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興味津津?芸者の「巣穴」での生態を探れ!=「柳橋新誌」(8)

成島柳北の「柳橋新誌」シリーズ(岩波文庫、塩田良平校訂)は8回目です。今回は、芸者たちの表の仕事場ではない、プライベートな生活の実態をルポしてくれます。興味津々?同書28頁から書き写します。やや長いので小分けにいたします。あたかも動物の如く「巣穴」と称し「スミカ」の戯訓が付されています。言い得て妙なる哉。妙なる哉。。。



橋の南、右折(ヘマガレバ)同朋街(ドウホウマチ)為り。乃ち妓の巣穴(スミカ)。其の北にして裏岸(ウラガシ)、南にして広巷(ヒロコウジ)、1)シッピして居る。街居表裏(ヲモテウラ)有り、熱(ハヤ)する者表に居り冷なる者裏に居る。其の家為る、貧富差(イロイロ)有り、然れども太だ其の趣を異にせず。外(ソト)に格子(カウシ)戸を掩ひ内に方火桶(カクヒバチ)を安ず。桶潔(キレイ)にして塵無し、鉄瓶の駕(ノル)する2)鉄瓶濯濯(ツヤツヤ)たり。暖灰鶴鶴(シロイ)たり。妓桶側(ヒバチ)に在るも、3)と倦んで昼眠る。大抵妓皆4)驕恣    )5)懶惰   )、断じて女工(シゴト)を為さず。絃歌を調(サラヒ)し脂粉を塗るの余(ホカ)、一事を為さず。然れども神仏を拝祀するに至つては乃ち皆勤む焉。棚(タナ)を作りて神位を設く、金毘羅有り帝(タイ)釈天有り不動尊有り、其の禱る所に随つて異り、棚上必ず6)一茎の金陽(インギ)物を安ず(カザル)。




1) シッピ=櫛比。くしの歯のように、隙間なく並んでいるさま。「詩経」周頌・良耜の「其比如櫛」に由来する。「櫛」は「くし」。櫛笥(くしげ=くしなどの化粧道具を入れておく箱、匳・匳)、櫛櫛(シツシツ=くしの歯のように並んで続いているさま)、櫛梳(シッソ=髪をくしけずる)、櫛風沐雨(シップウモクウ=風に髪の毛をさらしてくしを入れるかわりとし、髪に雨をかぶって髪を洗ったこととする、風雨にさらされて、苦労すること、目的を達成するために世の中で非常に苦労すること、風櫛雨沐=フウシツモクウ=ともいう)、櫛沐(シツモク=髪をくしけずりゆあみする)。「比」は「ならぶ」とも訓む。

2) 攸=ところ。動詞の前について、その所、そのものなどを指し示すことをあらわす古代のことば。

3) 於=ああ。感嘆語。於戯(オギ)、於乎(オコ)、於穆(オボク)も「ああ」。於邑(オユウ=悲しみの為気持ちがふさがる、於悒)、於莵(オト=虎のこと、「春秋左氏伝」宣公四年にみえる楚地方の方言、於菟)、於是(オシ・ここにおいて=そこで、この時にあたって)。

4) 驕恣=わがまま。戯訓です。「キョウシ」。驕肆とも。おごりたかぶりほしいままに行動する。

5) 懶惰=なまけ。戯訓です。「ランダ」。懶慢(ランマン)とも。ものぐさで、だらしない。

6) 一茎=イッケイ。「茎」は、草や細長いものを数える単位の言葉。ここでいう「金陽(インギ)物」は今一つ不明ですが、棒状に立てて置く縁起物か何かでしょうか。陰茎(インケイ)=男根。いろいろ調べてみたら、「金精神」(コンセイジン)というのがこれに当たるようで、広辞苑によると「男根に似た自然石または石製・木製の陽形をまつった神」。懶惰な裏返しなのか、やはり男を象徴する神様にもすがっている。もちろん、商売繁盛を願っているのでしょうが、芸者の本音が垣間見える描写ですね。



