スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

儒教の教え、謝安石の故事、白居易…う~む難解だぞ=「柳橋新誌」(13)

成島柳北の「柳橋新誌」(岩波文庫、塩田良平校訂)シリーズの13回目は、初編の最後のくだりとなります。風俗ライター宜しく柳橋の裏話を暴いてきたが、あまりにも露骨すぎるきらいもありました。冒頭では、いささかやりすぎたな、風流ではなかったな、と自省の弁が見えますが、それは、何よりも好奇心が旺盛でサービス精神も盛りだくさんであった柳橋の人柄が如実に出ていたからにほかなりません。溢れる才能の為せる業と言い換えてもいいでしょう。しばらくはまとめのくだりが続きますが、いささか長め。細分してじっくり味わいましょう。もののあわれを書きとどめた美文と言えると思います。ですが、かなり難解なくだりも多いです。



吁嗟(アゝ)、余柳橋の繁華を記する也歌妓の遊趣を説く也。而して徒に其の隠事を鑿ち其の醜状を露はす。是れ何等の殺風景ぞ、謂いつ可し今古無情の人也と。其の罪を才子佳人に獲る、亦知る可き耳。然れども余竟に真の無情の人に非ず、極めて多情の人也。多情にして無情の言を為すは、乃ち亦思ふ所有る也。思ふ所有る也。夫れ多情の事は何ぞ彼の蚩々(ワカラズ)蠢々(ウゴメク)の徒と語るべけん哉。風流の遊は亦何ぞ彼の齪々(コセコセ)営々(ケチケチ)の輩と偕にするを得ん哉。其の偕にすべく語るべき者は、則ち唯々天地間第一等の1)タッシ、古今来第一流の才子而已。タッシや才子や、安んぞ多く得べけん焉。故に此の無情の言を為して、以て彼の蚩々齪々たる者をして能く外面菩薩内心2)ヤシャの理を悟り、而して見て極楽世界とする者は、即ち是れ3)ムゲン(ムゲン)地獄たるを知つて一旦4)ハンゼンとして其の5)リュウレン6)チンデキの念を翻了(ヒルガヘシ)して、以て其の身を全うし其の家を保つを得せしめんと欲する耳矣。





1) タッシ=達士。広く物事の道理に通じた人。陶淵明の「飲酒」にも「達士解其会、逝将不復疑」とありました。達者(タッシャ)・達人(タツジン)ともいう。

2) ヤシャ=夜叉。インドの鬼神。恐ろしい顔かたちで、威力をもっている。梵語のyakşaの音訳。ここでいう「外面菩薩内心夜叉」は「笑面夜叉(ショウメンヤシャ=顔は笑っていても心の底に一物あること)」もありますので一緒に覚えておきましょう。笑面老虎(ショウメンロウコ)ともいう。

3) ムゲン=無間。無間地獄と用いて、「八大地獄の一つ。生前、五逆罪を犯した者や、仏法僧を非難したり、傷つけたりした者が絶え間なく苦しみを享けるというところ」。無限や夢幻ではないので要注意。

4) ハンゼン=幡然。「ホンゼン」とも読む。くるりと裏返しになること、ひらひらとひるがえるさま。翻然(ホンゼン)ともいう。「幡」は「のぼり」「はた」。幡幟(ハンシ=しるしのはた)。

5) チンデキ=沈溺。水におぼれる、苦しみの中にいる、ある習慣などにとらわれる。

6) リュウレン=流連。遊楽に耽ってなかなか家に帰らないこと、ある場所にとどまってよそへ行かないこと、人々が散り散りになること。



柳橋の裏話を書き記した自分の事を「無情の人」と言うかもしれないが、わたしほど「多情の人」はいないと言います。それではなぜかくも赤裸々な“柳橋ルポルタージュ”を書き記したのか?彼は「思ふ所有る也。思ふ所有る也」と二度繰り返しています。「多情の事」「風流の遊」の妙趣を分からない輩とは話をしたくない。批判する奴は勝手にしろと言いたい。目先の事にとらわれて齷齪するのみだ。柳北が本当にこの話をともに語り合いたいのは「天地間第一等の達士」であり、「古今来第一流の才子」だけなのである。なんとこうした物の分かる人が少ないことかと嘆くばかりです。わたしがこの柳橋新誌で書きたかったことは、ぼんくらな男性諸君に、一見華やかで極楽に見える世界も一皮むけば無間地獄であることを知らしめて、安易に遊びに溺れないように戒め、品行方正に暮らさせることにあるのだ。


然りと雖も浩々たる宇内(ヨノナカ)、豈一介のタッシ才子無からん乎。若し此の編をして誤つて其の人の手に落さしめば、乃ち亦将に余を目するに蚩々の徒を以てせんとする耶。余亦当に何の辞か以て之に対ふべけん耶。夫れ風月の情事花柳の遊趣、痴に似て而して痴ならず、俗に近くして而して俗ならざる、其の訳之を自得するに在る歟。香を蘭菊の7)に偸み珠を8)ケイヨウの淵に窃むに至つては、則ち周孔の9)イクンに非ずと雖も、亦焉んぞ目を10)らし髯を張つて11)ボツボツ爾として之を遠ざくる、暴慢12)ヒバイの若くするを得べけん哉。若し人臣をして謝安石の談笑中、能く百万の彊冠を挫いて、以て13)シャショクを存するが如くならしめば、則ち足れり矣。何ぞ其の東山の遊嬉を可否するを得ん乎。文士をして白居易の博識宏辞にして、名は史籍を照らし詞賦は海外に伝ふるが如くならしめば、亦足れり矣。





