の夜も綺楼春有り、情夢正に暖かに酒気常に薫ず。知らず、二州橋上の月影人を凍殺するを。








7) ショウカ=嘯歌。声を細く長くひいて歌を歌う。嘯詠(ショウエイ)とも。「嘯」は「うそぶく」とも訓み、「口をすぼめて長く声をひくこと、口をすぼめて口笛を吹くこと」。嘯風弄月(ショウフウロウゲツ=風に吹かれ、詩歌を口ずさみながら、月をながめる、自然の風景をめで、風流な気持ちにひたること)。

8) 焉=これ。「これに」「これより」の一部。一字で「於是」「於此」の意。比較の対象や対象の意。漢文訓読語法の一つ。

9) シュビ=麈尾。払子のこと。僧が講話する際、手に持って振る道具。シフゾウの尾を用いる。

10) 纜=ともづな。舟を岸などにつなぐ綱。「ともなわ」とも訓む。

11) 杙=くい。戯訓は音便で「グイ」。牛馬をつなぐためのくい。音読みは「ヨク」。以杙為楹(ヨクをもってエイとなす=小さいくいを家の太い柱とする、つまらぬ人間を重く用いることのたとえ、韓愈の「進学解」が出典)。

12) =かい。水をかいて舟を進める道具。音読みは「エイ」。

13) ジャクマク=寂寞。ひっそりして静かなさま。「セキバク」とも読む。「寂莫」とも書く。

14) 迨んで=およんで。「迨ぶ」は「およぶ」。おくれずに間に合う、時期をはずさない。音読みは「タイ」。迨吉(タイキチ・よきにおよぶ=よい時期をのがさない)、迨及(タイキュウ=およぶ、まにあう、逮及=タイキュウ=)。





「廋公」も「袁郎」もよく分かりませんが、詩人なのではないかと思われますが詳細は不明です。中秋の名詩を残しているのではないでしょうか。


「醑=酉+胥」は「ショ」。こした酒。「蔌=草冠+束+欠」は「ソク」。野菜の総称、あおもの。「芳醑佳蔌」(ホウショカソク)は「美酒嘉肴」。「傖」(ソウ)は「都会的センスのない者、いなか者」。傖人(ソウジン=ぱっとしないいなか者、南方の呉の地方の人が、北方の黄河沿岸地方の人を卑しんだ呼称)。季節は秋から冬へ。それでも柳橋の賑わいは聊かも衰えるどころか、風情を増しているというのです。ふう~。
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Author:char
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2006.3  漢字学習スタート
2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
2007.10 1級合格①
2009.2 1級合格②

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