「同朋街」というのが芸者たちのプライベートな空間。表と裏があって、人気芸者の家は表。不人気者は裏。入れ替わりはあるようですが、家そのものの造りは大体似たり寄ったり。格子戸があって小奇麗な火鉢の上にはツヤツヤぴかぴかの鉄瓶が載っている。億劫がる芸者連中はとくにすることもなく昼寝三昧。三味線の練習か、白粉のノリチェックか。ただし、宗教信仰には篤い。神棚には「金毘羅」「帝釈天」「不動尊」の仏像が祀られ、金精神はマストアイテムだという。



而して小縄を其の傍(ワキノ)柱(ハシラ)に繋け、紙を7)つて之を縛(シバル)す、累々(ゴチヤゴチヤ)として下る。蓋し客の纏頭(ハナ)する所、諸を帯に挿み帰つて其の金を裸(ハダカ)にし、其の紙を拈つて以て之に縛する也。謂ふ、此の如くすれば則ち能く其の伴(トモ)を招(ヨブ)くと。其の意蓋し人に誇るに能く售れるを以てする耳。妓の仏に事ふる者神に事ふるより倍す、必ず其の宗祖(シウシノソ)を主とす。而して妓の家十の九は則ち日蓮宗也。崇敬(シンカウ)の牢固(カタマリ)なる、常人に比すれば一着を贏す(イチダンヒドイ)。蓋し自己平素(ジブンツネニ)為す所8)詐譎  )9)貪惏    )、罪業(ゴウ)甚だ重し。故に10)ソシの力を仮りて死後地獄に陥らざらんことを欲する而已。余謂ふ、彼の身即ち地獄、別に地獄有らん乎。彼日蓮宗為りと雖も、而も其の魔方幻術(アクホウテダテ)は耶蘇宗(キリシタン)と雖も及ぶこと能はずと。





7) 拈つて=ひねつて。「拈る」は「ひねる」。指先でつまんでひねる、ひねってとる。「ひねくる」の和訓もあり。音読みは「ネン」。拈香(ネンコウ=法会などで香を指先でつまんでたたく、焼香)、拈出(ネンシュツ=ひねり出すこと、出そうもない所から金銭を、無理して出すこと、捻出)。

8) 譎詐=うそ。戯訓です。偽ってあざむくとの意で、音読みは「ケッサ」。「譎」は「いつわる、わなにかけてだます」の意。譎詭(ケッキ=いつわってあざむく)。

9) 貪惏=よくばる。戯訓です。非常に欲張るという意味で、音読みなら「タンラン・ドンラン」。「貪婪」とも書く。「惏」(ラン)は「むさぼる、次々ときりもなく欲しがる」の意。「リン」と読めば、「つめたい、ぴりぴりとするほど冷たい」の意。

10) ソシ=祖師。その流派の宗旨を開いた僧、あるいは釈迦をいう。あるいはここでは、日蓮を指すかもしれません。




神棚の脇の柱には小縄をわたしてあり、そこには紙が何枚も拈って吊るしてある。客からせしめた「纏頭」(給金とは別に、客が下心丸出しで差し出す「心付け」のお金)を紙ごと丸めてあるという。何かの“御呪い”で「良い御縁がありますように」との願掛けにもなっているというが、流石の柳北はその本音を見抜いています。「蓋し人に誇るに能く售れるを以てする耳」。すなわち、自分がいかに売れっ子であるか、一目で分かるようにするのが狙いだという。な~る。紙がたくさんぶら下がっていれば、それだけ客から纏頭を数多くもらったことの証明ですか。見栄っ張りですな。

芸者連中の信心深さは、神よりも仏が多い。しかもほとんどが日蓮宗だという。その盲目的な信仰ぶりは尋常ではない。この真意をも柳北は見透かしている。「自己平素(ジブンツネニ)為す所譎詐(ウソ)貪惏(ヨクバリ)、罪業(ゴウ)甚だ重し。故に祖師の力を仮りて死後地獄に陥らざらんことを欲する」。日頃、甘言、阿諛便佞を弄し、客を騙し誑して、金をせしめていることに“負い目”のある芸者連中だから、死後に地獄に落ちぬよう生きているうちから精一杯仏様におすがりしているだけなのだ。ところが、柳北はさらに達観しています。彼女らが生きていることこそ地獄なのだから、これ以上の地獄などありはしない。日蓮宗を信仰しようとも、自分たちの魔術の罪深さはキリスト教にすがろうとも到底脱することは出来まい。。。。そこまで言わんでも宜しかろうに。