7) 叢=くさむら。集まり生えた草。「むらがる」とも訓む。音読みは「ソウ」。叢雲(ソウウン・むらぐも=むらがって集まった雲)、叢雁(ソウガン=むらがって飛ぶガン)、叢菊(ソウキク=むらがってはえた菊、むらぎく)、叢棘(ソウキョク=むらがってはえているいばら、牢屋のこと)、叢至(ソウシ=たくさんのものが一度にやって来る)、叢竹(ソウチク=むらたけ=むらがりはえている竹、たけやぶ、叢篁=ソウコウ=)、叢芳(ソウホウ=むらがり咲いている花、群芳=グンポウ=)、叢林(ソウリン=やぶや林、僧の集まっているところ、寺院、檀林とも)。

8) ケイヨウ=瓊瑶。美しいおびだま、腰につける玉。人からの贈り物・詩文・手紙などの尊称。「瓊」も「瑶」も「たま」。瓊筵(ケイエン=玉で飾った美しい敷物、はなやかな宴席に喩える、瓊席=ケイセキ=、瓊座=ケイザ=)、瓊枝玉葉(ケイシギョクヨウ=玉の実がなるという珍しい木と、玉のように美しい葉、皇族の子孫の喩え)、瓊觴(ケイショウ=玉でつくった杯、瓊杯=ケイハイ=)、瓊葩(ケイハ=玉のように美しい花)、瓊楼玉宇(ケイロウギョクウ=月の中に在るという美しい御殿)。

9) イクン=遺訓。死後に残した教え。遺勲は後世にまで残った立派なてがら(遺功)。このほか、貽訓、彝訓、詒訓もあります。

10) 瞋らし=いからし。「瞋らす」は「いからす」。はげしくいかること。音読みは「シン」「テン」。瞋怒(シンド=目をむいて怒る)、瞋恚(シンイ=自分の心に反するものを怒り恨む)、瞋目(シンモク=怒ってめをむく、めをいからす)、瞋目張胆(シンモクチョウタン=大いに勇気をうちふるうさま)。目偏ではなくて口偏の「嗔」もほぼ同義です。

11) ボツボツ=勃勃。盛んなさま、あふれているさま、身軽ですばやいさま、かおりのよいさま。「勃然」ともいう。勃爾。急に物事が盛んになるさま。勃焉とも。

12) ヒバイ=鄙倍。心がいやしくて道理にそむくこと。「倍」は「背く」の意。論語・泰伯に「出辞気、斯遠鄙倍矣」があり、ここが出典です。

13) シャショク=社稷。土地の髪と五穀の神。昔は国の守り神として必ず祭った。転じて、国家のこと。




ところが、今、周りを見渡しても本当に達士才子と呼べる人が何と少ないことか。そうではない連中がこの書を手に取るとまた嘲笑うのであろう。そんな連中にはこう言うのだ。

「夫れ風月の情事花柳の遊趣、痴に似て而して痴ならず、俗に近くして而して俗ならざる」――。

「痴」でありながら「俗」であありながら、それでいて「痴」でも「俗」でもない世界。それが柳橋なのであると。

「香を蘭菊の叢に偸み珠を瓊瑶の淵に窃む」、香や珠を盗んでしまったら、それは儒教の教え(周孔の遺訓とは「周孔之教」のことで「周公と孔子の教え、儒教をいう」)に背くことになる。これは当然誰の目からしてもいけないことで避けなければならないだろう。

次に出て来る「謝安石」(320~385、東晋の政治家)の故事はやや難しい。というか、前後のつながりが今一つ判然としません。「談笑中」というのは、当時、北部の秦の国王苻堅が兵を率いて南に侵攻した時、謝安石は征討大都督だったが、彼の甥建武将軍謝玄とともに戦い、その百万の秦軍を肥水において撃破しましたのですが、彼が客と囲碁を打っていたさなかに大勝利したことを聞いたことをいう。「百万の彊冠」とはこれを指します。謝安石は一流の文化人であったのですが、若い頃は、東山で王羲之らと清談に耽っており、出仕は遅かったのです。「東山の遊嬉」はこの清談していたことをいいます。それはいいのですが、柳橋の遊びとどう結びつければいいでしょうか。謝安石のように敵の大軍に勝利して国家を守ることができれば満足だろう。

さらに、続いて白居易のことが出て来るのですが、これもよく分かりません。白居易のように歴史に名を残し、詩人としての名声が中国以外にもに轟くことができれば文士は満足だろう。??なんのこっちゃ?ここは本当にうまく解釈ができません。柳橋の何をいいたい譬えなのでしょう。難解です。
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

profile

char

Author:char
不惑以上知命未満のリーマンbloggerです。
言葉には過敏でありたい。
漢検受検履歴
2006.3  漢字学習スタート
2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
2007.10 1級合格①
2009.2 1級合格②

calendar
05 | 2017/06 | 07
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 -
recent entry
recent comment
category
monthly archive
search form
RSS links
links
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。