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先生降参です…手に負えぬ難解なる中国の妓女列伝=「柳橋新誌」(14)

成島柳北の「柳橋新誌」(岩波文庫、塩田良平校訂)シリーズの14回目は、初編のまとめのくだりが続きます。幕府将軍に四書五経などの講義をするだけあってさすが柳北の文章は難解な譬えが多い。謝安石の故事は未だに謎です。世のぼんくらな男性諸君に花街の実態を知らしめることによって自己の身を律する参考にしてほしいという儒教チックな教えに基づくものだというのは何となく分かります。今回のくだりは固有名詞が多い。しかも、中国の妓女。これは知らないし、調べようにも手元の資料は皆無。ネット検索で偶拾ってきて繋ぎ合わせて自分流に加工するしかないのですが骨の折れる作業です。


今の君子は其の論太だ1)   )、其の行太だ絞(クビル)にして、未だ嘗て風流情趣の何物為るかを知らず、而して又2)カンプ驕妾の害甚だ嬌歌妙舞の人に過ぎたるを弁ぜさる也。故に閨帷(ウチマク)修まらずして却て蕩子冶郎の為に3)ヒショウせらるゝ者多い矣哉。夫れ花柳の遊、其の来るや久し矣。故に名妓艶姫の跡(アト)、英将忠士と同じく千載に伝ふる者無慮数百名(カズナクヲゝイ)、多情の人有り、記して之を存するに非ず耶。



1) 緻=コマカ。「緻かい」は「こまかい」。音読みは「チ」。ぴたりと目がつまって、すきまがない、きめがこまかい。緻密(チミツ=こまかく詳しい)、精緻(セイチ=精確で細かい)。

2) カンプ=悍婦。気の荒い女。「悍」は「あらい」「つよい」とも訓み、和訓では「おぞし」「おぞましい」もある。悍驕(カンキョウ=気が荒くてわがままである)、悍室(カンシツ=気の荒い妻、悍妻=カンサイ=)、悍馬(カンバ=気が荒く荒々しい馬、あばれ馬)、悍勇(カンユウ=気が荒く勇ましい)、悍吏(カンリ=荒々しく心根の悪い役人)、悍戻(カンレイ=荒々しくて道理にはずれている、乱暴である)。

3) ヒショウ=鄙笑。軽蔑して笑うこと、嘲笑、嗤笑。「鄙」は「いやしむ」とも訓む。鄙近(ヒキン=いやしくて俗っぽいこと)、鄙吝(ヒリン=心が卑しくて度量が小さい、けちなこと)、鄙陋(ヒロウ=いやしくて見聞がせまい)、鄙猥(ヒワイ=いやしくてみだら)、鄙穢(ヒワイ=ことばや文章がいやしくて下品である)。



柳北が柳橋新誌を書こうと思った動機のようなものを綴ったところですが、前回、謝安石や白居易を持ちだしました。此の二人は政治家と文学者の代表ということだと思います。それぞれに風流を解していた達士才人であるが、いま見わたす限り男性諸君は細かい法律で縛ろうとするあまり、行動が縮こまっている。当然ながら、色街花街の風流の真髄を理解するべくもない。それでありながら、好き者には変わりなく下手に手を出して老獪な芸者女郎連中の手管に翻弄されてしまうことに気が付かないでいる。ここで柳北が言う「君子」は道を極めた為政者といった意味ではなく、単なる男を指すものと思われます。古来、花街の歴史は古く、名妓、美人の誉れ高き芸妓もその名が広く知られている。それは「多情の人」たちが記録に残しているから伝わっているのである。例えば……。