ところで、芸者の信仰ぶりがについて形容した「一着を贏す(イチダンヒドイ)」というのは興味深い表現です。「贏」は「かつ」「あます」。ここの「着」は判然としませんが「碁の一手」をいうか。とすると、「一手をあます」の意で「(相手に先に「参りました」と言わせるように自分の一手を打つ必要のない)勝つ状況にある」ということでしょう。対義語は「輸」(まける)。「輸一籌」(イッチュウをユす=勝負に負ける)は、お馴染み必須の成句です。



凡そ妓の家、父有る者十の一、夫有る者百の一、大概妓と母と二人にして居る。猫若しくは猧(チン)児一を養(カウ)ふ。併せて三口にして妓は善く11)コビし母は12)   )にして衣す。猫や猧(チン)や必ず道はん、母子皆吾が族(ナカマ)、何ぞ独り我を獣視するやと。獣の穴に入つて獣と13)るゝ者、之を獣と謂ふも亦可なり。而して獣為る者亦多い哉。客至る、老貉(ヲフクロ)急に酒殽を呼び談笑諛(セジヲイウ)を呈す。或は客の服飾態度(ナリフリ)を賛(ホメ)し或は児(アレガ)の恋々瞻望(ヲマチマウシテヲリマス)するを説く。雑ゆるに家の窮乏(コマリゴト)を以てす。喃々喋々(ペチヤクチヤ)、興熟し酒涸るれば乃ち客を促し楼(ニカイ)に上つて睡らしむ。楼は則ち嬢子粧飾(シマヒ)の処、14)奩具伍列(ヲツクリドウグナラブ)す。楼無き家の若きは太だ便を虧く(ツガウワロシ)。客睡らんと欲する時に及んで老貉事有りと称して出て之を避(ハズス)くと云ふ。




11) コビ=狐媚。上手く言って人にこびへつらう。とくに、女性が男性をたぶらかすこと。狐媚猫馴(コビビョウジュン=キツネやネコのように馴れなれしく振舞って人にうまくとりいってだますこと)。

12) 貉=むじな。タヌキ、アナグマの俗称。「狢」とも書く。

13) 狎るゝ=なるる。「狎れる」は「なれる」。人と親しくする。近づきになって遠慮をしないようになる。なれなれしくする。馴染む。音読みは「コウ」。狎客(コウカク=親しくつきあっている客、遊里に遊ぶ客、馴染みの客)、狎昵(コウジツ=なれ親しむ)、狎弄(コウロウ=なれてあなどる、狎侮=コウブ=)。

14) 奩具=レング。柳北の戯訓は「オツクリドウグ」。すなわち、化粧道具を入れる箱、化粧箱のこと。「奩」は「匳」の異体字。「はこ」とも訓み、「特に化粧品や小物を入れる容器」。香奩(コウレン=香を入れるはこ)、鏡奩(キョウレン=鏡や化粧品を入れるはこ)。

「猧」(ワ)は「仔犬」。「ちん」は「狆」の方がポピュラー。「酒殽」(シュコウ)は「酒肴」のことで「さけのさかな」。「殽」は「おかず、皿の上に交差させて並べる料理」。殽核(コウカク=骨付き肉と木の実、酒のさかなのこと)、殽烝(コウジョウ=俎に載せた、味付けした骨付きのむし肉、贅沢な御馳走をいう)、殽饌(コウセン=酒のさかな、転じて、料理全般、酒宴の意も)、殽乱(コウラン=まじって入り乱れる、殽雑=コウザツ=)。



