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リスク取らぬ国家に未来無し=ビジョンつくり行動を―富翁の「長策」(下)

明治初期の「朝野新聞」社長・成島柳北が掲載したコラム、「富翁ノ長策」(近代デジタルライブラリーの「柳北全集」から)後半の「転」と「結」です。大金持ちでありながら貧乏暮らしをする富翁が妻孥に示した不可解な行動。ありったけの紙幣を見せるだけ見せて今にも豪邸を建てんばかりの勢いでありながら、勝手に「火事だ、火事だ」と紙幣をそそくさとしまい込みました。一体、何がしたいのでしょう。驚きの余り訝ることすらもできない妻と子供に語り始めた衝撃の狙いとは…?そして、柳北がこの奇聞で言いたいこととは何?

「転」

翁先ヅ金函ニ鎖ヲ下ダシ、而後襟ヲ正シウシ徐々妻児ニ諭シテ曰ク、卿等試ニ14)シイセヨ、夫レ資金有テ15)タイカ高楼ヲ築クハ、何レノ時ヲ問ハズ16)トッサニ弁ズ可シトス、然レドモ一朝火発セバ17)キョマンノ費忽チ化シテ18)カイジント為リ了ル、若シ金ニシテ函中ニ蔵メ、時々出ダシテ絶美ノ邸宅ヲ我ガ前ニ起コシ、緩急有レバ忽チ一掬シ去テ之ヲ函中ニ収ムレバ、千百年を経ルモ豈火災ヲ憂ヘンヤ、之レ19)乃公ノ長策ナリ妻児答フル能ハズ、長嘆大嗟シテ止ミシト是我ガ親シク見聞セシ一奇事ナリキ、



14) シイ=思惟。おもう。深く考える。「シユイ」と読めば、仏教語で「心を一心にこらして静かに自分の心を考察すること」。≠弑、恣意、緇衣、四夷、徙倚、尸位、祗畏、脂韋。

15) タイカ=大廈。大きな建物。「厦」は「いえ」。広廈万間(コウカマンゲン=なん間もあるような広いいえ)、大廈高楼(タイカコウロウ=豪壮な建物のこと)。

16) トッサ=咄嗟。物事の急なこと、またたくまであること。

17) キョマン=鉅万。金銭や財産などが非常におおいこと。「巨万」でももちろんOKですが、やはりこちらを押さえておきましょう。「鉅」は「おおきい」とも訓み、鉅公(キョコウ=天子、偉大な人物のこと)、鉅卿(キョケイ=年長者を尊敬していうことば)。

18) カイジン=灰燼。灰と燃えさし、燃えかす。転じて、物が焼けてすっかり滅びてしまうこと。「燼」は「もえさし」とも訓む。燼滅(ジンメツ=燃えてなくなる、滅びて絶えること)、燼余(ジンヨ=燃え残りのもの、戦争や戦災のあとに生き残った人々)。

19) 乃公=おれ。目上の者が、目下の者に対して自分をいう自称のことば。「ダイコウ」とも読みますが、ここはやはり「おれ」でしょう。乃今(ダイコン・いま=このごろ)、乃者(ナイシャ・さきに=以前に)。




翁の言い訳がましい弁がふるっています。

「いいか、豪邸なんてものは建てようと思えば金があればあっという間さ。なんてことない。ところが、ひとたび火事が起こってごらんよ。これもあっという間に家も金もおじゃんだ。だから、金庫に金をしまっておいて、いましがたやったように時々出しては並べて家を建ててつもりになって、『火事だ』と言ってはすぐにしまう。何年たとうが火災の心配はいらんよ。これがおれさまの先を見通した“長期ビジョン”だよ」。

啞然とするしかない妻孥の二人。こっちは長~い溜息しか出なかったとさ。。ちゃんちゃん。



「結」

今ヤ世ノ国会ヲ興シテ公議輿論ニ従フ可シト談論スル者多シ、而シテ其ノ弊害有ランヲ憂慮スルヨリ、未ダ容易ニ之ヲ行フ可カラズト為ス有リ、焉ンゾ知ラン其ノ憂慮スル所或ハ此ノ富翁ノ火災ヲ畏ルルト20)ドウテツナラザルヲ、若シ火ヲ万一ニ失スルヲ憂慮セバ、則チ翁ハ死ニ至ル迄長ク醜陋ナル家屋ニ栖止シテ止マンノミ、是レ果シテ長策カ、余輩ハ之ヲ知ラザル也吁



20) ドウテツ=同轍。同じ車の輪の跡。同じ方法、同じ振る舞いのこと。「轍」は「わだち」。轍迹(テッセキ=物事が行われたあと)。




「今ヤ世ノ国会ヲ興シテ公議輿論ニ従フ可シト談論スル者多シ」。柳北は富翁の例を持ちだして国会開設を求める自由民権運動に与しようとしていたのです。国民の要求に対して明治政府は、「失敗したら大変なことになる。時期尚早だ」と及び腰。柳北は、「火事が起きてもいないうちから火事の心配をするのでは翁が死ぬまでみすぼらしい家で暮らすしかないのと同じことではないか」と指摘します。国の体制が変わったのだからやってみたらよかろうというのでしょう。既得権益を開放したくない思いが見え見えだから、失敗の懸念を言い訳にするなと突き付けている。

御一新とはかくまで保守的なことではあるまい。権力が徳川から薩長土肥に遷るだけが維新ではないだろう。徳川を政権から落とすことが目的だったのか?苟も政権を担ったのであるなら、自分たちだけの「狭い世界」にとどまらず広く国民一丸で国づくりを進めようという体制を構築してこそ、本物の国家と言えるのではないか。権力から転落した人ならではの意見でしょう。

「長期的に視野に立ってリスクを取る」とは何かを柳北は問うたのです。富翁のように「リスクを取らない」ことが「長期ビジョン」だと言われて、それが通ってしまっては何も始まらない。いや、もう既に終わっていると言えるでしょう。百数十年以上も前に柳北が指摘したことは、現代社会でこそ改めて噛み締める必要があるのではないかと考えます。ビジョンとマニフェストを混同している民主党政権に、このお話を聞かせて背中を叩こうではありませんか。権力が自民党から民主党に遷るだけが政権交代ではない。政権を握ったのなら、見えない敵に恐れる前にリスクを取って自ら動け。動くためのビジョンをつくれ。そして、国民を動かせ。狭い世界にとどまらず国づくりを国民一丸となって進めよ。この国はもはや富翁が栖み続けた「醜陋ナル家屋」と化しつつあるのですから、急がなければならないのです。
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2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
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