A)蘇小小の心、西陵の松栢と与に貞を表し、B)毛惜惜の節、淮海の波瀾と与に清を争ふ。C)緑珠の崇に於ける、其の恩に負かず。D)紅払の靖に於ける、真に奔る所を知れり。E)梵蓮香の坐臥するや、蜂蝶其の香風を慕ひ、F)高玲瓏の詩を唱ふるや、其の音定まつて玲瓏、G)顧媚の迷楼は巧みに詞客を迷了し、H)薛濤の彩牋は能く彩を書閣に呈す。I)葛蕊芳の烈操(ミサヲ)、J)李湘真の雅致(フウリウ)の如きは則ち全然(マツタク)女子に似ざる也。我が邦、往昔所謂白拍子(シラビウシ)なる者は亦妓也。K)千手(センジユ)の琶を鼓して重衡を羇館に慰め、L)静女の舞を奏して頼朝に幕府に屈せざるが若きは、皆是れ千古の情事百世の雅談、聞く者をして恍然惝然神飛び魂颺つて其の美に涎し其の情に泣かしむる者なり。世漓(ウスクナリ)し人齪(ケチニナリ)に、4)フウチ是の如き者今や則ち亡し。




4) フウチ=風致。自然や詩文などの、あじわい。おもむき。風情、風趣ともいう。




A) 蘇小小=南朝の斉の頃(5世紀の終わり頃)銭塘(現杭州)の遊郭にいたとされる才色兼備の名妓。「西陵の松栢」は蘇小小が詠んだ「歌一首」にある。永遠の偕老同穴を契ろうという女の念いが詠まれています。西湖の北西の西泠橋畔に墓があり、芥川龍之介の「江南遊記」にも「何しろ芸者と云う代りに、その後は蘇小と称える位だから」と書かれています。芸者の代名詞ににもなっているようです。ただし芥川はその墓については「土饅頭」などと扱き下ろしています。このほか、中唐の李賀に「蘇小小墓」の詩があるほか、白居易や杜牧ら超一流の詩人が漢所を題材に詩を詠んでいます。

B) 毛惜惜=南宋時代の名妓。宋史に「毛惜惜伝」あり。故国北宋への思いを捨てず「忠節」を守り通したことで知られます。

C) 緑珠=西晋時代の名妓。大金持ちの石崇の愛妾。美人で笛の名手。石崇が趙王司馬倫に捕らえられると、楼の上から飛び降りて自殺した。「紅楼夢」の五美吟という詩に出てくる。

D) 紅払(紅拂)=隋末唐初の時代、唐の太宗に仕えた宰相、李靖の愛妾。元は隋朝の権臣、楊索の侍女。いつも紅い払子を持っていたことからその名が付いた。「風塵三侠」が有名。

E) 梵蓮香=見当たらず。

F) 高玲瓏=見当たらず。

G) 顧媚=明末清初の妓女。文人・龔鼎孳と交際。

H) 薛濤=中唐代の女性詩人。女校書と言われる。蜀の四大才女(薛涛、卓文君、花蕊夫人、黄娥)の一人。当時の有名な詩人・元稹と詩の唱和をするほどの名妓として名を馳せた。8歳の時に詠じたという「吟梧桐詩」が代表作。「庭除市古桐、聳幹入雲中。 枝迎南北鳥、葉送往来風」。

I) 葛蕊芳=見当たらず。

J) 李湘真=見当たらず。

本邦でも平家源氏の時代の妓女である白拍子としては、平清盛の五男、重衡の愛妾であるK)千手と源義経の愛妾、L)静女(=静御前)が有名であると持ちだして、その悲恋物語は古来、「聞く者をして恍然惝然神飛び魂颺つて其の美に涎し其の情に泣かしむる者」と謳っています。





残念ながら、時間的制約と力量不足によって妓女の氏素性が把握できていません。慙愧の念に堪えませんが今回は中途半端で終えることをご容赦ください。いつの日か必ずやリベンジを果たす所存でございます。いずれにせよ、柳北の博識ぶりにはとても追いつかないところがあり、まだまだ己の未熟さと同時に精進の必要性を痛切に感じております。
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2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
2007.10 1級合格①
2009.2 1級合格②

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