ここは芸者の家族構成を説明しています。父親と同居しているのは10%、夫が居るのは1%。ほとんどが母親と二人暮らし。まあ、猫や仔犬といった愛玩動物を飼っているケースも多い。今の風俗で働く女性の先駆けとも言えるでしょう。柳北は「猫や猧(チン)や必ず道はん、母子皆吾が族(ナカマ)、何ぞ独り我を獣視するや」と動物の心中を慮って、喩えれば、芸者は狐、母親は貉だという。いずれも男を騙すのが性分だというのでしょう。いやいや、この家に入ってくるものすべてが動物だという。よって客だって動物だ。老貉である母親は、客の訪れを大歓迎する。さあさあ旦那、うちのあれも待ち焦がれておりました。ささ、……、愚痴をこぼすやら、窮状を訴えるやら、御喋りが止まらない。ちょうど二階で支度が整ったころに、さあお上がり下さいましな。楼、つまり二階の部屋は芸者と客が“過ごす”部屋なのです。二階の無い家は大層不便なのです。そして「客睡らんと欲する時に及んで老貉事有りと称して出て之を避(ハズス)く」。母親は気を利かしてか、ちょうど娘の“お仕事”中は席をはずすというのです。ただ、単に居た堪れないだけなのではないかと邪推いたしますが。。。




蓋し狎客家に在れば則ち他楼(ホカカラ)の招き有りと雖も、辞(コトワル)するに疾ひ若しくは在らざる(デマシタ)を以てす。余が友、愛篁子嘗て余に語つて曰く、妓の家に就いて遊ぶ、迥かに船宿15)シュシの費多く眼多きに勝る。然れども亦是ならざる(ヨクナイ)所有り、妓の貪は忍ぶべくして婆(オフクロ)の貪は忍ぶべからず、況や婆にして妬(スコシヤク)を帯ぶる者有り、是れ最も怖る可き者と。然れども一概に論ずべからず。妓の客を家に引く、其の財を利し船宿を攘(ノケ)却して、己が欲を逞しうするを謀る者有り、其の人を愛し徒に資を船宿に失はしめずして永く16)を17)ぶを欲する者有り。而して妓宅の遊び諸を他楼に比ぶれば、費少くして事密に情濃かにして交り久し矣。18)カサクなりと謂ふべし。故に妓も亦其の人の身上意内(カラダココロダテ)を洞察するに非ざれば則ち引かず焉。





15) シュシ=酒肆。居酒屋、呑み屋。「肆」は「みせ」。酒廛(シュテン)、酒舗(シュホ)、酒舎(シュシャ)、酒戸(シュコ)、酒家(シュカ)ともいう。

16) 好=よしみ。仲の良い関係、つきあい。表外訓みです。「よしみ」はほかに、「媾、誼」とも書く。好誼(コウギ=好意によって生じた親しみ、よしみ、交誼・友誼)。

17) 締ぶ=むすぶ。約束をむすぶこと。表外訓みです。締盟(テイメイ=ちかいをむすぶ、約束をとりかわす、対義語は寒盟=カンメイ=)、締姻(テイイン=夫婦の縁を結ぶ、対義語は破鏡=ハキョウ=)、締交(テイコウ・まじわりをむすぶ=交わりをむすぶ、交際する、対義語は絶交=ゼッコウ=)。

18) カサク=佳策。よきできたすぐれた作戦。「佳作」は引っ掛けですが、「作」を「作品」ではなく「作戦」と読むことができるかどうか。



アポ無しの客のバッティングはよくあることですが、馴染みに旦那が最優先であるのは当たり前。他からの召集があっても、「病気ですから」「別件に出ておりますから」の断りは常套句。親愛なるマイフレンドに聞いたことがある、と柳北が次に記しているのは、この母親を演じる老貉のことです。友は言う。確かに、船宿で遊ぶと値段は張るし人の目も多くて思いっきり遊ぶにはちと骨が折れる。しかし、個別の家を訪ねるのも考えものさ。本人が欲張りなのは我慢するとして、母親は目に余るさ。しかも、嫉妬深いときた日には最悪だとさ。しかし、そうそう言うなよと柳北は諫めます。船宿の出張らずに家で客を迎えるというのは、彼女たちにとって大きなメリットがあるから。末長いお付き合いをしたいのだよ。自分だけのダーリンを手放したくはないのさ。だけど、客にもメリットはあるだろ。費用は安いじゃないか。接待も濃密だし。いい塩梅だろうよ。だから、芸者衆も客の身も心もすべて分かればごちゃごちゃ言わなくなるのだ。う~む、達観しておりますな、柳北先生。。。
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Author:char
不惑以上知命未満のリーマンbloggerです。
言葉には過敏でありたい。
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2006.3  漢字学習スタート
2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
2007.10 1級合格①
2009.2 1級合格②

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